第22話 ケリュネイアの雌鹿 9

「それよりも・・・・」


 鹿やカモシカから逃げ回って、どこをどう辿ってきたのか全然分からないが、目の前には、砦と呼べるほどの建築物があった。


 きっと、目指す敵のアジトだろう。


 隠れ家的な小さな建物を予想していたカグヤは、その砦の大きさに圧倒される。


 砦の正確な大きさは、結界でうまく隠されていてはっきり分からない。


 ただ、砦の外壁や、結界を構築するための触媒などは、真新しい部分が多く、最近になって拡張されたことが伺える。


 カグヤの位置からは、砦門が見えた。


 門の付近には2人の衛兵がいる。


 砦の中に入るには、あの砦門を突破するしかないだろう。


「さて・・・・」


 どうやって、あの砦の中から、あの杖をとってこようか?


 そして、どうやって、鹿やカモシカ、それから、あの砦の中の敵から逃げきろうか?


 どうすれば、無事に三人で村に帰えれるだろうか?


 敵様一行を村に引き連れ逃げかえって、村に迷惑をかけるわけにもいかないし・・・・。


 ともかく、長考している時間はない。


 ジュンとチヨのことも心配だし、まごまごしていると敵に見つかってしまうかもしれない。


「・・・・・ん?」


 あれこれと考えを巡らしていると、右後方から、なにやらこちらに近付いてくる気配がする。


 かなりの大群のようだ。


「・・・・ん、ん!?」


 どうやら、先方も、こちらに気が付いたようだ。


 先頭を走る小さな影が、叫ぶように話しかけてくる。


「カ、カグヤ~!!」


「ジュン?」


「た、助けて~~!!」


 どこをどう逃げ回ってきたのか、ジュンの追手は、大幅に増加していた


 。一頭のケリュネイアの雌鹿に追われていたはずなのに、今や、ケリュネイアの雌鹿は3頭に増え、さらにそのあとを20~30頭の鹿が続いている。


「こ、こっちに来るな~!」


 と叫び返したカグヤは、左後方からも、なにやら大群が近付いてくるのを感じた。


「お、お嬢~!!」


「チヨ?」


「お、お助け~~!!」


こちらも、どこをどう逃げ回ってきたのか、30頭近くのカモシカに追いかけられている。


「こ、こっちに逃げてくるな~~!!」


 もはや、選択の余地はない。


 敵の砦の方に向かって、逃げるしか。


 カグヤは、覚悟を決め、包みから芭蕉扇を取り出す。


「突撃~!!!!」


 カグヤは、芭蕉扇を仰ぎ回しながら、砦に向かって疾走する。

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