043 ダイヤモンド・タートル号

 1ヶ月後、ついにクラン対抗戦の開始日になった。ロキヘイムのみんなと冒険者ギルドに行くと、既に多くの冒険者が集まっていた。冒険者ギルドの外にはベリンダさんが誘導係をしていた。


「ベリンダさん、凄い冒険者の数ですね」


「あら、ロキ君。こっちは朝早くから大忙しで大変よ。ちなみに参加者は王都の南門の外に集合よ」


「了解です!お仕事頑張ってください」


 王都の南門まで行くと、冒険者の行列が出来ていた。


「うわぁ、人数が凄く多いクランもあるんだね!」


「そうよぉ〜、私が以前所属していた大手クランには200人くらい冒険者が所属していたわね〜」


「200!?それって勝ち目がないような……」


「マスター、大丈夫です。ワタシが200人分働きます」


「アルエ、それは働きすぎだからね!?」


 そんな話をしながら進み、南門を抜けた。そこには5匹の巨大な亀がいた。それぞれの亀の背中には大きな建物が建っている。


「まさか、これに乗るの……?」


「すごい!すごーい!」


 シャルは喜んでいる。


「そうよぉ〜、ワタシも乗るのは2回目だけどねぇ〜」


 冒険者達は亀に乗り込んでいく。


「本当に亀に乗るんだね。ちょっと楽しみになってきた」


 冒険者の行列は進み、ついに亀に乗り込む番となった。係員の人が亀に乗り込む階段の横に立っている。


「冒険者プレートを提示して下さい」


「はい」


 冒険者プレートを渡す。係員は魔法具らしき板に近づけると、営業スマイルになり冒険者プレートを返す。


「確認しました。ようこそ、ダイアモンド・タートル号へ。階段をお進み下さい。これが部屋の鍵です」


 部屋の鍵も渡される。鍵には427号室と書かれている。この亀、ダイアモンド・タートル号って名前なんだ。カッコイイ。階段を登った先の受付に鍵を見せる。


「4階の27号室になります。そこに案内図がございます」


「ありがとう」


 案内図を確認して、割り当てられた部屋までたどり着いた。


「おー、なかなか豪華な部屋だね」


「このベッド!ふっかふかだよ!何度でもジャンプ出来るよ!ふぎゃっ」


 シャルは早速ベッドでジャンプしている。そして転んでいる。


「マスター、紅茶を入れました」


 アルエが全員分の紅茶を入れて持ってきてくれた。


「ありがとう。ってもうこの部屋を把握したの!?」


「はい、監視装置や盗聴装置はありませんでした」


「さ、さすがアルエ……」


「ロキよ。我の暖炉がないではないか!」


「暖炉があるなんて一言も言ってないよ!?」


 そんな言い合いをしているとロザリーさんが居ないことに気がついた。


「あれ?ロザリーさんは?」


「ロザリーお姉ちゃんならお風呂に行ったよ?」


「そういえばお風呂大好きだったね……もうみんな自由行動にしよう!」


 ロキは皆をまとめる事を諦めた。


「じゃあ、サラの暖炉の代わりに、何か売ってないか見に行こうか?」


「うむ、行こう」


「マスターについて行きます」


 僕とサラとアルエの3人で売店に行ってみることにした。売店があることはさっきの案内図で確認済みである。


 売店には様々な物が売られていた。剣、斧、弓、鎧、籠手、ポーション類、見たこともない暗器、果ては黒魔術にでも使うのか何かの目玉やトカゲの黒焼きなどが置かれている。


「完全に冒険者に買わせようとしているね」


「今ここには冒険者しか乗っていないからな」


 それぞれカテゴリ毎に売り場が設けられているので、飲食関係のコーナーに移動した。


「お菓子やおつまみ、ビールもあるね。ここなら油も置いてあるかも」


「ロキ!あれを見ろ!」


 サラの視線の先には最高級エクストラバージンマンドラゴラオイルと書かれた瓶が置いてあった。お値段なんと10白金貨。


「さすがに高いよ!」


「どうせクラン対抗戦で優勝すれば賞金が出るのだろう!10白金貨くらいよいだろう」


「ええー」


「分かった。では、こうしよう。あのオイルを買ってくれたらいつか恩返しに我の秘宝を渡そうではないか」


「えー?本当にそんな秘宝なんてあるの?」


「ここにはないが、とある場所に隠してあるのだ!火の精霊としてここに誓ってもいい」


「わかったよ。相変わらずオイルジャンキーだね」


 売店で最高級エクストラバージンマンドラゴラオイルを購入し、サラに渡した。


「おおおおお!これは素晴らしい!」


 サラはもう周りの声も聞こえないようだ。


「部屋に戻ろうか、アルエ」


「はい、マスター」


 そして部屋に戻った直後、部屋に係員が来た。


「まもなく出発致します。移動中は揺れますのでご注意ください。気分が悪くなった場合は、係員にお申し付け下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


 しばらくすると、遠くのほうから「ズズン……」と地響きのような音が聞こえてきた。そしてその音が聞こえる度に家具がガタガタと揺れる。


「たしかに酔いそうかも……」


 シャルは早くも青い顔をしている。


「オラオラ!気分悪いのかよ!ヒール!」


「ロザリーお姉ちゃんありがとう。少し良くなったよ」


「いいのよぉ〜」


 そんな調子で亀は南に向かって行くのだった。

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