第15話 支援担当者
武井さんのマンション隣のカフェ。
そこで俺は武井さんのマンション前で出会った女の人と対面していた。
「自己紹介が遅れました、
差し出された名刺には、
武井グループ――俺でも知ってる一流企業だった。
だが、気になるのはその下の方で――
「あの、俺は」
「松井翔太様、ですね?」
「えっ、俺を知ってるんですか?」
「はいっ。わたしはお嬢様が小さいころから、武井グループ内にある保育園に勤務していました。そしてお嬢様が翔太様と別れたころ、専属で支援担当になりました」
「な、なるほど……あのう、担当になったころ、ケイは、いえ武井さんはどんな様子だったんですか?」
聞きたい欲を抑えられずに言葉が出てしまう。
なんだか武井さんに悪い気もした。気持ちをごまかすようにアイスティーに口を付け言葉を待った。
「それはもう、手が付けられないくらいに大荒れでした。一晩中泣くことは当たり前で、食事をとることもせず、塞ぎこんでいて……」
それは自分と全くと言っていいほど同じだった。
フルネームも知らない遊び友達だったけど、その存在は大きくて、だから会えないとわかってからは、どうしようもない淋しさが一気に押し寄せて心は荒んだ。
別れ方も最悪だったし、後悔の念が強くて――
だから再会できて、ほんとに嬉しくて……気を抜くと泣いてしまいそうだ。
「文句もすごく言ってましたね。ぷっ、くふふ、すいません。思い出すと可愛くて……」
鎧塚さんは真面目に見えて、茶目っ気がありそうな印象を受ける。
それは俺にとっては好印象で、笑顔も素敵だった。
「あのう、俺も、そのしばらくは泣いていたし、塞ぎこむくらい落ち込んでいたって伝えてくれませんか? なんか聞いてしまったのが悪い気がして」
「自分から伝えてはどうですか? お嬢様はその方が喜ぶと思います」
「……は、恥ずかしくて言えるかわからない」
「ぷっ、ふふふ、やだぁ、翔太様ってお嬢様が言ってた通り」
「口調が……」
「あっ、すいません……お嬢様に遅れることをご連絡しておきます」
そうか。武井さんの喋り方は鎧塚さんの影響も受けているのかもしれないな。
スマホを少しいじった後、珈琲に口を付ける鎧塚さんはなんだかとても嬉しそうだった。
「どうして俺に声をかけたんですか?」
「お嬢様が言っていた通りの人なのか、確かめてみたかったというのが1つです。実際に言葉をかわしてこそ見えてくることってありますから」
「……そ、そうですね」
面接みたいなものか。変なこと言ったり態度が悪かったりしなかっただろうか……
「ごめんなさい、偉そうに。身構えないでください。わたしが願っているのはお嬢様の幸せだけです。その為なら旦那様や奥様とも戦います。そういう立ち位置にいます、わたしは」
「あいつ、いえ武井さんは……何かご両親から反対されてるんですか?」
「いえ……ただ独り暮らしについては心底
「ああ……」
大企業の娘ならそういうこともあるのか。
「そこでです、翔太様にしか頼めないことなんですけど……学校にいるときや帰り道、お嬢様を守っていただけませんか?」
「……武井さん、強そうですけどね」
「いざってときの為に護身術は教えました。相当嫌がってましたけど……ぷっ、くふふ」
なんだろう。そこにも何か面白がるエピソードがあるのかな?
「……俺、喧嘩の場数しか踏んでいないので、うーん、ちょっと心もとないかもしれないので、
「正直ですね。はいっ、わたしがお教えします。お嬢様は鍛えてらっしゃいますけど、殿方に守ってほしいと思われる、ふっ、ふふ、女の子ですから」
「よ、よくわからない……」
鎧塚さんとも連絡先を交換することになった。何か困ったら、相談してほしいということらしい。
なんだか、鎧塚さんの笑顔を見るとこっちも自然と笑ってしまうから不思議だ。
だが、その顔は突然に凍り付いたように固まった。
「どうしたんですか?」
「た、楽しそうにお茶をしていますね。翔太君」
背後からの圧の籠った声を聴いただけで誰が来たのかはわかる。
振り返ると、今にも地団駄を踏みだしそうなむっとした顔の武井さんがいた。
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