066 土風ダンジョン1

 そこは巨大な洞窟だった。洞窟からは入る事が出来ないほどの強風が吹き荒れている。


「これ、どうやって入るの?」


 シャルがイーヴァルディに尋ねる。


「以前来た時は、爺ちゃんが風に耐えながら洞窟の中に入って暫くしたら風が止まったよ。あたいは外で待ってただけだから、よく分からないんだ」


「ヴァルさんはこんな凄い風でも耐えることが出来たんだね」


「あっはっは、爺ちゃんは重いからね!」


 ロキヘイムのメンバーで一番体重が重いのは……アルエかな?そんなことを言ったら怒られるかもしれない。


「じゃあ、ここは男の僕が行ってくるよ。サラ、ファイアで背中を押してくれない?」


「良かろう」


 風の影響を受けない洞窟の脇に立ち、タイミングを見計らう。風は常に強風というわけじゃなく、少しだけ弱まる時間があるようだ。


「3、2、1、行くよ!」


「ファイア!」


「【死飛翔デス・エアー】!」


 風が吹き荒れる洞窟の中に突入した。前方の左右を確認すると、穴が開いており、そこから風が吹き出しているようだ。


 左右の穴を越えると、全く風がなくなった。そして、そこには魔法陣とレバーが設置されているのだった。


「もしかして、このレバーを引いたら風が止まるのかな?」


「考えるより、やってみたほうが早いのではないか?」


「そうだね」


 ギギギ、と古びて固いレバーをなんとか引いた。すると案の定、強風は止まったようだ。みんなが魔法陣の前に集合した。


「土風ダンジョンか〜どんなダンジョンなんだろう?」


「火氷ダンジョンでは、冷静さと勇気が試されましたね〜」


「じゃあ、ここでは土っぽい試練と風っぽい試練が待っているのかな」


「そうだよ。あたいは入ったことあるから知ってるけど、言葉にするのは難しいから早く入ろうよ」


「じゃあ、行こう!」


 みんなで転移の魔法陣に乗った。


 転移先はジメッとした湿気の多い沼地だった。膝の高さまで泥に沈んでいる。


「臭い……」


「泥が靴に入って気持ち悪い……」


「今までで最悪のダンジョンだー!」


 そうは言っても進むしかない。イーヴァルディの案内に従って泥の中を一歩ずつ進む。


 歩き始めて気がついた。沼地には大量の蚊が飛んでいる。


「蚊が凄い飛んでる……何か対策をしないと酷いことになるよ」


「蚊には火が有効だよ」


「サラ、お願いがあるんだけど」


「我の魔法は蚊除けの道具ではない」


「2日分の油をあげるからさぁ、お願いします!」


「3日分で手を打とう」


「それでいいよ、ありがとう!」


 なんとか蚊地獄からは助かったようだ。


 1時間歩き続けたが100メートルくらいしか進むことが出来なかった。泥の中を歩く事は思った以上に気力と体力を消耗する。


「休憩したいけど、泥には座りたくないね……」


「休憩するのは我慢して出来るだけ早くこの階層を抜けよう」


 1日中歩き続けたが、イーヴァルディが言うには4分の1程度しか進んでいないらしい。


 そして、日が暮れてきた。ダンジョンの中だけど、外の時間と連動しているようだ。


「もう疲れた!一歩も動けない!」


 シャルは我慢の限界のようだ。


 さすがに何か対策を考えないとまずい……。


「野営するのに何か良い方法はないかなぁ?」


「そうですねぇ〜ロキさんのスキルは物にもかけられるんですよね〜?」


 ロザリーさんが聞いてくる。


「うん、出来るよ」


「テントにかけたらどうでしょうか〜?」


 テントに【死んだふり】をかけたら……反発力で泥が付かない……?ロザリーさん天才か。


 収納胃袋からテントを取り出す。


「【死んだふり】!」


 テントに泥は付かなかった!しかし、テントはボロボロになった。


「そうなりますよねー」


 だが、ロキは諦めなかった。


「【死んだふり】!」


 次は泥にスキルをかけてみた。すると、泥は死んで砂となった。反発力を調整して上も歩けるようになった。


「泥より砂のほうが100倍いいね!」


 今夜はなんとか泥がない場所で寝ることが出来そうだ。


 その日の夕食は、疲れを癒やす為にも豪勢な料理にした。王都でも希少なサイクロンパイソンの肉を食べることにした。大嵐の日に暴風と共に現れる魔物で、捕獲は大変だがとても美味らしい。


「やったー!サイクロンパイソンだ〜!」


「何それ!?あたい聞いたこともないんだけど」


「凄く美味しいんですよ〜私も数回しか食べたことがない希少なお肉なんです〜」


 火氷ダンジョンで手に入れた極熱鉱石を置き、その上にフライパンを置く。試しに肉をフライパンに置いてみるとジュゥジュゥと焼ける音が鳴った。


「ロザリーさん!実験は成功だよ!」


「ロキさん、お肉の焼き加減はレアでお願いしますね〜」


「あ、はい」


 それからロキは肉を焼く係になり、みんなの肉を最高の焼き加減で焼いていった。初めて食べたサイクロンパイソンの肉は最高だった。あれは肉ではないサイクロンパイソンという新しい食べ物である。


 ロキは夕食が終わると誰よりも早く眠りについた。

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