第16話 メッセージ
「Qu'est-ce que tu fais? (なにしてるの?)」
「翔太様とお話を」
「tous les deux(2人で!)」
「お誘いしたのは、わたしです。ぷっ、くふふ」
「早苗!」
「すいません……お嬢様、落ち着いてください」
ぎろりと音がしそうなほど、鋭い睨みを俺に利かせた武井さんは隣に腰掛ける。
「ふ、ふっ、2人で何のお話をしてたのよ」
「動揺しすぎですよ。それとお嬢様、口調が」
「おほん。早苗、余計なことは言ってないでしょうね?」
「もちろんです」
2人のやり取りを聞いて、俺は少し安心していた。
武井さん、鎧塚さんの前ではあまり猫を被っていない。
昔のままだ。やはり、クラスでの様子は仮面をしているんだと確信する。
「お嬢様、わたし出すぎた真似をしたかもしれません。翔太様はこちらが言わなくても、すでに守ってくれているようですしね。でも、確認できましたよ」
「う、うるさい、早苗」
武井さん専属の支援担当者――俺と別れた後の武井さんを知っている人。
なんだか少し羨ましい。
そんなことを思ったからだろうな……
「武井さん、明日から一緒に学校行かない?」
「へっ! ……な、なっ、なんでいきなりそんなこと……」
「わたしはそうしたほうがとか、こうするべきですなどとは言ってませんよ」
慌てて言い訳する鎧塚さんに苦笑いを浮かべながら、いくら年上でも武井さんは怖いと見える。
なんか、俺と似ているところがありそうだな。
「俺がそうしたいと思ったんだよ。クラスの皆はもはやそんなことで騒がないだろうし」
「卑怯さに磨きがかかりましたね。私の立ち位置ですよ、それ……いいですけど……」
「じゃあ朝、迎えに行くから」
「は、はい……」
「よかったですね、お嬢様」
「う、うるさい、早苗」
武井さんは誤魔化すように、アイスコーヒーを注文する。
やはり、彼女相手には先手必勝が効果的か。
「あのう翔太君、たしか妹さんが居ましたよね?」
「いるよ。たまに一緒に遊んだことあったかな」
「はい……なつかしいですね」
そう言われても、あんまりよく覚えてはいないんだよな。
☆☆☆
夕食を終えると、ランニングのため外に出た。
体を動かさないと――
武井さんのことが四六時中
星空を見上げながら、気持ちを落ち着かせる。
冷静になると、彼女の一つ一つの言動がからかいなのか、本当のことなのかもすごく気になってしまう――
武井さんが毎日のように遊んでいた幼馴染だとわかり、こっちは楽しくてしょうがない。
おそらくその辺は同じ気持ちだと思う――
子供の時はわからなかったけど、今はなんで楽しいのか、それがはっきりとわかってる。
困ったなあ……
~~♪~~
そんなことを悩みながら走っていたら、武井さんからメッセージが届いた。
誰もいない小さな公園のベンチに腰掛け、スマホを見つめる。
『今日はありがとうございました』
「こっちこそ、クッキーすごく美味しかった」
面と向かってではなくても、ドキドキするし文字を打つ指先が震えてしまう。
『メッセージでも卑怯ですね……早苗と何を話したのかは想像できます。あまり気にしないでください』
「どういう意味?」
『私は望んでここにいます。その……迎えに来ることも心配してとかならば……いえすいません』
「一緒に登校したいからだから。そこ」
『メッセージだと卑怯、さらに卑怯。ありがとうございます。また明日、おやすみなさい』
武井さんとそんなやり取りをした後、明日が待ち遠しい気持ちになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます