006 特訓の成果

 ロキは特訓の日々を過ごし、フティア王国に来てから1年が経過した。


 ロキは16歳になった。


 冒険者プレートには、こう書かれている。


 名前:ロキ

 スキル:死んだふり

 級位:銅

 ランキング:528339位(702286位→528339位)


 毎日コツコツと掃除や手伝いの依頼をこなしてきた結果である。


 討伐系の依頼はゴブリンと戦って以来一度も受けていない。イーリアス師匠から禁じられているからだ。


「イーリアス師匠!日課の訓練が終わりました!」


「おう、そろそろいいかもしれねぇな。よし!今後は討伐系依頼を許可する!」


「僕にはまだ早くないですか?まだ師匠に1発も入れられないんですけど」


「俺に敵わないのは当然だ。だが、ゴブリン程度なら楽勝のはずだ。つべこべ言わずに倒して来い!」


「わ、分かりましたーー!」


 ロキはショートソードを借りて、走って城を飛び出した。


「北の森に来ちゃったよー怖いなー怖いなー」


 ロキはゴブリンがトラウマになっていたのである。


 少し歩くとまたしてもゴブリンが2匹であるているのを見つけた。


 どうするべきか?今回は戦闘を避けて1匹のゴブリンを見つけたほうがいいだろうか?


 一瞬そんな考えが脳裏をよぎったが、イーリアス師匠の怒った顔が思い浮かんだ。


「この程度の敵に背を向けるつもりか?ロキ、お前は最強の冒険者を目指すんだろ?」


 ロキは師匠のような口調で自分自身に問いかけ、気持ちを奮い立たせる。


 ロキは決心し、ゴブリンに向かって走り始める。


 無言のまま、石を投げる。石はロキとは反対方向に落ちてガサッと音を立てる。


 ゴブリン達の意識はそちらの草むらに向いた。


「はっ!」


 ショートソードを最短距離でゴブリンの喉に突き立てる。


 1匹目は簡単に倒すことが出来た。


 2匹目がこちらに気づき、剣を振り上げる。


 ゴブリンの剣がこちらに触れる一瞬だけ【死んだふり】を発動させる。


 ゴブリンの剣は弾かれ、ゴブリンは理解できないという表情をしている。


 ショートソードで2匹目のゴブリンの首を斬り飛ばした。


 戦いはあっけなく終わった。


「僕、少しは強くなったのかもしれない」


 そのままゴブリンを討伐し続けた。


 その日、倒したゴブリンは56匹となった。


 王都に戻り、冒険者ギルドに入るといつものように声がかけられる。


「お、雑用専門のロキが帰って来たみたいだぞ」


「また雑用をしてきたのか〜?」


 街の掃除や農家の手伝いばかりしているロキに日頃の鬱憤をぶつけているのだ。


 ロキは無視して、受付に進む。


「討伐依頼の報告に来ました」


「ロキ君が討伐依頼の報告!?」


 受付のベリンダさんが驚いている。


「そんなに驚くこと無いじゃないですか?僕だってやれば出来るんです」


「そ、そうね。では、討伐証明部位を確認するので提出してください」


「はい、どうぞ」


 どさっと大きな袋を受付に置いた。


「こんなに!?」


「はい、多くてすみません」


「いえ、取り乱してすみませんでした。確認してきますので少々お待ち下さい」


 しばらく待つと、ベリンダさんが戻ってきた。


「確認しました。ゴブリン56匹で、銀貨16枚と銅貨80枚になります」


「おぉ〜」


 思わず声が出てしまった。


 今までの報酬は銅貨ばかりで、子供のお小遣い程度しか貰えなかった。


 それが今や、1日の稼ぎとしては十分過ぎるほど貰えるようになった。


 1日でこれだけ稼げれば一人暮らしも可能な気がする。


 今度、師匠に相談してみよう。


「ロキ様、こちらが更新後の冒険者プレートです」


「あ、はい」


 冒険者プレートを見るとランキングが上がっていた。


 名前:ロキ

 スキル:死んだふり

 級位:銅

 ランキング:488527位(528339位→488527位)


 その日は遅くなってしまったので、城に無事に帰ったことを伝えて帰宅した。


 まだ体力に余裕があったので、今後余裕のある日は、筋トレとスキルの修練を行うことにした。



 次の日、城に着くと改めてイーリアス師匠に報告を行った。


「最終的に56匹のゴブリンを倒せました」


「よし、実力は予定通りについてきているようだな」


 ロキは褒められて嬉しそうな顔をする。


「だが、慢心はするんじゃないぞ?俺に一撃も当てられないひよっ子に違いはないんだからな」


 上げて落とす。ロキはショボーンとした顔になってしまった。


 それを見たイーリアスは少し焦ったように続ける。


「だが、1日でゴブリンを56匹倒せる銅級冒険者はそう多くはない。祝いにこのショートソードをくれてやる」


 新品のショートソードを渡される。


「え!いいんですか!?」


 ロキは驚き、剣を受け取ると嬉しそうに剣を眺めた。


 お金がなかった為、今までまともな武器を買ったことが無かった。


「手入れは自分でするんだ。冒険者の基本だぞ」


「ありがとうございます!ちゃんと手入れします!」


「今日は日課の訓練が終わったら課題を出すからな」


「分かりました!」


 ロキは早速腰のベルトにショートソードを取り付けてチェインメイルと籠手を装備する。


 走り込み、実戦訓練を終えると、師匠が話し始める。


「この国には、他に類を見ないほどダンジョンが多くあるんだ。それ故に冒険者が多く集まる」


「はい」


「王都オーティスより北の森の中心にゴブリンダンジョンがある。課題はそのダンジョンの攻略とする!」


「ダンジョン……。どんな場所なんですか?」


「行けば分かると言いたいところだが、少しアドバイスをやろう。ゴブリンダンジョンは洞窟だ。薄暗く、大量の魔物が沸く。トラップもある。うかつに進むと痛い目を見るぞ」


「分かりました。ダンジョンに行ってみます!」


 ダンジョン攻略の開始である。

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