第24話 再会出来た幼馴染に

 メグミと出掛けた翌朝はなんだかぼっーとしていた。


「お兄ちゃん、それ、ブラックコーヒーだよ」

「えっ、ああ……」


 通りでいつもより苦い気がした。


「なにぼっーとしてるの? ちょっと貸して」


 世話焼きの妹は、砂糖とミルクを大量に入れたものを俺に渡してきた。


「甘いことがあったみたいだから、普段より砂糖多めにしておいたよ。それを飲みほしてしゃきっとしよう。ここからが勝負だよ、お兄ちゃん」

「おまえ、見ていたかのように言うなよ……」

「嬉しいことがあったんだろうなっていうのはわかるよ。あっ、顔が赤くなった」

「……はやく食べろ、朝練に遅刻するぞ」



 そんな妹との朝食だった。

 焦る必要はない。ゆっくりと支度して登校すればいいのだけど――

 もはや日課ともなりつつある妹と一緒に家を出る。


「お兄ちゃん、今度匂いフェチの彼女さんに会わせてね」

「ああ……って、彼女って言ってないよな?」

「ははっ、顔にかいてあるよ……行ってきます」

「……車に気を付けろ」


 大きく息を吐いて、俺もメグミのマンションへと向かう。

 考えてみれば今日が一緒に登校する初めての日だ。

 学校に行くのが、久しぶりだと感じる。

 昨日のことを思い出しただけで、いつもよりも緊張の度合いを増しながら目的地に向かった。



 マンションの前にはメグミとなぜか鎧塚さんが立っていた。



「Bonjour、翔太くん」

「Bonjour、武井さん」

「名前」

「……メグミ」


 彼女の名を口にしただけなのに、鼓動と体温が増した気がした。

 恥ずかしくて目を逸らしてしまう。

 恐るべし、名前呼び。


「呼んだ、呼んだ! よかったね、お嬢さま」

「鎧塚さん、口調が……」

「おほん、失礼しました。では翔太さま、お嬢さまのことよろしくお願いします」


 少し吹き出しながらも、俺たちに笑顔を作り鎧塚さんは駅の方に歩いていく。


「早苗、昨日は泊まったんです」

「そ、そうなんだ」

「……名前だけでそんなに照れてしまうと、徹底的にからかいたくなってしまいますね」


 メグミはだらしなく口元を緩め魅力的な笑顔を向ける。


「卑怯」


 朝からやられっぱなしはよくないよなと思い――


「きょ、今日のツーサイドも、似合ってるぞ」

「なっ、そっちこそ、ひ、卑怯な……」

「髪型を誉めただけで、そんな顔を赤くするとかまいたくなる」

「も、模倣するとは、なんて卑怯」

「朝っぱらから熱くなってしまった……たしか、待ち合わせって30分後だったはずだけど」

「……待たせると、翔太君に卑怯なことを言われると思いまして。待たせなくても言われてしまいましたが」

「読まれていたか」

「……少し早いですが遠回りして行きましょう」


 特に昨日までと変わることのない関係だった。

 何か特別なことを仕掛けてくるんじゃないかと身構えていたので、少々肩透かしを食らう結果になりながら通学路を歩く。


 手を繋ぐこともなく、特に変わったことはない。

 だからこそ学校が近づいてくるころには、油断してしまっていた。




「知っていますか? 幼馴染同士が結婚する確率って2パーセントなんだそうです」




「はっ?!」


 幼馴染同士が結婚する……

 そんなパワーワードを言われるとは微塵も予想していなかったこともあり、焦りと恥ずかしさでうろたえてしまった。


「幼馴染同士が結婚する確率って2パーセントなんだそうです」

「け、けっ、結婚! 2回も言わないでくれ」

「聞こえなかったのかと……どうしましたか? 顔が赤いですよ」

「……そっちこそ、赤いぞ」

「翔太くんと私って幼馴染ですよね?」


 メグミはしてやったりの魅力的な笑顔で、んっ? と小首まで傾げている。


「そ、そうだな……」

「大好きと言ってくれたのは誰でしたっけ?」

「超卑怯……」

「楽しい!」


 どうやら再会出来た幼馴染に俺は敵いそうにない。

 教室ではなにを仕掛けてくるのか、わくわくしながらの1日が始まる。

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