第29話 テニス

 次の週末、俺たちは公園内にあるテニスコートに来ていた。

 妹の話によれば、中学の大会などもここのコートを使うこともあるらしい。


 コートは4面あって、その一つを借りることができた。

 俺たちの他は女子大性のグループが一組居るだけだ。

 それにしても……。


「メグミ、なんか本格的だな」


 メグミはテニスウエア姿だった。

 俺の言葉に反応して、くるりと1回転。

 腕も足も肌がそれなりに露出していて目のやり場に困る。


「ウエアペアにすればよかったですね。気がつきませんでした。あっ、見惚れてます?」

「……そういうことを言ってるんじゃない。卑怯な」

「今日は凄く有利な気がします。ハンディ貰いすぎですね」

「何の勝負をしてるんだ……」

「メグミさん、似合ってるな。あたしも試合用の着てくればよかった」

「明子ちゃんもジャージ姿で十分可愛いですよ。さて、準備運動して始めましょうか」


 メグミと明子がラリーを始める。

 そのボールは明子がラケットを構えるところに何度も何度もピンポイントで打ち返していた。


(すげっ……)


 経験者だというのはそれだけで一目瞭然だ。

 明子も俺が思っていたよりも随分と上手だな。


 俺はといえばそんな2人に時々混ぜては貰った。

 ラケットにボールは当たるがそれが遥か彼方へと幾度も飛んでいく。

 妹にホームランと揶揄われる始末。


「くっ、難しいな……」

「ラケットの面が上を向いちゃってますね。少し寝かせて。そうです、力は入れなくていいので、素振りをする感覚で振ってみてください。こんな感じでラケットを持ってくるイメージです」

「ちょ、いいから触られるとくすぐってえ」

「ふっ、今はコーチなので。それに彼女ですよ。触ってもいいじゃないですか……」

「妹が、妹が見てるから! 卑怯すぎだろ」


 そんなメグミの助言と共に少しずつコート内にボールが返せるようになっていく。

 そうなると段々と楽しくなってきた。

 メグミも楽しそうで、その姿をみれば俺も何だか嬉しくなる。


「メグミさん、お兄ちゃんばっかりコーチしてないであたしはどうすれば?」

「すいません、つい楽しくて……えっと、明子さんはレシーブゲームを何とかしたいんでしたよね?」

「はいっ」

「それじゃあサービスしますからいつもの感じでやってみてください」


 明子の動きを見て、すぐにメグミは助言を開始した。

 もう一歩だけ後ろにとか、打ち返すのはなるべく相手の位置よりも遠いラインにとか、そんなふうなことだったように思う。


 その助言を受け、水を得た魚みたく明子は何か掴んだようでメグミの球を打ち返してはそれを反復していく。


「なあ、テニス歴長いの?」

「翔太君と離れ離れになってからですから、長いですね。母がやっていたので、スクールには月に数回通っていました。大会などにも出たことはあります」

「そっか。たまには体を動かすのもいいな」

「そうですね。私よりも長生きしてほしいので、翔太君はもう少し運動した方がいいと思います」

「……そういわれると返すことが難しいな、つまり卑怯だ」

「ふふっ、やはり今日は私の方が有利」

「口調!」


 午前中は清々しい風と少しあたたかな日差しのもとで汗を流した。

 明子も自信を付けたようで、次の試合が待ち遠しいようだ。

 懐かしい感覚だった。

 3人で遊んだのはもうずいぶんと昔のことだけど、こうしていると幼いころを思い出す。


「いい顔してますね、翔太君」

「そっちこそ……」

「私は翔太君と一緒ならいつでも楽しいですよ。あら、顔が赤いですね」

「っ! やっぱり卑怯な……」

「ぐうの音も出ないですね。さて午後は買い物に」

「……こうやって三人で出掛けるのも久しぶりだし、誕生日とかじゃないけど何か記念にプレゼントするから」

「っ! そういう不意打ちは超卑怯!」


 軽いグーパンチで脇を叩かれる。

 どうにもやられたらやり返さないと気が済まない。

 だけどこういう仕返しなら、俺たちらしくていいよな。

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完全無欠のハーフ美少女が俺の前でだけ残念な失敗を繰り返す件~喧嘩別れした幼馴染だと気付いたのでひたすら甘やかしたらデレデレになりました~ 滝藤秀一 @takitou

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