第8話 エン 2


「ウ、ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~・・・・」

 突然、緊急事態をしらせるサイレンが村中に大きく鳴り響いた。


「な、なに?」


 鳴り渡るサイレンに三人は、きょろきょろと辺りを見回す。


「何が起こってるのかはわからないけど、家に居れば、大丈夫・・・・」


 エンは、自分に言い聞かせるようにつぶやく。


「この家は、特別な結界で守られてるから・・・・、ここに居れば大丈夫。

 大丈夫・・・・」





―――― そのころ。

 一生吹池、磐座近くの岸辺。




 大きな雄鶏のような魔獣に跨った男が一人佇んでいた。


「んじゃま・・・・、予定通り、ということで・・・・」


 鳴り響くサイレンの音が合図、とばかりに、ポケットの中から、こぶし大の緑色の宝石を取り出す。


「封印解除の魔石、投入・・・っと」


 男は、手に持った緑色の宝石を一生吹池にポイと投げ入れた。





―――― 村の南外れ



「最近、間者の出入りが増えてたから、そろそろ何か仕掛けてくるころかとは思ってたけれど・・・・」


「まさか、空から来るとは、思いませんでしたね・・・・」


 おばあさんとマサキが、つぶやく。


「人がいるところは、だいたい防御結界を張り終えたし、急いで山に戻りましょう」


「わかりました。

 ・・・・それにしても、あんなものまで、持ち出すなんて」


「前の時もこんな感じだったわ。

 舐められていないって意味じゃ、光栄なことなのかもしれないけれど」


「迷惑な話です」


「そうね。

 でも、なんだか、今回は、前より切羽詰まっている感があるわ」


 おばあさんとマサキの上を大きな影が横切っていく。


 遅れて、目を開けていられないほどの突風。


 空に赤い怪鳥。

 山に向かって、一陣の風の如く飛翔していく。


 おばあさんとマサキは、山に向かって駆け出した。






―――― 一生吹池、磐座近くの岸辺


「むっ・・・・」


 池に封印解除の魔石を投げ入れた男『ソモ』は、大きな雄鶏のような魔獣『コカトリス』に跨ったまま、身をかわす。


 とっ、とっ、とっ。


 さっきまでソモが立っていた場所に3本の矢が突き刺さる。


「ウインドアロー!」


 すかさず、ソモは、射撃された方向に風の矢を放つ。


 射手は、放たれた五本の風の矢のうちの一本を竹束盾で防ぐと、竹取ノ弓で、さらに2本の矢を放った。


 ソモは、剣で、2本の矢を薙ぎ払うとコカトリスを駆り、射手に突進する。


 射手は、武器を竹取ノ弓から、竹銃槍に持ち帰ると、同じようにソモに向かって疾走する。


 先に間合いに入った射手は、竹銃槍の突きを繰り出す。

 ソモは、その突きを剣で受け流した。


 両者は、次の一打のために間合いを取る。


「竹取のじいさんが、なにようだ・・・・?」


 用心深くソモが、射手に話しかける。


「そちらこそ、なんの用事かなっ!」


 言うや否や、カグヤのおじいさんは、2度、3度とソモに向かって、竹銃槍の突きを繰り出す。

 しかし、ソモは、コカトリスを後退させながら、竹銃槍の突きを剣で危なげなく打ち払う。

 替わりに繰り出されたソモの斬撃を後方に大きく跳ねることで躱したおじいさんは、十分な距離があることを確認し、懐から黄色のカプセルを取り出すとソモに向かって投げつけた。


「行けっ!頼むぞっ!」


 黄色のカプセルはポンと弾け、2足歩行のトリケラトプスのような怪獣が現れた。


 怪獣は、頭の一本角をコカトリスに突き刺さんとばかりに突進を始める。

 しかし、怪獣が数歩前進するや否や、コカトリスは猛毒を持った視線を放った。

 猛毒の視線は怪獣を貫き、怪獣を石に変えてしまう。


「石化の魔眼か・・・・。

 厄介な・・・・」


「じいさん、貴様も、奇妙な術を・・・・。

 ん?

 もしかして、貴様、ウラの一族か?」


「さて、どうだかなっ・・・・」


 おじいさんは、飛来した火炎弾を大きく後方に跳んで避ける。


 続いて、突風。


「遅れて、真打が登場ってか」


 空に、赤い怪鳥『朱雀』。

 そして、その朱雀の背に立つ男『ジアン』


「久しぶりだな、じいさん」


「五年ぶり、くらいかの・・・・」






―――― 一瀬川河口 エンの家


 サイレンの後、縁側で様子をうかがっていたエン、カグヤ、チヨの3人は、突然の突風に空を見上げる。


「なによ、あの大きな赤い鳥・・・・」


 池の上空を旋回しながら、大きな赤い鳥が火炎弾を放っているのが見えた。

 それを見て、カグヤが、家を飛び出す。


「私、様子を見てくる!」


「お嬢!」


 それを追って、チヨも。



「外に出ちゃ危ないって・・・・。

 もう、仕方ないなぁ」


 自分も近くで見てみたいという思いもあり、「困った奴らだ」の体で、エンも後に続く。



 それにしても。

 慌てていたにしろ、炊飯器抱えたまま、飛び出さなくてもいいだろ、カグヤのやつ。


 まあ、あいつのことだ、「腹が減っては戦はできない~。」とか、なんとか言うんだろうけれど。


 カグヤとチヨの後に続きながら、エンはクスリと笑った。





―――― 一生吹池、磐座近く 竹取のおじいさん、ジアン、ソモ


 ソモの斬撃を竹束盾で受け流し、おじいさんは、竹銃槍の突きを放とうとする。


 しかし、上空の朱雀から火炎弾が放たれたため、それを避けるようと横に大きく飛び跳ねる。


 コカトリスの石化の魔眼を注意しつつ、おじいさんは、ソモと朱雀の攻撃を躱し続ける。

 反撃の糸口がつかめない。


「五年前も、油断していたつもりはなかった」


 朱雀の背から、ジアンが、おじいさんに語り掛ける。


「しかし、解けかけていた竹林の結界は破ることはできず、そればかりか、玄武も、この池に封印されてしまった。

 だが、今日は、玄武もお宝も、両方いただいていくぞ」


「両方ともとは、よくばりさんだねぇ」


 コカトリスの嘴を竹銃槍でいなしながら、おじいさんは答える。


「この池に、封印解除の魔石を投入済だ。

 ほどなく、玄武の封印は解ける。

 貴様にそれが凌げるかな」


「それは、ちょっときっついなぁ・・・・」


「なら、さっさと降参して、お宝を差し出したらどうだ」


 玄武の封印解除か・・・・。

 たしかに玄武が復活したら厄介だ。

 ソモの攻撃を避けながら、おじいさんは考える。


 5年前は、やっとのことで封印をした。


 いま、コカトリスとソモ、朱雀とジアンの攻撃に対処するのに精一杯なのに、玄武の封印を、解かれたとしたら、一気に勝負は決してしまう。


 まあ、もっとも。

 その池に玄武が、まだいれば、の話だが。


 おじいさんは、ソモとの間に大きく距離をとる。


 だが、このままでは、ジリ貧なのは、たしか。

 こちらも、勝負をかけるか。


 おじいさんは、竹銃槍を収めると左手の甲を前方に掲げる。


 すると左手の甲に紋章が赤いアザとなって浮き出し、それが、赤い閃光を放った。



「令呪をもって命ずる、来い、オトヒメ!」




 左手の甲に紋章の一部が薄くなり、同時におじいさんの前に魔法陣が展開される。

 そして、魔法陣から白い光の塊が現れ、光の塊は、人の姿に収束していく。


「呼び出すなら、もっと早く呼び出せ!」


 魔法陣から召喚されたおばあさんは叫ぶ。



「そう、怒るな。こちらも、余裕がなかったんだ・・・・」


 召喚そうそう叱られて、言い訳するおじいさん。


「だが、至る所に高位の防御結界を展開しているいま、実のところ、私も余力があまりない。」


「かまわん。

 とりあえず、あの赤い鳥だけでも弱らせてもらえれば」


「・・・・簡単に言うが、まあ、それくらいなら、なんとかできるかな・・・・」



 おばあさんは、朱雀に向かい右手を差し出すと召喚魔法をとなえる。


「・・・・行け、フェニックス」



 おばあさんの右手から放たれた赤いひかりは、やがて一つの塊となり、赤く燃える鳥フェニックスに姿を変える。


 召喚されるや否やフェニックスは、朱雀に向けて、業火旋風を放った。


 朱雀は、たまらず火炎弾を放ち、業火旋風を避けようとする。

 しかし、火炎弾は業火旋風にかき消され、朱雀も業火に巻き込まれダメージを受けてしまう。


 態勢を崩す朱雀に対し、フェニックスは、次々に裂火球を発射、そのいずれもが命中し、朱雀は力なく地上へ墜落していった。



「ふう・・・・、限界」


 おばあさんは、ぺたりと座り込む。


「これ以上やったら、防御結界を維持できなくなる・・・・」



「十分。

 これだけ弱れせてくれれば、封印できるはず」


 おじいさんは、腰にぶら下げた封印の壺を持ち上げると、墜落した朱雀に向かって歩き出す。



「ばあさん。

 そういえば、マサキはどうした?」


「いま、カグヤのもとに向かっている」


「そうか・・・・。

ならば一安心、といったところだねぇ」



 封印に十分な距離まで朱雀に近づくと、おじいさんは、封印の壺を向け、封印の呪文を唱え始める。



「縛・・・・」



 壺から白い光の縄が現れ、朱雀をぐるぐると縛りあげていく。


 縛り上げられた縄は、やがて一つの光の塊になると、次第に収束し、小さな光の玉になっていく。


「封印・・・・っ?」


「させるかっ!」


 収束した光の玉を封印しようと突き出した封印の壺にソモの放った風の矢が直撃。 壺は粉々に砕け散る。


「しまったっ!」



「器がなければ、封印できまい」


「くっ・・・・」



 光の縄の束縛が緩み、光の塊は、次第にもとの大きさに戻っていく。



 ここで封印できなければ、少々厄介なことになる。

 何か術はないかと周囲をさぐるおじいさんの目の端にこちらにかけて来る3人の少女の姿が映った。



「じっちゃ!」


「カグヤ!?」



 どうしてこんなところにカグヤが?

 しかも、カグヤは、なんで炊飯器なぞ抱えているんだ・・・・?

 いや、まぁ・・・・、しかし、これは好機かも!


 おじいさんは、両手を前に差し出すと、改めて封印の呪文を唱える。



「魔封波~~~っ!!!!」



 ほぼ元の大きさに戻っていた光の塊が再び収束し、空中を大きく何度も旋回した後、カグヤのもとに殺到する。



「ほほっっ!!」


 おじいさんが気合を込めると、光はカグヤの元に圧縮され、一度大きく輝いた後、収束する。



「封印、成功・・・・」


「火炎弾!!」


 朱雀の封印に成功しホッと一息ついたおじいさんと、魔力不足で地面にぺたりと座りこんでいるおばあさんに向かって、朱雀とともに墜落し、昏倒していたジアンが意識を取り戻し火炎弾を放つ。


 おばあさんは、防御障壁を展開し、この火炎弾を防御。

 おじいさんは、火炎弾が到達する前に白い光を放って、その場から消え失せていた。



「え・・・・?」



 眼前の出来事にカグヤは、その場に立ちすくんでいた。



 おじぃとおばぁが、知らない誰かと戦っている・・・・?

 いったい、何が起こっているの・・・?

 それに、さっき飛んできた光の塊は、なに・・・・?



 呆然と立ちすくむカグヤの前に白い光が立ち、その中から、おじいさんが現れる。



 おじいさんは、カグヤの持っている炊飯器にお札を貼るとカグヤに逃げろと告げる。



「池守の、あの河口の家に逃げ込めば、奴らは手が出せん。

 その炊飯器を持って、急いで逃げろ!」



 そして、おじいさんは、カグヤたちを逃がすために、再び、ジアンとソモのもとに駆け戻っていく。


 カグヤは、頭の理解が追い付かないまま、それでも、おじいさんの言いつけを守ろうと、池守の家、エンの家に向かって走り出す。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る