第27話 ケリュネイアの雌鹿 14

 一方、そのころカグヤは、ソモにチヨを人質に取られて苦戦していた。


 カグヤの『ラスボスは、一番高いところにいる』の主張で、砦の中で一番高い建物を目指した二人であったが、運良くか、運悪くか、その目指す建物の前で、もう一人の男ソモに鉢合わせしてしまったのだ。


 何とか応戦していた二人だったが、風邪で動きの悪くなっていたチヨがソモに捕縛され、今に至る。


「チヨを放せ!」


「いいぞ。

 放してやろう。

 ほら、渡してやるから、もっと近くに来るといい」


 カグヤに向かって、2歩、3歩と歩みよるソモ。


 カグヤは、大きく後ろに跳び退り、再び、ソモとの距離をとる。


 チヨは、ソモに抱えられ、時折、ゴホッ、ゴホッと咳き込みながら、ぐったりしている。


 風邪がぶり返してきたのだろう。


「いま、どうして、お前たちががここにいるのか分からないが、ちょうど良い。

 貴様には聞きたいことがあったんだ」


「・・・・」


「朱雀をどこへやった?」


「・・・・・知らない」


「知らない?」


「知らない。

 たとえ、知っていたとしても、教えない」


「ほう。

 ならば、このガキがどうなっても、いいと?」


ソモは、左手で抱えているチヨを前に突き出す。


「・・・・許さない」


「なんだと?」


「チヨを傷つけたら、おまえを、許さない」


「面白い」


 ソモが、右手を薙ぎらうと、一陣の魔法の風刃が生まれ、カグヤに襲い掛かる。


 身じろぎもせず、向かい受けるカグヤ。


 しかし、風刃がカグヤに到達する直前、小剣が飛来し、その風刃を粉砕する。


「カグヤっ!」


「ジュン?」


「なんとか、間に合った!」


ジュンは、ソモの追撃に注意を払いながら、カグヤのもとに駆け寄る。


「カグヤ。

 青い宝石の杖は、あの男が持ってるはず。

 もう一人の方は、持ってなかった」


「ほう・・・・」


 ジュンの言葉にソモが反応する。


「お前たちの狙いは、この杖か・・・・」


ソモは、懐から、青い宝石のついた杖を取り出す。


「その杖は!」


 フン、とソモは大きく杖を振るう。


 杖から大きな空気の塊が打ち出され、風弾となってジュンを襲う。


 ジュンは、とっさにブレスレットを盾に変え、その風弾を受け止めるが、風弾の威力に盾を弾かれてしまう。


 そこにソモの放った二弾目、三弾目の風弾が飛来し、ジュンに命中。

 ジュンを弾き飛ばす。


「ジュン!」


「他人の心配をしている暇はあるのかな、お嬢ちゃん?」


 ソモは、尖った杖先を抱えているチヨの頬に突き立てる。


「うぅっ・・・・。

 ゴホッ、ゴホッ・・・・」


「チヨ!」


 チヨの頬を杖先でゴリゴリと抉りながら、ソモが、カグヤに話しかける。


「ほら、大切なオトモダチも、欲しくてたまらない杖も、ここにある・・・・」


「くっ」


「ほおら、ほら。

 グズグズしていると、オトモダチのほっぺに穴が空いてしまうぞ?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る