第14話 フルララ、墓穴を掘る。

「フルララぁ~これよんでぇ」

 クラリムでの生活ですが、私とリリアナちゃんの夜は、いつもどおりです。

 夕食後、リビングで少し遊んだ後、リリアナちゃんが本棚に並んだ絵本を一冊持ってきました。

「はい。じゃあ、ここで読みましょうか。」

 私は絨毯の上に座り、リリアナちゃんが膝の間に座る。

 

 白い石材で作られたリビングは、ディムさんの持っていた家具や絨毯はもちろん、カーテンまで設置されて、快適な空間になっています。

 ルーヴィリアス様がお酒を飲みながら寛げるバーカウンターと、専用のソファセット。

 大きな本棚の前には、ダイニングテーブルセットを2つも並べて、読書コーナーに。

 そして、絨毯が4枚も敷かれたリリアナちゃん用の遊び場。

 もちろん、フルラージュさん達や来客者用のソファコーナーもあります。

 

「はい、おしまい。」

 絵本を読み終えると、リリアナちゃんは走り出して、ルーヴィリアス様の晩酌に付き合っていたディムさんに抱き付きました。

「パパ、ねるぅ。」

《そうだな。》

「それでは私も一緒に。」

 ルーヴィリアス様は読書をしながらお酒を飲んでいて、もう少し起きていると言いましたので、挨拶をして寝室に向かいました。


 ディムさんの上に乗ったリリアナちゃんは、階段を上っている間に寝てしまいました。

「今日は沢山の事があって、気疲れしたのでしょうね。」

《そうだな。リリアナもそうだが、フルララも疲れただろう。とくに、書物店の娘達との気配りは見事だったぞ。》

「あれは…その…」

《なんだ? なにかおかしな事を言ったか?》


 ディムさんに続いて寝室に入った私は、正直に話す事にしました。


「えっとですね… … …ごめんなさい。守護妖精の事をすっかり忘れていました!」

《ん? いや、よく判らないのだが?》

「ディムさんが人族の領地で過ごす方法として、『守護妖精』と偽って王族の保護を受ける方法も在ったのに…そうすれば、隠れて過ごす必要もなく、リリアナちゃんと普通に暮らせていたのですが…」

《なんだ、そんなことか。仮に、北の大地で聞かされていたとしても、そんなものは却下だ。》

「どうしてですか?」

《それを、フルララが聞くのか? 王族や貴族に借りを作ると、自由に生きられないのは知っているだろう。それで、リリアナが幸せになれると思うか?》

「あ…そうですね。」


 私はそれから逃れる為に、お母様以外の家族を騙しているのに…

 そして、ディムさんに守られているのに…


《だが、それと気配りの話は…なるほど、後ろめたい気持ちがあって気負っていたのだな。》 


 ディムさんはすぐに気付いてしまいます。


「はい…そうでした。」

《まあ、今回はそれが良い結果になった訳だから良しとするが、独りで善し悪しを決めるなよ。そもそも、俺は魔物だ。それを見て『守護妖精』って思い付く方が無理な話だ。まったく、気に病む話じゃない。》


 そして、ディムさんは優しく叱ってくれます。


《まあ、今日はありがとうな。リリアナに同年代の友人が出来た。これはフルララのおかけだ。だから、もう寝るぞ。明日からはいつもどおりでいいからな。》


 最後は褒めてくれる。

 ガトラ叔父様みたい…ううん、わたしの憧れたお父さんです。


その日の私は、ディムさんを抱き枕のようにして眠りにつきました。




「フルララぁ~おきるぅ~」

 今日もリリアナちゃんに揺さぶられながら目を覚ました私は、いつも以上に幸せな気持ちになっていました。

「ふふっ、リリアナちゃん。おはよ!」

「ん!」

 起きた私に、抱き付くリリアナちゃんを抱きしめました。




 朝食後に、この街での過ごし方を決めました。


 その1 教会には近付かない事。

 (教会前の大通りを使わなくても、商店街や商業ギルド、そして書物店にも行けるので問題ありません。)


 その2 白い神官服の人を見たら隠れるか逃げる事。

 (書物店の店主から聞いた情報から、常に資質が見えているわけではないので、出会うだけなら問題ない。だけど、話しかけられるような時は、視ている可能性があるとの事。)


 その3 冒険者ギルドに近付かない事。

 (これは、《面倒事が起きるから》と、ディムさんの一言で決まりました。)


 その4 買出しは午前中に済ませる。

 (これも、《北の大地からの習慣だから》と、ディムさんの一言で決まる。)


 その5 街に出かける時は3人で行く事。

 (ルーヴィリアス様は自由ですが、私とリリアナちゃんはディムさんと一緒にいる事の約束です。理由は、ディムさんが心配になるからです。)


 教会と神官と冒険者ギルドに近付かない。

 実質の制限はこれだけなので、リリアナちゃんも私も気を引き締めるほどの事もなく、街に出かけることになりました。

「いってきますぅ~」

 留守番のルーヴィリアス様に手を振るリリアナちゃんを連れて、商店街に買出しに向います。


 まずは商店街で食材探し。

 ディムさんが毎日新しい料理を作る。と張り切っていたので、調味料や卵、色々な野菜を買い込みます。

「お嬢さん、大丈夫かい?」

 野菜屋のおばさんが心配な目で私を見ます。

 すでに調味料だけで背負い鞄が一杯になり、野菜は雑貨屋で買った手提げ鞄に入れています。

 しかも両手。

 その量と重さは、明らかに女性が持つには無理があります。

「はい。大丈夫です。」

 私はそう言って、鞄を軽々と持ち上げます。

「おや! すごいね。そういう資質持ちかい。」

「え、ええ。そうなんです。」


 もちろん、そんな資質は持っていません。

 ディムさんとリリアナちゃんが、全然自重しないんです。

 リリアナちゃんが食べてみたいと言えば、ディムさんが買うと言い…

 結局、ほとんどの種類の食材を買う羽目になりました…

 で、当然私には持てない量なのですが、ディムさんが重力魔術で軽くしているのです。


 まだ、2軒目なんですけど…

 あと、卵とか、お菓子とかあるんですけど…

 ああ…お菓子屋さん…お菓子屋さぁあああんー!


「これ…一度、家まで帰りませんか?」

《ああ、そうだな。さすがに買い過ぎた。家の門まで戻るか。》

 街中で『次元倉庫』を使うのを禁止したのです。

 なので家の門に入ってから倉庫に入れる事にしました。

 万が一に、誰かに不審がられる事になれば、大変な事になるからです。

 その、目立たないように色々と決めたはずなのに…既にリリアナちゃんの帽子になっているディムさんで視線を集めているというのに…今の私の姿で、更に視線が集まっているのです。


 うぅ…視線が痛いです。


 結局、2回目の買出しも、両手の手提げ鞄一杯になり、商店街から家までの道中は、唖然とする人達の視線を浴びるのでした。



「もう! ディムさん恥ずかしかったです!」

 買出しを終えて家に入ると、私は我慢していた言葉を放ちます。

《いや、2回目はフルララも我慢していなかったろ。》

「それは、そうなんですけどね! でも、恥ずかしかったのです!」

 お菓子屋さんで、全種類を買ってしまいました。

 野菜屋さんのディムさんとリリアナちゃんのテンションが移ったのか、我慢が出来ませんでした。


「フルララぁ、はやくたべるよぉ。」

「うん。もう言いたいこと叫んだから、準備するね。」

《いつものフルララだな。》

 ディムさんから嬉しそうな声が聞こえてきました。

 その声に私は笑みを溢してしまいました。

「なんですかそれ。」

 私もなぜか、嬉しい気分になりました。


 私はリリアナちゃんとルーヴィリアス様が待つリビングに向いました。

 今日のお昼ご飯は、お菓子ランチです。

 夢にまでみた、お菓子をお腹一杯食べる昼食です。


「ディムさん、紅茶をお願いします。」

 私はディムさんから受け取った茶葉とポットで、紅茶の準備を始めました。

 今回は甘いお菓子が主食なので蜂蜜も砂糖も入れません。

 なので、リリアナちゃん達にはディムさんが少しさっぱりとした柑橘ジュースを作ります。


《アンジュとティエスが来たぞ。》

 ディムさんが、魔力感知で門の外の小道を入ってきた二人を教えてくれました。

 ケーキやお菓子を買った後に、書物店に寄り道して声をかけてきたのです。


チリンチリン~♪ 


「こんにちわ~」

 呼び鈴を鳴らしたアンジェちゃんの声が玄関先から微かに聞こえてきました。

「行ってきますね。」

「リリアナもいくぅ。」

 タタタッと走り出したリリアナちゃんを、追い掛けるように私も玄関に向いました。

 玄関の扉は重いので、リリアナちゃんが急かすように私を見ています。


 私はお客様を迎える為、ゆっくりと扉を開けました。

「いらっしゃい。」

「おじゃまします。」

 礼儀正しくお辞儀をするアンジェちゃんとティエスちゃんに、リリアナちゃんが笑顔で出迎えました。


「え? 凄いです。」

 リビングに入ったアンジェちゃんとティエスちゃんが、立ち止まります。

 私がそんな二人を押し込むように部屋の中を進んでもらうと、ソファテーブルの上には既に、ケーキやお菓子が沢山並んでいました。

「凄いでしょ。沢山買ってきたから、遠慮せずに食べてね。」

「はっ、はい。」「うっ、うん。」


 ソファにはディムさんが座って待っていて、リリアナちゃんがその横に座りました。

 ルーヴィリアス様は一人掛けソファに座っています。


 二人は部屋をキョロキョロと見渡しながら、リリアナちゃんの対面にあるソファに座ります。

「あの…これ全部を私達だけで食べるのですか?」

 アンジェちゃんが恐ろしい物でも見るような目で訊ねています。

「残しても大丈夫ですからね。」

 ディムさんの次元倉庫のことは秘密なので、こまかい説明はしませんでしたが、私の言葉で安心したようで、目の前のケーキやクッキーに目を輝かせていました。

「フルララはやくぅ。」

 私はディムさんを膝の上に置いて、リリアナちゃんの隣に座ります。


「では、食べましょう。」

 食事の挨拶は家の主がするもので、いつもディムさんでしたが、今は来客者がいるのでルーヴィリアス様がその役を引き受けました。


 リリアナちゃん達3人は、好きな物を上手に取って食べ始めます。

 そして言葉でなく、笑みを見せ合って美味しさを語り合っていました。


 そんな光景を見ながら、私もケーキを皿に取り分けます。そして、ディムさんの口に切り分けたケーキを入れていきます。

《次は、一番右のケーキを頼む。》


 ディムさんが指名したケーキを皿に取り分け、その半分をディムさんの口に入れる。

 残った半分を私が食べる。

 と、いう事を繰り返していると当然、アンジェちゃんとティエスちゃんの視線と手が動かなくなりました。

「ディム様は、守護妖精ですからね。」

 私は二人にそう言って笑い掛けました。

 アンジェちゃんとティエスちゃんには、名前と食事が出来るという事を教える事にしました。

 それ以外の、重力魔術などの魔術が使える事は秘密にしたので、私が食べさせるとか、リリアナちゃんが食べさせる、という事になりました。




 アンジェちゃん達と出会ってから十数日が経ちました。

 今ではほぼ毎日、午後から夕刻まで家で遊ぶほどの仲になっています。

 それと、アンジェちゃんとティエスちゃんの両親も、仕事が休みの日には子供と一緒に来ています。

 最初は、子供が世話になっているからと、挨拶だけに来たのですが、アンジェちゃん達の両親は共に1級冒険者で、ダンジョン攻略の最前線組みだと紹介されたので、ディムさんが情報収集になると言って、その後も招く事になりました。


 そして今日は、アンジェちゃん達の両親も来ているので、テラスで紅茶を飲みながら庭で遊んでいる子供達を見守っていました。

 ディムさんは、リリアナちゃんの傍で3人の面倒を見ています。


「明日は6層を探索することになり、一泊することになりました。」

 アンジェちゃん達の父親で、魔術剣士のリオラさんが少し重い口調で話しました。

「それで、アンジェとティエスを今後とも宜しくお願いします。」

 同じく魔術剣士で母親のルーテアさんも、寂しげな顔をしていました。


二人の表情とルーテアさんの言葉に、私は何か嫌な気持ちに襲われました。

「どうかしたのですか?」

ルーテアさんの表情は変わらず、

「私の『魔力視』が必要な魔獣が出たらしく、その討伐に向かうのですが…すでに数十人が犠牲となっている魔獣なので…」

 

「どんな魔獣なのですか?」

「それは私が説明します。『岩壁が襲っていた。』、これが偶然目撃した冒険者からの情報です。」

 旦那さんのリオラさんは険しい表情で話を続けました。

「事の発端は、6層の岩石地帯に、地底湖に繋がる洞窟が数箇所見つかりました。そして、その場を調べると言っていた冒険者達が消息を絶ちました。その後、捜索隊が現場を調べたのですが、何も見つからず諦めていた時に、別の洞窟で冒険者が襲われました。それを洞窟近くに居た冒険者が偶然目撃したのが、『岩壁が襲っていた。』です。」


「そうですか…だから、ルーテアさんなのですね。」

「はい。私なら、ただの岩壁なのか、魔獣なのかを視ることが出来ますから。」


  私達は、アンジェちゃん達の資質『魔力視』の事を詳しく聞いていました。


『魔力視』

 視界に映る、全ての物の魔力を視る事が出来る。


「大丈夫ですよね?」

「特級冒険者の方々も参加しますので、大丈夫だと信じています。」

 ルーテアさんの言葉は、希望的な願いなのだと、私にも判りました。


 その後は、何も聞くことが出来ませんでした。


 庭で遊ぶリリアナちゃん達は、いつもの笑顔を振り撒いています。

 花に集まっている蝶を追い掛けたり、小さな鳥にクッキーを上げたりと、楽しく遊ぶ3人の姿を私達は静かに眺めていました。



 その日の夕食後、私は昼に聞いた事を話しました。

《岩壁が襲うか…》

「なにか心当たりとかあるのですか?」

 ディムさんの呟きから、何かを知っているような、そんな感じを受けました。


「水辺で岩に擬態している魔獣なら、知っている。」

「それはなんですか?!」

「蛸だな。」

「えっ? 蛸ですか? 蛸って擬態するのですか?」

「ああ、一部だが擬態する蛸もいる。それの魔獣化したやつだろうな。」

「強いのですか?」

「大きさで変わるが、今回は複数を一人残らず捕食しているとなると、10メートル以上で、手強い相手になるだろうな。」

「そうですか…」


 なんとなくは、判っていました。

 油断していたとしても、パーティーが全滅する魔獣です。

 それは、リオラさんもルーテアさんも感じていたはずで…

 だから、あの言葉を口に出したのですから…


「フルララぁ~、アンジェちゃんのパパとママがあぶないの?」

 リリアナちゃんは、私が不安な気持ちになっていることに気付いたみたいです。

 私は、どう答えたら良いのか、思い付きませんでした。


《危ないかもな。死ぬかも知れない。》

 ディムさんが、隠すこともなく正直な言葉を告げました。

「パパ、たすけて。」

《ああ、判った。》


 え? えっ? 即答?!

 リリアナちゃんも、ディムさんの言葉に、驚きとか躊躇とか一切無しで答えて、その言葉にディムさんも即答って…


《ん? フルララどうした?》

 私は、我に返りました。

「いえ、あまりに即答だったので…」

《そうか? 考える必要などない事だろ?》


 ディムさんだと、そうなのかも知りませんが…

 リリアナちゃんが、普通の会話のような感じで話していたのが…


 私は、不安の欠片すら見えないリリアナちゃんの、いつもの笑顔を見つめていました。


「息子とリリアナちゃんですからね。遠慮も、飾る言葉も無意味なのですよ。そして、生と死をちゃんと理解していますからね。」

 ルーヴィリアス様の優しい目がリリアナちゃんに向けられていました。


 飾らない言葉っていうのは、判る気がしましたが、『生と死を理解する』という事が、いまいち理解することができませんでした。


《フルララ、聞いてるか?》

「あ! はい。」

 また、考え込んでいました。


《助けに行く方法だが、当然バレる訳にはいかない。》

 私は「はい。」と頷きました。

《でだ、今回はリリアナは母に任せて、俺とフルララの二人で行こうと思う。》

「リリアナはいっちゃだめなの?」

 リリアナちゃんが、寂しそうな目でディムさんを見ています。

《連れていくと、リリアナやフルララの秘密を探ろうとする者が現れる。そうなると、ここで暮らせなくなる。アンジェとティエスと会えなくなるのは嫌だろ?》

「うん、いや。…バーチャとおるすばんする。」

 私は、リリアナちゃんの頭を撫でてあげました。

 というより、撫でたくなったので、手が出ていました。


「ディムさん。それで、バレないようにする方法ってなんですか?」

《それはだな。これをフルララに着てもらう。》

 そう言って現れたのは、深い銀色に白い縁取りのフルプレートアーマーでした。

 そして、ヘルムは顔まで覆う物だったので、髪を結えば、素性を見せる箇所は首だけになりそうです。


 重くて動けそうにないですけど、そこはディムさんがなんとかしてくれるでしょう。


「ディムさんはどうするのですか?」

《魔力感知で直視しなくても大丈夫だから、マントを付けて背中か、盾を装備して盾の裏とかだな。だが、万が一を考えるとなると鎧の中が良いのだが…その鎧だと隙間がなさそうだしな。》


 私はテーブルの上に並べられた鎧を確かめる。

 叔父様のような体格用でもなく、オリファさんのような細身用ではあるけど、もっと小柄な感じでした。

「そうですね。私のサイズに合わせたような鎧ですから…」

 私の目に、ある一箇所のサイズが合っていない気がしました。

「えっと、鎧の中の方がいいんですよね?」

《ああ、見つかる心配もあるが、それよりもフルララの肉体と接触していると、常時発動型の防御魔術と耐性魔術に身体強化魔術が掛けられる。》


 あっ、もしかしてリリアナちゃんが元気なのってそれ?


「もしかして、リリアナちゃんに身体強化魔術を掛けてます?」

《いや、それはさすがに掛けてないぞ。成長の妨げになるからな。》


 よかったぁ~。さすがディムさん。溺愛しててもちゃんとしてます。


「ディムさん、ちょっとこれだけ装備してみますね。」

《ん? ああ、試してみるのか。》


 あれ?…意外と軽い…


 上半身を守るプレートアーマーは一体型で上から被るタイプなので、私はそれを持ち上げて着てみました。


 やっぱり、胸のところがスカスカです。

 剣士の方達は、胸板が鍛えられていますからね。

 ここならディムさんが入るけど…いまさらです。


「ディムさん、ここなら隙間結構ありますよ。」

 私は、プレートアーマーの首元から指を入れて伝えました。

《ん? そうなのか? どれ?》

 ディムさんが近づいて確かめようとしましたが、お腹下はサイズがピッタリなので、入る隙間がありませんでした。

「一度脱ぎますね。」

 私は脇腹の留め金を外しプレートアーマーを脱ぎました。

「それではディムさん。私の胸に引っ付いて下さい。」

《ああ、そういうことか。判った。なら、鎧は俺がつけてやろう。》

 ディムさんがぽよん♪ っと、私の胸の間に密着した後、プレートアーマーを浮遊させて、ゆっくりと私に装着しました。


《苦しくないか?》

「はい。少し圧迫感はありますが大丈夫です。ディムさんは?」

《体を軟らかくしたから潰れているが、問題ない。》

 感覚で判りました。

 ディムさんが胸全体を包むようにピッタリと挟まっています。


「パパだいじょうぶ?」

《ああ、まったく大丈夫だ。これなら、フルララをしっかりと守れるぞ。》

「うん。わかったぁ。」

《ついでだ、全部装備してみてくれるか。》

 ディムさんの手伝いもあって、初めての装備を私はすんなりと着る事が出来ました。

「ピッタリです。」

《ああ、問題なさそうだな。》


 そして、すべてを装備したら確かに感じました。

 やっぱり、光剛石が付いてます。

 魔族のディムさんが何故持っているのでしょうか?

 もしかして、過去の勇者が着ていた物だったりして…

 それにしては、傷一つない新品の輝きだし…


「ディムさん、この装備品って…人族の物ですよね?」

《ああ、そうだ。俺のコレクションとして集めたものだ。その中で、フルララの背丈に合うやつを出してみた。》

「そうなんですね。」

 過去の詮索はしない約束なので、私はそれ以上の質問をしませんでした。


 その後、少しだけリビングで体を動かしてみましたが、ディムさんの身体強化魔術のおかげで、重いはずの鎧なのに普段以上の動きが出来ました。


《と、いうことで出発は明日の早朝だ。》

「はい。」


 大蛸の魔獣は群れで活動しないとの事と、縄張りを持つことから、今回の魔獣が大蛸なら1か2匹程度だろうって事になり、ルーテアさん達のパーティーが到着する前に、秘密裏に殲滅することになりました。


「リリアナちゃん、絵本持って寝室行きましょうか。」

「うん。これとこれ、もってく。」

 初めてのダンジョンですが、ディムさんと一緒なので不安になったり悩んだりはありませんでした。

 今日の夜も、リリアナちゃんに絵本を読み聞かせながら寝るのです。


 そういえば…リリアナちゃんにとっては、ディムさんと離れるのって初めてだよね。

 だいじょうぶかな…


 ディムさんの上で眠りに就いたリリアナちゃんの寝顔を、私は少しの間眺めていました。

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