029 拠点と邪魔者

 ロキ達は王都の南東の街外れに来た。拠点となる物件を下見する為だ。


「マスター、あの物件じゃないでしょうか?」


 アルエが指差す方向を見るとボロボロの大きな屋敷があった。


「大きいけどボロボロだねぇ」


 シャルが率直な感想を述べた。


 だが、ロキは違うことを思っていた。


 これって、また【死んだふり】?この建物はボロボロのフリをしているだけなんじゃないのかな?


「もしかしたら、直せるかもしれない」


「え!?」


 シャルは驚いている。ロキは復活するように念じてみた。すると、ボロボロだった家はまるで新築のように綺麗になり、庭の枯れ木も生き生きとした青葉を茂らせた。


「まるでおとぎ話の魔法みたい……」


 シャルは思わず呟いた。


「さすがマスターです!」


 アルエは何故か誇らしげにしている。


「家の中を見てみよう!」


 照れ隠しに家の中に入るように促した。


 家の中に入ってみると家具も全て新品のように輝いていた。


「この家に決めちゃおうよ!」


 シャルはもう決めたようだ。


「そうだね。選択肢はここしかないし冒険者ギルドに行って契約しちゃおう」


 屋敷を出て、冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに着くとすぐにベリンダさんのところに行き、屋敷を契約すると伝えた。


 すると、冒険者ギルドの扉が勢いよく開き、別の受付に走る冒険者が居た。冒険者から話を聞いた受付嬢はベリンダさんに駆け寄ると相談しているようだ。


「どうしたんだろ?」


 シャルは気になっているようだ。ベリンダさんが慌てた様子でこちらに戻ってきた。


「今、隣の受付で例の屋敷を拠点にしたいと駆け込んできた冒険者が居たようです。一応、こちらが先に契約を進めていると説明したのですが、向こうが納得してくれるか分かりません」


 そんな話をした直後、隣の受付にいた冒険者がこちらを睨んで駆け寄って来た。


「お前らか!あっし達の邪魔をする奴らは!」


 面倒くさい奴に絡まれた。


「何ですか?僕達は拠点を契約しただけだよ」


「その拠点だよ!そこは先程、我ら【聖なる剣の集い】が気に入って拠点にすると決めたんだ。弱小クランは従った方が身の為だぜ?」


 その男は余裕を取り戻したのかニヤニヤしながら脅してきた。


「そんな脅しに屈するとでも思ったの?【聖なる剣の集い】なんて知らないし」


「てめぇ!」


 ロキが答えると、男はキレて掴みかかろうとしてきた。


「ケネス!何をしている!拠点の契約は済んだのか?」


 ケネスと呼ばれた男は固まった。


「ウィリアム様!こいつらが邪魔するんでさぁ」


 ケネスがロキを指差す。


「む?お前……まさかあの時の銅級冒険者!?」


 ウィリア厶は銅級冒険者1位になった時にロキと戦って負けたのだった。


「誰でしたっけ?」


 ロキはその時チンピラから家族をバカにされキレていた為、覚えていないのだ。


「ふざけるな!また俺の邪魔をしようというのか!」


「邪魔っていうけど、こっちが先に契約したんだからね!」


 シャルが言い返す。


「では、クラン同士で戦い勝ったほうが契約するというのはどうだ?」


 ウィリアムが意味の分からない交渉をしてくる。


「そんなことしてこっちに何のメリットがある?」


「仕方がない。そちらが勝ったら望むものをくれてやろう」


 望むものって曖昧な言い方だなぁ。


「(あんな事言ってるけどどうする?)」


「(あたしは構わないけど、何をもらうの?あの聖剣もらっちゃおうよ!)」


「(じゃあ、そうしようか。もしかしたら諦めてくれるかもしれないし)」


「よし!じゃあ、僕達が勝ったらその聖剣をもらうよ」


「俺の聖剣クレイヴ・ソリッシュをもらうだと!?」


「望みのものをくれるって言ったのに嘘だったの?それとも僕達に勝つ自信がないの?」


 ロキの煽りに対してウィリアムは顔を真っ赤にする。


「いいだろう!俺達が負けることはあり得ないからな!そちらは3人のようだから1対1の3本勝負でどうだ?」


「そのルールでいいよ」


「では、表に出ろ!それまでに最初に戦う者を選んでおけよ」

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