035 クラーケン

 翌朝、まだ日の出前の港にロキとシャルとアルエは居た。漁師は漁を諦めたのか1人も居ない。


「じゃあ、アルエお願い」


「はい」


 アルエが形を変えていくと小型の帆船になった。帆も光沢のある金属で出来ている。


「ウィンド!」


 シャルの風魔法を受けてアルエ号は大海原へ走り出した。


「うわ!凄い速度だね」


「水の抵抗を限りなく減らす形状と表面加工が施されていますカラ」


 どことなく自慢げなアルエの声が聞こえてきた。


 少しだけ沖に出るとすぐに海面に渦が出来上がり、アルエ号が巻き込まれる。


「うわ!渦だ!これってマズイんじゃない?」


「どうやらクラーケンの仕業のようです。このまま作戦を開始しますか?」


「クラーケンが下にいるの!?じゃあ、作戦開始しよう!」


「作戦開始に伴い、形状を変更します」


 アルエ号は少し大きめの球体になり、渦に沿ってグルグルと回る。そして最後に中心に飲み込まれる寸前、真下からクラーケンが口を大きく開けて現れ、球体となったアルエ達を飲み込んだ。


「クラーケンに飲み込まれました。3、2、1、形状を戻します」


 通常のアルエに戻り、全員がクラーケンの体内に着地した。即座にシャルが魔法を発動する。


「クリエイトエアー」


 空気を生み出す魔法でクラーケンの体内が膨らんだ。


「サラ!明かりをお願い」


「我の出番だな」


 周りを明るく照らすとクラーケンの体内が大きく脈打っている。


「さあ、急いで心臓を探そう!」


 クラーケンの血管を辿り、胴体の中心に向かっていくと巨大な心臓を見つけることが出来た。


 ロキが聖剣を抜くと、聖剣が光り輝く。


「はぁっ!」


 聖剣を心臓に突き立てると、抵抗もなく心臓に突き刺さった。更にダメ押しで連続で斬りつける。心臓から血液が流れ出し、最後に心臓が止まった。


「終わった……?」


 だが、地面が激しく揺れ動き始める。クラーケンが暴れているようだ。


「ロキよ、知らなかったのか?イカの心臓は3つあるのだぞ」


「ええええ!」


「マスター、あまり時間がありません。進みましょう」


 クラーケンは激しく動き抵抗するが、更に奥に進んでいく。どんどん道は狭くなっていき、ついに2つの心臓を見つけることが出来た。


 ロキとアルエが2手に分かれて心臓を同時に破壊した。クラーケンはビクンと大きく動くと静かになった。そして深海へと沈んでいく。


「マスター早く乗ってください」


 聖剣でクラーケンの内壁に穴を開けると、急いで球体の形状になったアルエに乗り込む。


「アルエ乗り込んだよ!」


「お任せください」


 開けた穴から大量の海水が流れ込んできた。アルエ号はクラーケンの外に脱出し、急浮上した。海面に出ると元の帆船アルエ号に変形する。


「ふあー!やっと外の空気を吸えた!」


 シャルが青空を見て笑顔になった。


「生きた心地がしなかったね」


「久しぶりに我も働いたからな。最高級の油を買ってくれ!」


「分かったよ。帰ったらサラの油を買おう」


「あたしお腹空いたよー」


 シャルが言うと


「食べますか?」


 アルエが答えて、船の中にクラーケンの足の一部が投げ込まれる。


「うーん、あたしは桃がいいなぁ」


「クラーケンは持って帰れそう?」


 計画ではクラーケンをまるごと持って帰る予定なのである。


「はい、船体に固定済みです」


 船体の下を覗き込むと大きなクラーケンの影が見えた。


「ロキよクラーケンの死体を狙う魚が襲ってくる可能性があるぞ。陸に急いだほうがいいぞ」


 クラーケンが他の魚に食べられない内に急いで陸に戻った。


 波打ち際に置いたクラーケンは長さが30メートルはあった。クラーケンを何等分かに切り分けて収納胃袋に入れた。


「あ、魔石だ!今までで一番大きいかも」


 50センチはありそうな魔石を見つけた。


「本当か!おお、これはなかなかの一品だ!魔石ソムリエの我が言うのだから間違いない。今回の魔石も我にくれるのだろう?」


 魔石が出たら毎回サラに渡しているので、今回もあげることにした。


「はい、どうぞ」


「おお、素晴らしい!」


 サラは魔石を吸収し、魔石は消えた。


 クラーケンの足の先端だけは討伐報告用に持って帰る。クラーケンの足を抱えて戻ってきた俺たちを見たホットフット村の住民は最初は驚いたが、状況を理解すると喜び歓声を上げた。


「クラーケンが討伐された!これで漁が出来る!」


「これで飢えずに済む!俺達は助かったんだ!」


「この村を救った英雄だ!」


 その日は夜まで村全体がお祭り騒ぎとなった。クラーケンはとても美味しく、半分ほど村に提供して皆で食べた。


 巨大なイカは基本的にはアンモニア臭くて食べられたものじゃないと村人は言うが、クラーケンは村人もびっくりするほどの美味しさだったようだ。クラーケンは半分残っているので今度食べることにする。

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