044 冒険者の実力

 亀が歩き始めて3日後、重く響いていた足音が聞こえなくなった。かといって、揺れが収まったわけではない。この感じはまさか……?


「海だー!」


 窓から外を見ていたシャルが元気を取り戻した。


「本当ねぇ、亀さんだけあって泳ぐのも速いわねぇ〜」


「これだけ大きな亀ならクラーケンにも勝てそうだね」


「ロキ!甲板に出て海を見ようよ!」


「マスター、ワタシもお供します」


「みんなが行くなら私も行きます〜」


 甲板で海を眺めていると、突然大きな鐘の音が響いた。


 カァン!カァン!


「もしかして、何かの警報?」


「マスター、あちらから何かが来ます」


 アルエの指差す方向を見ると数十匹の何かが飛んでくるのが見えた。


「鳥?」


「あれは、ハーピーだろう」


 サラが答えを教えてくれた。


「初めて見た!女の人の顔をした鳥さんだよね?」


「概ねその通りだ。シャル」


 たしかによく見ると、人の顔のようなものが見える。


「ハーピーの数が結構多いね」


「大丈夫だろう。こちらには1000人の冒険者が乗っているんだ。ほら、見てみろ」


 甲板の入り口からぞろぞろと上位ランカーの冒険者達が出てくる。有事の際に協力するような契約でもしていたのかもしれない。


「本当だ。僕達の出番は無さそうだね」


「始まるぞ」


 冒険者達の複数人が杖をかざして魔法を発動する。火や氷、土などの各属性魔法が次々と放たれる。


 ハーピーも風の障壁を作り応戦しているが、1匹、また1匹と撃ち落とされていく。


 運良く甲板にたどり着いたハーピーも、剣士の冒険者によって斬り伏せられた。


 戦いは一方的だった。上位ランカーの冒険者は想像以上に強かったのだ。


「無駄のない良い動きだ。しかし、まだまだ全力は出していないようだな」


「そうなんだ。全力だとどれだけ強いのか想像もつかないや」


「お前の師匠が一番強いと言われているのだろう?弟子ならばもっと自信を持て」


「サラはそう言うけど、よく分からないよ」


「上を目指し続ければいつか分かる」


 サラと話し終わる頃にはハーピーは全滅していた。


 その後は、特に魔物に襲われることもなく2日が経過した。珍しく係員の方が部屋に訪れる。


「まもなく目的に到着致します。上陸の際には揺れますのでご注意ください」


「わざわざありがとうございます」


 係員は次の部屋に連絡する為、慌ただしく移動していった。


 部屋で準備していると懐かしきズズンという音が響いてきた。


「おえー、また気持ち悪くなるのかな」


 シャルはかつての乗り物酔いしていた頃の自分を思い出し、既に青い顔になりつつある。


 だが、シャルの心配は無用のようだ。すぐに亀は停止した。窓から外を覗くと海岸のようだ。


「マスター、到着したようです」


「じゃあ、荷物を持って降りよう」


 ダイヤモンド・タートル号の出口に行くと係員が羊皮紙を渡しながら説明をしてくれた。


「お疲れ様でした。この紙にルールが書かれていますので、よく読んでください。出口から降りたらクラン対抗戦開始です」


 ここを出たらもう開始のようだ。

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