第32話 エン 10


”ぺし、ぺし ”



 う、うっ・・・・。



”ぺし、ぺし。

 ぺし、ぺし ”



 う、うう・・・・。


 も、もう少し、寝かせてくれ~。



”ぺし、ぺし。

 ぺし、ぺし。

 ぺし、ぺし ”



 や、やめろ~。


 顔を叩くの、やめろ~。



「お、ようやく目を覚ましそうな感じだ!」



”ぺし、ぺし、ぺし。

 ぺし、ぺし、ぺし・・・・ ”



叩くペースを上げるな~。



「よ~し、もう一息!」



”ぺし、ぺし、ぺし。

 ぺし、ぺし、ぺし ”



「いい加減にしろ~!」



 両手を振りかざしながら、起き上がろうとするが、お腹の上に誰かが乗っかっていて、身を起せない。



「お、カグヤ。

 ようやく、お目覚めか!」



 聞き覚えのある声。


 だから、夢かと思った。



「なんだ、カグヤ。

 寝ぼけてんのか?」



”ぺし、ぺし ”


 再び、カグヤの顔を叩き始めた、その手を取って、抱き寄せる。


「エン!!」


 上半身に伝わる人身の重さ。


 ああ、間違いない、本物だ。


 元の姿に戻れたんだ。


 よかった。


 あの日のままだ。




「ぷっ・・・・」


「くくく・・・・」


 と、傍らから、笑いをこらえる気配がする。


「そこっ! 

 チヨとジュン! 

 感動の再会を笑わない!」


「いやぁ・・・・」


「だって、ねぇ・・・・」


 チヨは、手鏡をとり、カグヤにかざす。


「な、なんじゃこりゃ~!!」


 手鏡に映し出された自分の顔を見て、カグヤは絶叫する。


 顔中、落書きだらけ、これでは、まるで工事現場のクマゴロウさんだ。


「おまえら~!」


「いや~、カグヤが悪いんだよ~。

 元の姿に戻してもらって、さっそくカグヤに会いに来たのに、寝てばかりなんだもん。

 せっかく、カグヤと遊ぼうとやってきたのに・・・・。

 仕方ないから、カグヤで遊んでたんだ。

 みんなで」


「よくも~、私の顔に落書きしてくれたな~!」


 お腹の上から逃げ出したエンを追いかけようと、布団から立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。


「うう~。

 顔が汚れて力がでない~」


「カグヤちゃん、ダメですよ。

 まだ、体力も、魔力も全然回復してないんですから」


 近くで様子をうかがっていたマサキに介添えしてもらいながら、カグヤは、布団の上に半身を起こす。


「マサキも、見てたんだったら、こいつらのこと止めてくれても良かったのに・・・・って、まてぇ、いま、こっそり隠した右手の筆はなんだぁ?」


「うふふ。

 なんだか、みんな楽しそうだったので、私も、ついでにね。仲間に入れてもらっちゃった。」


 てへ、ぺろ。


「うう、みんな、ひどい~」


「さぁ、カグヤちゃん。

 お風呂で、身体、奇麗にしてきましょうか」


「うん。

 そうする・・・・、ん? 

 キレイにするって、顔じゃなくって、身体?」


 マサキの言葉に、わずかな引っかかりを感じ、カグヤは、自分の身体を見下げる。


「ああ~!

 おまえら、いったいどこまで落書きしてんだ~!」


「ふふ~ん、すごいだろ、カグヤ」


「全然すごくないっ!」


「カグヤの背中には、このエンさま直々に、みごとなサクラ吹雪を描いてやったぜぇ」


「描いてやったって、『桜吹雪』って習字してあるだけじゃないか~!」


「ふふん」


「しかも、漢字間違ってるし~!」


「え?」


「『桜』はこんな字じゃない!」


「あれ?

 サクラって、春の木じゃなかったっけ?」


「たしかに桜は春に咲く木だけど、漢字は『椿』って字じゃない!」


「へ?」


「これじゃ、『ツバキ吹雪』だ~!」


「ま、まあ、そこは、雰囲気だけでもってことで・・・・」


「うう~!」


「じ、次回作に乞うご期待!」


「もう、勘弁してくれ~」


「さて、カグヤちゃん。お風呂に行きましょうか。

 私が、背中洗って差し上げますわ」


 布団から、自力で立ち上がれないカグヤをマサキはひょいと持ち上げる。


「うう~、運ぶなら、せめてお姫様抱っこにしてくれ~」


 マサキの小脇に抱かえられながら、カグヤは風呂場へと運ばれていった。





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こんにちは。

尾木洛です。


ここで、第一章終了です。

ここまで、お読みいただきありがとうございました。


この「カグヤの世界」の物語は、まだまだ続くのですが、

一旦ここで、一区切りさせていただこうと思います。


第一章の執筆で出てきた反省点を改善して、少しリフレッシュした形で第二章を始めたいなぁと思っています。


その時は、また、読んでくださいね。

よろしくお願いいたします。


それでは、また。







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カグヤの世界 ~とある世界の現在進行回顧録 尾木洛 @omokuraku

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