第21話 ケリュネイアの雌鹿 8
しばらく進むと少し開けた場所が見えた。
遠くの山並みが見えることから、そこは崖になっているようだ。
二人は、その場所まで進んで見ることにした。
崖から下を伺ってみるとなにやら気配がする。
チヨとカグヤは、こちらの姿が見つからないように身をかがめながら、目を凝らしてみる。
「あれは、カモシカっスね」
「うん。結構いるね」
「カモシカが、人を襲うことはないって聞いっスけど・・・・」
「まあ、無駄に刺激しない方が、いいわよね・・・・」
カモシカの群れに見つからないよう静かにその場を離れようとカグヤは近くの岩に手をつき立ち上がろうとする。
しかし、岩は、先ほどの雨で地盤が緩んでいたせいか、カグヤの体重を支えることができず、崩れ落ちる。
「お嬢、危ない!」
チヨに腕を掴まれ、辛うじて落下を逃れるカグヤ。
しかし、崩落した岩は、崖を転げ落ち、カモシカの群れを襲う。
幸いにも、岩がカモシカ達に直撃することはなかったようだったが、カモシカの雰囲気が「怒・怒・怒!」に変化したのは、容易に感じ取れる。
「やばいっ・・・・」
再び、見つからないように、地面に平伏す二人。
「し、静かにするのよ。
静かにしてれば、きっと、やり過ごせる・・・・」
落石なんて、自然の中では、良くあること。
静かにしていれば、カモシカたちに『誰かに攻撃された』とは思われずに、やり過ごせるはず・・・・。
多分。きっと。
祈る気持ちで、息をひそめるカグヤ。
しかし・・・・。
「ハィックシ!」
チヨのクシャミが轟いた。
「チヨ!」
「申し訳ないっス。
どうにも、我慢できなくて・・・・」
見ると、崖下から数頭のカモシカが、崖を駆け上がってくる。
「見つかった!」
「カモシカって、人を襲わないんじゃなかったっスか?」
「と、とにかく逃げよう」
駆け出す二人。
しかし、カモシカの足音はどんどん近くなってくる。
「チヨ、二手に分かれよう」
「了解っす。
さっきの作戦のやり直しっスね」
「それじゃ、行くわよ。
せーの、散会!」
カグヤは合図を出すと、チヨと別れ、ほどなく進んだところで、近くの窪みに姿を隠す。
チヨも上手く隠れることができたようだ。
今回は、上手く作戦に引っかかってくれたようで、カモシカ達はカグヤとチヨを見失い、辺りをウロウロしている気配がする。
よし、このまま、しばらく身を潜めていれば、この場はやり過ごせる。
「静かに・・・・。
静かに・・・・。」
カグヤは、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
しかし・・・・。
「ハィックシ!」
再びチヨのクシャミが轟く。
カモシカに発見されたチヨが、ひょええ~と叫びながら、逃げ去っていく音が聞こえる。
「あ・・・・」
なすすべもなく、立ち尽くすカグヤ。
「ん~・・・・。
ん~・・・・。
ん~・・・・、ま、見捨てるか。」
まあ、チヨなら、カモシカごとき、なんとかするだろう。
多分。
きっと。
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