005 王様の特訓

 本日は建国記念日1日目ということもあり、イーリアスさんは忙しいということで、ロキはそのまま馬車で帰宅した。


 帰宅したロキは、目標を達成する為にはどうするかを考えた。


 その結果、実力をつける事と、どんな依頼でもこなして級位を上げる事に注力することにした。


 ロキはすぐに冒険者ギルドに行き、掲示板の依頼を探した。


【街の掃除】

 第一区画の掃除を行ってほしい。掃除内容はゴミ拾いと植木の雑草駆除。

 達成条件:第一区画担当者の完了確認

 報酬:50銅貨


 ロキはもう依頼を選り好みする気はない。迷わずに【街の掃除】の依頼を受付に持って行き、引き受けた。


 報酬は凄く安い。肉串を3本食べたら無くなってしまうだろう。


 だが、ランキングは上がるはずだ。


 ロキはその日1日かけて掃除を行い、依頼を達成した。


 冒険者ギルドに報告すると冒険者プレートが更新された。


 名前:ロキ

 スキル:死んだふり

 級位:銅

 ランキング:702286位(745426位→702286位)


 冒険者登録だけして、全く依頼をこなしていない人が約4万人も居たようだ。


 目標は遠いが、一歩を踏み出すことは出来た。


 その日の夜、ロキは満足そうな顔で眠りについた。



 翌日、早朝からロキは起きていた。今日から城でイーリアス師匠から特訓をしてもらえるからだ。


 朝食をしっかりと食べた後に、城に向かった。


 城に着くと衛兵に挨拶と事情を説明した。


「ロキ様ですね、訓練場にお通しするように聞いています。案内の者について行ってください」


 案内役の兵士について行くと、兵士たちが訓練を行うのに十分な広さの訓練場に着いた。


 案内役の兵士にお礼を言い、1人で待っていると、イーリアス師匠が城から出て来た。


「ちゃんと時間通りに来たようだな。関心関心」


「はい!イーリアス師匠!」


「おう!じゃあ、早速始めるとしようか。まずは基本の体力作りだな。このチェインメイルを装備しろ」


「これをですか?うっ」


 チェインメイルとは鋼鉄の輪を大量に繋ぎ合わせて作った鎧である。金属製だが、柔軟性があり、動きやすい。


 渡されたチェインメイルを持つとめちゃくちゃ重い。15kgはある。


「そうだ、それを早く着ろ。特訓出来る時間は有限なんだぞ」


「はい!師匠!」


 急いでチェインメイルを装備する。


「じゃあ、この訓練場を全力で1周してこい!」


「はい!」


 鎧をジャラジャラ鳴らしながら、なんとか1周走りきった。


「まぁ、最初はこんな程度でもいいか。次はゆっくり1周してこい!開始!」


「ゼェゼェ、は、はい!」


 ほとんど歩くような速度で1周を走った。


「よーし、今のを10セットやれ!開始!」


「10セットも!?ひいいぃぃぃ」


 10セットやるとその日は動けなくなってしまった。


 その日は足を引きずるようにして帰宅した。


 その後、チェインメイル走り込みは1週間続いた。


 後半は冒険者ギルドの銅級依頼もこなした。


 ちなみに今は宿ではなく割と広い家をもらって両親と住んでいる。


「イーリアス師匠!走り込み終わりました!」


「よし。じゃあ、次に進むぞ。次は実戦だ!」


「はい!」


「その前に、この鋼鉄の籠手を腕に着けろ。片方5kgあるからな」


「重い……ですね!」


「ほれ、武器は木剣だ」


 イーリアス師匠は木剣を渡してきた。


「わ、分かりました」


「俺は基本的に防御に徹する。だが、たまに攻撃をするから、その時はどんな方法でもいいから防げ。じゃあ、かかってこい!」


「はああぁぁ!」


 上段から振り下ろす。


「そんな見え見えの大振りが当たると思ってるのか!」


 簡単に回避され、お叱りとばかりに反撃が来た。


「痛ったー!」


「攻撃は出来るだけ小さく動き、最短距離で当てろ。まだ、お前には筋力も技術もない。小細工せずに、まずは当てることだけを考えるんだ」


「分かりました!師匠!」


 籠手が重い為、大きな動きをしようとすると動作が遅くなる。


「はぁっ!」


 相手の急所まで最短距離を意識して攻撃する。


 だが、相手は最強の冒険者である。全く掠りもしない。


 腕の疲れは蓄積していき、手数は減っていく。


「もう終わりか!攻撃をやめたら、こちらから反撃するからな」


「まだまだぁ!」


 実戦練習はロキの腕が上がらなくなるまで続いた。


 ーーーーーーーーーー

 それから1ヶ月間が経過した。


 走り込みと実戦は以前よりも早く消化出来るようになった。


「走り込みと実践は慣れてきたな。今後は追加でロキのスキルの特訓を行う。下手をすると死ぬから、絶対に油断するなよ」


「し、死ぬんですか……」


「ああ、手加減はするが、当たりどころが悪ければ死ぬ可能性は高い」


「わ、分かりました!がんばります!」


「では、俺が攻撃したら、スキルを使って防げ。ただし、意識を失って地面に倒れ込むのは許さん」


「ええ!?難しいです」


「だが、それが出来なければお前は冒険者になっても死ぬだけだぞ」


 ロキは目の前の男を超えるという夢を叶えるためにはどうしても必要なことだと理解した。


「やってみます!」


「構えろ!いくぞ!」


 イーリアス師匠の木剣が喉を突こうと迫ってくる。


 今だ!【死んだふり】を1秒だけ発動させる。


 次の瞬間、木剣の突きを防ぐことに成功した。


「やった!……!?」


 イーリアス師匠はもう次のモーションに移っていた。次は胴を横薙ぎにするつもりらしい。


「うがっ!」


 最初の攻撃を防いだことで安堵し、油断していたことで攻撃をもろに受けてしまった。


 チェインメイルを装備しているが、それでも大ダメージだった。


「ーーーーーー!!」


 声にならない声を出して転げ回る。


「油断するなと言っただろうが!誰か回復を頼む」


 特訓を見守っていた回復術士の男がロキに近づき回復魔法をかける。


「師匠、死ぬかと思いました……!」


「即死さえしなければ、回復術士が回復魔法をかけてくれるから安心しろ。即死だけは気をつけろ」


 安心しろって言われても、めちゃくちゃ痛いんですけど。でも、反論はしない。師匠の言う通りにするしかないのだ。


「分かりました!気をつけます!」


 攻撃を受けそうになったら【死んだふり】を行う。


 死んだふりの解除時間は段々と最適化されていく。


 次にイーリアス師匠はフェイントを入れるようになっていく。


 間違ったタイミングで【死んだふり】を使用したり、スキル使用時間が長すぎると、顔に落書きをされる。


 最終的に顔は書き込む場所がないほど真っ黒になった。


 それでもロキは特訓をやめることはなかった。


 全ては最強の冒険者になる為である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る