第23話 ケリュネイアの雌鹿 10

 芭蕉扇から生み出された強風は、砦を襲い、衛兵を吹き飛ばし、砦門を崩壊させる。


 さらに、結界を構築していたいくつかの触媒装置も吹き飛ばしたようで、砦門付近の結界が緩み、消滅した。


 すると、砦の結界の消滅を待っていたかのように、ジュンとチヨを追いかけていた鹿やカモシカたちは、その速力を上げ、ジュンとチヨを追い越し、砦の中に突入していく。


 その鹿たちの姿を見て、カグヤは芭蕉扇で仰ぐのをやめ、ジュンとチヨと合流したうえで、鹿たちの流れに合わせて、砦の中に侵入していった。


 三人は、砦門を入ってすぐの建物の陰に隠れると、ふぃ~と大きくひとつ息をつく。


「助かった~。

 一時はどうなることかと・・・・」


「いや、全然助かってないっスからね。

 一時は過ぎたかもしれないかもっスけど、ただいま、絶賛大惨事中っスから」


 突然の鹿たちの襲撃に砦内はパニック状態に陥っていた。


 砦の中に突入した鹿やカモシカたちは、砦内の兵士たちと、あちこちで戦闘を始めている。


 鹿やカモシカたちは、抜群の速力で砦内を駆け巡り、戦線をかく乱しつつ、兵士たちの繰り出す弓矢や槍の攻撃を展開した魔法障壁で防御し、逆に火や風の魔法弾放って応戦している。


「今どきの鹿って、魔法使えるんだ?」


「いえ、きっとケリュネイアの雌鹿が、力を与えてるんだと思う」


 カグヤの問いにジュンが答える。


「あんな能力があるのなら、最初から使えばいいと思うっス」


「そうね。最初から、あの能力使っていれば、私たちなんて、簡単につかまえることができたはず・・・・」


「捕まえるつもりは、無かったんじゃないかしら」


「え?」


「だから、最初から、私たちを捕まえるつもりはなく、ただ、追いかけ回すことが目的だったんじゃ・・・・」


「どういうこと?」


「鹿たちは、私たちのことを、この砦の人間と思ったんじゃないかしら」


「まあ、それ以外で、子供が、こんな時間に、こんなところ、うろうろしてないわよね。

 ふつう・・・・」


「それで、私たちのこと追い回していれば、いずれ砦の中に逃げ込むから、その隙に乗じて、砦の中に入ろうとしてたんじゃないかしら・・・・」


「そんな、回りくどいことしなくても、魔法の力で、いくらでも侵入できたんじゃないっスかね」


「きっと、あの結界のせいで、それもできなかったのよ」


「でも、なんで鹿たちは砦の中に入ろうとしてたのかしら?」


「今の状況から察するに、以前から、砦の兵士たちといざこざがあったんだと思う」


「この砦、最近になって、拡張されたような感じがする。

 まだ、あちこち工事中みたいだし・・・・」


「そうね。

 ここのところは、砦の力が大きくなって、カモシカ達が劣勢になってのかもしれないわ。

 でも、そんな中、都からケリュネイアの雌鹿達が移動してきた。

 だから、神獣の力を借りて、反攻にでようとしていた」


「だから、ジュンとチヨを追いかけ回して・・・・」


「逃げ込もうとする私たちの隙をついて、砦の中に侵入し、厄介な結界を砦の中から、破壊しようとしてた・・・・」


「けど、砦に逃げ込むどころか、私が、結界を壊しちゃったから・・・・」


「そう。

 私たちことは、もう用済みになって、一斉に砦の中に突入、今に至る・・・と」

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