第28話 ケリュネイアの雌鹿 15


”力が欲しいか?”


 カグヤの頭の中に何者かの声が響く。


「だれだ?」


”力が欲しいか?

 汝が欲するならば、我が力、貸してやらぬこともないぞ ”


「・・・・いらない」


”なんだと?”


「いらない、と言っている」


”では、どうするつもりだ?”


「許さない・・・・」


”ほう?”


「エンを石に変え、ジュンやチヨを傷つける、私は、あいつを許さない」


”なれば、我が力、汝に貸してやろう ”


「いらない・・・・。貸してなど。

 私は、あいつを許さない。

 だから・・・・、あいつを倒す力があるというのなら、私によこせ。

 お前の力、全て、私によこせ。

 私が、その力、存分に行使してやろう」


”わははは・・・・、面白い。

 我に向かって、そんな大層な口を利く輩は初めてだ。

 よかろう。

 どういうわけか、今、汝の契約者は不在で、魂の座が空いている。

 今ひと時、我が、汝の魂の座につき、我が力、汝に授けよう。

 我が力、存分に振る舞ってみるがよい ”



「なにをブツブツ言っている。グズグズしていると・・・・」

 

 ソモは、目の前でブツブツとつぶやき始めたカグヤに焦れ始める。


「ファイヤーボール・・・・」


 カグヤは、右手を差し出すとソモに向かって火炎弾を放つ。


 ソモは咄嗟のことに慌てて身を翻し、飛来した火炎弾を避ける。


 ソモを外した火炎弾は、後ろの建物に着弾し、その建物を崩壊させた。


 咄嗟の回避と後ろの建物の崩壊で、ソモは大きく体勢を崩す。


”はむっ!”


 チヨは、その隙きを突き、青い宝石の杖に齧りつくと、ソモの手を振り払い、杖を口に加えた体制で、ジュンの元に転がり逃げ出すことに成功する。


「ゴホッ、ゴホッ。

 つ、杖は、奪って来たっスよ」


「チヨ。

 でかしたっ!!

 さあ、カグヤ、あとは、なんとかここから逃げ出すわ・・・よ?

 ん?

 カグヤ・・・!?」


 振り返り見たカグヤは、真っ赤な焔の中にいた。

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