副担任の疑惑

マリアンナは召喚士養成学校の校長に呼び出された。用件は昨夜何者かがエドモンド王を襲撃した事だ。警備を強化する為にマリアンナに召集がかかったのだ。マリアンナは生徒を一人共につける事を条件に承諾した。


「マリアンナ先生、門限を破った罰は一ヶ月間のトイレ掃除だったじゃないですか。何でお城の警備のお供なんですか?」


マリアンナが城へ向かう道すがら、後ろから生徒のアイシャが不満顔でついて来る。


「アイシャ、お前はたるみ過ぎだ。勉強にまるで身が入っていない。この間のテスト、所々メアリーが答えを書いていただろう、文字を似せても私にはバレバレだぞ」


マリアンナの指摘にアイシャがギクリと身体をすくめる。マリアンナはため息をついた。アイシャの同室のメアリーはアイシャに甘い、アイシャが勉強で困っているとすぐに手を貸してしまう。面倒見がいいのは結構な事だが、度が過ぎればアイシャの為にもならない。


門限を破った罰で、アイシャを城に連れていくというのは方便だ。マリアンナは確かめたいのだ、アイシャの秘められた資質を。マリアンナの召喚霊獣、スノードラゴンは霊獣の中でも特に気性が荒い。だがアイシャはいとも簡単に、そのスノードラゴンと心を通わせてしまったのだ。アイシャに他の精霊や霊獣と引き合わせてみたいと思った。城には優秀な召喚士がいる、マリアンナの昔馴染みだ。


マリアンナは高をくくっていた。王が襲撃されたのは昨日だ、暗殺者も流石に昨日の今日では来ないだろう。マリアンナは目線だけアイシャに向ける、アイシャの足元には霊獣の幼体、ドロシーがチョコマカとついて来る。マリアンナは霊獣の幼体をこの目で見たのは初めてだ。霊獣の幼体は弱い存在な為、滅多な事では人間の前に姿を現わしたりしない。幼体の庇護者の霊獣が決して自身の側から離さないのだ。だがこのドロシーという霊獣の幼体は、まるでアイシャを母親のように慕って離れない。召喚士と霊獣の間で契約を交わさないで、共にいる事はありえないのだ。アイシャは今までにない召喚士になるのではないか、マリアンナはそう期待せずにはいられない。


マリアンナが城に行っている間、学校の授業は副担任のメグアレクが担当している。メグアレクは最近、召喚士養成学校に来た魔法使いだ。シンドリア国とは友好国のエストラード国の出身で、魔法使いとしては三流だが、魔法具に精通しているので採用となった。召喚士養成学校では中々位の高い精霊や、霊獣を召喚できる者が少なかった。その為学校では魔法具での能力の底上げを考えているのだ。マリアンナはメグアレクという男がどうも胡散臭くて仕方なかった。表面上は穏やかな五十代の男だが、目の奥に仄暗い光がともっていた。この男には何かある、マリアンナは直感していた。

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