030 前哨戦

 全員で表に出た。ギルド職員や冒険者達も出てきた。


「じゃあ、あたしが戦うよ!」


 シャルが名乗り出た。


「では、あっしが軽く倒してきまさ」


 ケネスが名乗り出た。2人が向かい合って立つ。


「勝敗は本人が負けを認めるか、続行不可能と判断した時点で決める。では、開始!」


 シャル vs ケネスの戦いが始まった。



 ケネスが大きく構えると余裕の表情で話し出す。


「あっしのスキルは高速移動なんだぜ。お前の攻撃は当たらず、あっしの攻撃だけが当たるんだ。命乞いをするなら助けてやってもいいんだぜぇ?」


「……」


 シャルは何も喋らず、目を閉じて集中している。


「その態度がいつまで続けられるかな!?」


 ケネスの姿は掻き消えてしまった。その直後、シャルは目を見開き、背後から現れたケネスの攻撃を防いだ。


「チッ!まぐれで防ぎやがったか!」


 再びケネスの姿が消えるが、2度3度と攻撃が防がれる。ケネスの額から汗が流れる。


「まさか、まぐれじゃないっていうのか?」


「そっちはまぐれでも避けられないと思うよっ」


 シャルの背後を狙っていたケネスだったが、後ろから声をかけられて驚いた。


「うっ……!」


 ケネスは動けなくなった。首筋にナイフを当てられていたからだ。


「あっしの負けだ」


「あたしの方が速かったね」


 シャルはドヤ顔でロキ達のもとに戻る。


「まずはこっちが1勝だね」


 ロキとシャルがハイタッチする。


「ケネス!何故負けた!聖ガルド教皇国の恥晒しが!」


 ウィリアムがケネスを殴っている。そんなことよりも『聖ガルド教皇国』という言葉が気になった。


「次だ!こちらはゴドウィンを出す」


「ゴドウィンですか!?相手を殺しちまいやすよ!」


 ケネスが反対しているが、負けたケネスに発言権はないようだ。ゴドウィンが決闘の場に進み出た。


「ワタシが相手をします」


 アルエも同様に進み出た。


「アルエ頑張って!でも、殺しちゃ駄目だよ!」


「マスターの命令に従います」


「……」


 ゴドウィンは寡黙な男のようだ。だが、見た目からして強そうな男だった。


 身長は2メートルほどあり、フルプレートアーマーを着ていても動きに余裕がある。相当な筋力の持ち主であると伺える。


 武器は身長と同じくらいの大剣だ。大剣には大小様々な傷がついており、歴戦の戦士を思わせる。


 ゴドウィンは構えたまま動かない。


「行きます」


 アルエが宣言して素手のままゴドウィンの横を走り抜ける。


 すると、ゴドウィンの頬に太刀傷が出来ている。


「む……」


「本気を出さないと、ワタシには勝てません」


 アルエなりの忠告のようだ。


「すまない。小娘だと侮った」


 ゴドウィンは頭を下げると、今度は大上段に構えた。先程とは気迫が全く違う。


「来い!」


 ゴドウィンの掛け声と共にアルエが走り出す。ゴドウィンはアルエを十分に引きつけてから大剣を振り下ろした。


 ゴギン!という音と共に大きな風圧が周囲に広がった。


 風が収まった後、2人を見るとアルエは平然と立っているが、足元が陥没している。ゴドウィンの剣は真っ二つに折れていた。


「な……俺の剣が……!」


「まだ続けますか?」


「まだだ!」


 折れた剣でゴドウィンは更なる攻撃を仕掛けようとした。


「!?」


 だが、一瞬でアルエに四肢を浅く斬られて動きを止めた。


「これほどの差か……俺の負けだ」


 アルエ vs ゴドウィンもロキ側の勝利に終わった。

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