第9話 フルララ、光る。

「リリアナちゃん、このあとは何して遊ぶ?」

「ん~。おはなであそぶぅ~」


 女神ツフェルアス・スティア様への祈りを、リリアナちゃんと一緒にするのが日課になってから、季節は春になっていました。

 そして、リリアナちゃんの喋りが、念話を使わずに会話が出来るようになりました。

 なぜ、途中から念話になっていたのか、その理由が『息継ぎ』だったのです。

 それと、念話自体の使い方も覚えて、相手を指定して使えるようになりました。

 これはこれで、凄い事なのですが、時々ディムさんと内緒話をするようになって、私は少し寂しいです。


 でも、神殿の敷地内なら私と手を繋いで歩いてくれるようになりました。

 リリアナちゃんから手を差し出してくれるので、凄く嬉しいのです。

 そんな私達をディムさんは見守るようにぽよんぽよんと跳ねてついてくるのも、なんか可愛くて、楽しいのです。


 神殿の外はすっかり雪が解け、色とりどりの小さな花が一面に咲いています。

 高原を囲む山にはまだ雪が残っていますが、それもあと数週間ほどで無くなりそうです。


「フルララぁ~。かんむりつくって!」

 小さな花を沢山集めたリリアナちゃんが、私の手にそれを渡しました。

「うん。一緒に作ろうね。」

 小さい頃に、お母様から教わった花冠のことを、リリアナちゃんに話しました。


 私がリリアナちゃんに教えて…そして私のように誰かに教えてくれるのと嬉しいな。


 ディムさんは10歳まではこの地で育てるつもりだったと言っていましたが、私達の説得で一緒に行くことになりました。

 山の雪が解けたら、皆で『北の大地』を離れます。


 ディムさんは、リリアナちゃんが大きくなったら魔族領の街で衣服などを揃えてから人族の領地に向かい、人族の街では、背負った鞄の中に隠れるつもりだったようです。

 なので私が、

「それなら、私と一緒に行けばすぐに街で生活することが出来ます。ディムさんは私の鞄に入って、私がリリアナちゃんと一緒にいればいいですから!」

 と、話が進み、ディムさんの予定が大幅に変わったのでした。


「フルララ、こう?」

 私が教えたことをゆっくりと真似をしながら、数本の花を絡めた紐を見せてくれたリリアナちゃん。

「うん、上手に出来てる。じゃあ、続きを一緒にしましょうね。」

「ん!がんばるぅ~」


 リリアナちゃんが一生懸命なのは、花冠をディムさんに贈るって意気込んでいるからで、私が花冠のことを説明した時に、「好きな人に贈ると喜んで貰えるのよ。」って話したから。

 私も、最初に作ったのはお父様に贈りました。


 春になって一緒に行く事に決まった時、私はディムさんに「リリアナちゃんに何をさせたいですか?」と訊ねました。

 そしたら、「なにもない。リリアナがしたいことを俺はさせるだけだ。」と、凄い理想の答えが返ってきました。


 私は、10歳になる前に許婚を決められました。

 相手は、現国王の長男で王位継承権1席の『イデナルト・オールスト』の息子、『アデルド・オールスト』。

 私の2歳年上の、従兄妹になる人でした。


 私のお母様は政略結婚で、南方の領地を治めるビアルト伯爵家の一人息子と結婚。

 4歳年上の兄様と私、二人の子供を生んでから病弱になり、家からあまり外に出なくなっていた。

 お母様と兄様は、私の政略結婚に反対してくれたけど、お父様は認めてくれませんでした。

 王位継承権1席の皇太子からの直々の指名で、お父様は気を良くしていたのです。


 そして、10歳の『資質』を調べた後、お母様が「神官になって、この家と許婚から逃げなさい。」と、言ってくれました。

 女性の神官職は、純潔でなければならい。

 だから私は、父の顔に泥を塗るかたちで、家を追い出されたのです。

 でも、私が神官になってからも許婚の話は無くなりませんでした。

 神官職として修行を始めてからも、婚約者のアデルド・オールストが私の前に現れるのです。

 彼には、他にも許婚がいるのに私を諦めてくれませんでした。


「フルララできたぁ~!」

 上手に輪になった花冠を嬉しそうに見せてくれるリリアナちゃん。

「凄く上手に出来ましたね。これならお父様も喜んでくれますね。」


 私はあの日のお母様の言葉を口に出していました。

 それは、リリアナちゃんの姿に自分を重ねて見たせいと、あの日のお母様の笑顔を思い出したからでした。

「ん? おとう?」

「パパと同じ意味なのよ。」

「ん! パパぁ~これぇ~」


 立ち上がって、近くで見守っていたディムさんに花冠を渡しに向かうリリアナちゃんを、私は感傷的に見ていました。


 私が後先考えずに行動した結果、死んだ事なって、その悲報がお母様に伝わっていたらと不安なって、叔父様に相談したときでした。

「フルララが生きている事は、世間には伏せる。兄の息子を諦めさせるに丁度良いからな。レファルラには、俺が伝えに行けばいい。」

 と、いつも私を守ってくれる叔父様。

 私が作ったこの花冠を、叔父様は喜んでくれるでしょうか。


「フルララぁ~つぎはあっちぃ~」

 大きくなったディムさんに座ったリリアナちゃんが高原を指差しています。

「はーい。ちょっと待ってね。」

 私は、花冠を持って叔父様の部屋に走りました。

 叔父様はオリファさんと鍛錬中なので居ない事は知っています。なので机の上にそっと置いてきます。

 だって…この歳で、面と向かって渡すのが恥ずかしのです。



 春から初夏になり山脈の雪が解けたので、明日に出発することが決まりました。

 夕食後の入浴から戻ってきた私は、普段と変わらずにリリアナちゃんの遊びに付き合ってます。

「リリアナちゃん、その人形どうするの?」 

 リリアナちゃんは、女神ルーヴィリアス・バーチャ様の人形を手にとって、ジッと見つめている。

「んとね、バーチャがね。いっしょに行きたいって言ってるの。」

「え? その人形もちゃんと持っていくと思うけど。」

 私はディムさんに視線を向ける。

《ああ、ちゃんと持っていくから大丈夫だぞ。ここに出した物は全部持っていくからな。》


「ううん、ちがうって言ってる。下にいるからむかえにこい、わがむすこって言ってるの。」

「え?」

《なに?》

 リリアナちゃんの発言を、私は理解出来なかったのでもう一度、尋ねた。

「んとね、ふういんされているから、たすけにこい。ばかむすこ。だって。」


 よくわからないけど、これってディムさんに向けた言葉ですよね…


「あの…ディムさん?」

 ディムさんは、表情が無いスライムなので判らないけど、固まっているのだけは判りました。

《いや…どういうことだ? 仮にそうだとしても、なぜリリアナだけに声が届くんだ?》

「ディムさん? なにか心当たりがあるのですか?」


《…ああ、俺の母は1200年、いや1250年くらい前に爺さんに捕まってな…行方不明になっているんだ。》

「え? えぇー! それじゃあ、今リリアナちゃんが言っている事って!」

《ああ、俺の母が神殿の下に封印されているから、助けに来いってことなんだろう…》

「早く行きましょうよ! リリアナちゃん、下ってどこか判るの?」

「ん! わかるぅ~ パパ!」

 そう言ったリリアナちゃんが、人形を抱いたままディムさんに載せての合図をしたので、ディムさんは大きくなってリリアナちゃんを座らせました。

「こっちー!」

 リリアナちゃんが指を部屋の外に向けます。

《フルララはここで待っていろ。あと、ガトラ達にも伝えておいてくれ。》

「あっ…はい。気をつけて行ってきて下さいね。」


 私も一緒に行きたいと思ったけど、足手まといになるかと思い、言葉を飲み込みました。


《ああ、無理そうなら一度戻ってくるから。心配をかけるが、大丈夫だからな。》

 私は、ディムさんとリリアナちゃんに1階の通路まで付いて行き、地下に向かう階段前で足を止めました。

「いってらっしゃいー!」

「フルララ、いってくるぅ~!」

《行ってくる。ちゃんと部屋で待ってろよ。》


 私はディムさんの姿が見えなくなるまで見送り、その足で叔父様達の部屋に向かいました。


「叔父様、話があります。」

 私は叔父様の部屋の扉を叩き、中からの返事を待ちました。

「どうした?」

 扉を開けて私の顔を心配そうに見る叔父様に、事の流れを説明します。

「判った。俺達は待つことしか出来ないからな。オリファ達には俺から説明しとこう。フルララは部屋で待ってなさい。」

《フルララさん…聞こえますか? フルララさん。》


 え? なに? 女性の声が頭に…


「どうした、フルララ?」

 私がキョロキョロと辺りを見る動作をしていたので、叔父様が心配しています。

《フルララさん…女神像まで来て下さい。》

「叔父様、私ちょっと教会の部屋に行ってきます。」

 この頭に届く声はツフェルアス様だと直感した私は、叔父様にそう告げて走り出しました。

「なっ? いったいどうした?」

「女神様に呼ばれた気がします!」

 私は足を止めずに、走りながら大声で答えました。


 教会の部屋に入ると、夜の暗さの中で女神像が淡く光っているのが見えました。

《フルララさん、手を…》

 私は躊躇いなどなく、女神像に触れました。

 女神像の光が私の手を伝わって私の中に流れ込み、部屋の中を照らす淡く光は、私の体だけになりました。

《ありがとう。私はツフェルアス・スティア。あなた達が神と呼ぶ者です。今リリアナちゃんが向かっている場所は妹がいるのですが、私はそれを阻止しなければなりません。フルララ、あなたの体を少し借りますね。》


「フルララ! その体はいったい?」

 叔父様が私を追いかけてきていたようです。

「えっと、ツフェルアス様がディムさんが救い出そうとしているお母様を…え? 妹? いもうとぉ?」


 あれ? ツフェルアス様の妹ってルーヴィリアス様だよね?

 ディムさんのお母様が…ルーヴィリアス様?

 えっ?! どういうこと!?


「どうした? なにがあった?」

「えっと、ディムさんのお母様がルーヴィリアス様で、ツフェルアス様がそれを止めようとしている?                 」

《そうです。だから、急いで追いかけて下さい。封印されている部屋の前には、守護兵がいますからすぐには部屋に入ることは出来ないはずです。》


「叔父様、私はディムさん達の所に向かいます。ツフェルアス様が封印を解いたら駄目だと言っているので。」

「判った。俺も一緒に行こう。」

 光っている私の体だけじゃ暗いので、光魔術『ライト』で暗闇を照らしながら地下を目指します。


 神殿の地下2階の中央部分には、昨日まで無かった下へと続く螺旋階段がありました。

「ディム殿だったら、階段を使わずに飛び降りているだろうな。フルララ、俺が背負って走るぞ。」

 叔父様にお姫様抱っこをされた私は、凄い勢いで階段を下っていく叔父様から落ちないように、強くしがみ付きました。



 ディムさんとリリアナちゃんは、お母様を助けたいのに…それを、やめさせるなんて…


《ごめんなさいね。 私も妹を自由にしてあげたいとも思ってはいるのだけど、あの子…この世界で生活するのが好きみたいで、また色々としてしまいそうなのよね。》


 神様がこの世界で普通に暮らす…やっぱ駄目なのかな。


《ええ、妹じゃなければ、許されるかもしれないけど…妹はね…》

 ツフェルアス様の歯切れの悪い言葉に、私はそれ以上の事を聞くことが出来ませんでした。


 …って! 思考が筒抜け?


《ふふ、今は貴女の魂の中にいますからね。》


 そっか…まあ、ツフェルアス様だしいいです。

《ありがと。そうそう、神殿での祈りもありがとうね。こうして貴女の体に入れたのもそのおかげだし、リリアナちゃんとも話が出来ましたからね。》

 そう! それです! やっぱり、リリアナちゃんって会話をしていたのですね。

《ええ、毎日楽しかったですよ。家族以外の人と話すなんてこと、初めてでしたからね。》

 でも、どうしてリリアナちゃんだけに?

 ディムさんだったらルーヴィリアス様と話せていても、おかしくないのに…

《それはね、人形は喋らないって思っているからですね。私達は、私達を認識している相手にしか声は届かないのよ。それも、少しの疑念もない事が条件でね。》

 リリアナちゃんは、最初から信じていたってことですか?

《いいえ、リリアナちゃんの念話は相手を選んでいないのよ。だから、虫にも動物にも届いていたの。その声を、妹は自身の人形から伝わってきたから、返事をした。だから、幼いリリアナちゃんは人形は喋る物って認識したのよ。》

 そっか、だから女神像にも普通に話しかけていたのですね。

《ここは常に私が監視している場所なので、話しかけられる前から貴方達の事を見ていました。他の女神像だったら、気付かずにいたかもしれませんが、私も声をかけられた事が嬉しくなってね、声に応えたのです。》

 ってことは…世界中の教会からの祈りの言葉は…

《フルララさんには酷な話ですが、ほとんど届いていないですね。でもそれは、見ていないからだけじゃないのよ。さっきも言ったとおり、少しの疑念を抱かないで話しかけないと、そもそも声は届かないの。それはフルララさんも同様でしたよ。》

 えっ? そんな…

《それは仕方がないことよ。貴方達は私達を神だと思っているけど、貴方達が思い描く神とは、全然違いますからね。だから、祈っても救われない世界に憤りを感じて、結果『神は本当にいるの?』って心の奥で思ってしまってますから。》

 じゃあ、どうして私はツフェルアス様の声が聞こえたのですか?

《それは日頃の祈りがあって、私が強引に魂に語りかけたからですね。さあ、もうすぐ封印の部屋に着きます。》


 螺旋階段の終点が見え、その先に続く通路が見えていました。


 ディムさんとリリアナちゃんは、大丈夫なのかな…

《守護兵は、この世界で最強です。たとえあの子でも倒すことは出来ないはずです。ですが…引き返して来ないって事は、少し心配ですね。怪我とかしてなければいいのですが…》


 通路の先に、大きな木の扉が見えました。

「叔父様、その扉を押し開けて下さい。」

重音な擦れる鈍い音を響きさせながら、身体能力の上がった叔父様は普通の扉を開けるように大きな扉を開けました。


 大きな空間が目の前に広がる。

 それを、壁全体から出ている淡い光がその大きさを見せていた。

 四方が同じ長さで、100メートルはありそうです。

 ですが、何もありません。一番奥に扉のようなものが見えるだけです。


「なにもないな。」

 叔父様が警戒しながら奥へと歩いて行きます。


 ここが封印の部屋ですよね?

《ええ、確かにここです。部屋の中央に3メートルほどの守護兵がいるはずなのですが…》

 ディムさんとリリアナちゃんもいないみたいですが…


「もう、封印を解いて中に入ってるんじゃないか?」

 叔父様が示す先、一枚岩のような扉が開いているのが見えました。


《そんな! 守護兵はいったいどこに?》

「叔父様、扉へ向かいましょう。」

 両扉になっていた石の扉の片方が、完全に開いている状態でした。


《その奥に妹がいるはずです。もう封印が解かれているのは確かですね。まだ中に居るかもしれませんから、確かめてみましょう。》

「叔父様、中に入ってみます。」

 私は恐る恐る扉の奥へと進みました。


「あっ! フルララだぁ~。ほんとにきたぁ~!」


 真っ黒な壁に囲まれた部屋の真ん中に、白い絨毯が敷かれ、対になったソファとテーブルが置かれています。

 テーブルの上にはボトルが並んでいて、リリアナちゃんはソファに座ってジュースを飲んでいるようです。

 そしてディムさんとリリアナちゃんと向かい合うように、一人の女性がソファに座っていました。


《はぁ…やっぱり、間に合わなかったようですね。》

 ツフェルアス様の落胆する声が、私の中に響きました。


「姉様、来てるのでしょ。こっちに座って話しましょうよ。」

 長い黒髪の女性は、もちろんリリアナちゃんが持っている人形と似ていて、書物などでも見たことがある女性。

 女神ルーヴィリアス様ですかと、確かめる必要などありませんでした。


《フルララさん、ちょっと体を借りますね。》

 その瞬間、私の意識が肉体から離れて、夢の中にいるような感覚になりました。

 そして、私の体はスタスタと歩いて行き、リリアナちゃんの隣に座り目の前の女性を見つめます。


「バーチャ。ここを出るつもりなのですか?」

「もちろんよ。息子とリリアナちゃんと遊ぶって決めたんだからね。それに、フルララちゃんともね。」


 ディムさんが出したのでしょうか?

 ルーヴィリアス様の手には見慣れたグラスが握られていました。


「あ! ん? すてぃあ?」

 私の手がリリアナちゃんの頭を撫でました。

「リリアナちゃん、よく判ったわね。正解! 今フルララさんの体を借りて話してるのよ。」

 そして視線を、お酒を飲んで寛いでいるルヴィリアス様に戻します。

「判りました。でも姉として少し質問と、約束事をしてもいいかしら。」

「姉様とも、久しぶりの会話ですものね。息子よ、ガトラさんだったわね。彼にも席を出してあげて。」

《ああ、判った。》


 ディムさんが絨毯とソファを取り出し、隣に並べて叔父様が席に着くと、二人の話が始まりました。


「なぜ、今なの?」

「ずっとここで暮らすのかと思ってたのに、明日出発するって聞いたから。」


「どうやって、守護兵を倒したの? 残骸も無かったみたいだけど。」

「あ~それは、リリアナちゃんに聞いて。」

 そう言ったルーヴィリアス様が、さっきまでと違う笑みを浮かべています。


 え? リリアナちゃんが?


「リリアナちゃん、この部屋の外にいた、白い鎧を着たおっきな人ってどうしたの?」

「んとね、ひろった。」

「は?」


 は?


 私とツフェルアス様は同時に、同じ言葉を出していた。


《リリアナが欲しいって言ったからな。『次元倉庫』に入れたんだ。》

「入れたって、襲い掛かってこなかったのですか?」

 ツフェルアス様が当然の疑問を訊ねました。


「うごいたぁ~。かっこよかったぁ~。」

《ああ、立ち上がって剣を抜いたところで、倉庫に閉じ込めた。生き物じゃないからな、範囲内に入れば簡単に入れられる。》


 なにしてるんですか、ディムさん…


「あ…あたまが痛いわ。」

 ツフェルアス様の、額に手を置く姿を見たルーヴィリアス様が笑い声を上げました。

「想像すら出来なかったでしょ! 私もその話を聞いた時、開いた口が閉じなかったんだから。」


「でもそれだと、リリアナちゃんの玩具にはならないでしょ?」

「それも、さっき息子とリリアナちゃんに話した事だけど、私が外に出れば命令の書き換えなんて簡単に出来るからって説明しておいたわ。」

「まあ、妹がここから居なくなるんだし、置いておいても意味がないですからね。判りました。」


「それじゃあ、外に出るなら、姉の私に誓ってくれませんか。」

「ええ、姉様に迷惑をかけたくないですから。」


「無関係な生き物を殺さない事。リリアナちゃんを悲しませない事。この二つでいいです。」

「判ったわ。姉様に誓って守ります。」


 え? えっと…なにか曖昧な気もしますけど…

《これで良いのですよ。曖昧だから妹は考えて、自制してくれますからね。それとリリアナちゃんを基準にすることで、さらに抑制できるはずです。》

 守護兵を拾っちゃうんですけど…

《まあ、それは愛嬌ってことで。》


「わたしは戻りますね。リリアナちゃん、またどこかの教会でお話しましょうね。」

「うん、わかったぁ。」

 そしてツフェルアス様は私に体を戻して、消えてしまいました。

「姉様も戻ったことだし、私達も地上に上がるわよ。」


 神殿に戻ると、フルラージュさんとオリファさんが食堂前で待っていました。

「皆どこ行ってた…ってその方は?」

 フルラージュさんの心配顔が疑問顔になった時、私は説明する為にある単語を並べました。


「ディムさんのお母様で、女神ルーヴィリアス様です。って! その説明聞いてなかったぁー!」



 私はディムさんに話を聞きたくて仕方がなかったのですが、リリアナちゃんが「フルララ、ねむいぃ」と言うことになったので、私はリリアナちゃんと部屋に戻りました。

 フルラージュさんとオリファさんへの説明は、ディムさんとルーヴィリアス様がすることになり、私だけ除け者みたいになりました。


「フルララ、はやくぅ。」

 リリアナちゃんをベッドに下ろして、私も一緒にベッドに入ります。

「パパとね、バーチャはかぞくなの。んでね、リリアナもバーチャのかぞくになったの。だからフルララもいっしょなの。」

 私に抱き付いて寝ようとしているリリアナちゃんが笑みを浮かべています。

 そして、小さな寝息が聞こえてきました。


 そうよね。ディムさんはディムさんですよね。誰だったかなんて、今は関係ないです。

 でも…人族の村に行くのはどうなるんでしょうか?

 ルーヴィリアス様は魔族領で暮らしていたはずだし、でもディムさんは人族でリリアナちゃんを育てるって言ってるし…

 あー、気になって眠れないです。

 というか、女神様と一緒に暮らすってことになるんだよね。

 いいの? だいじょうぶなの? ツフェルアス様…大丈夫なのですかー?

 んぅー、早くディムさん戻って来ないかなぁー。

 気になって寝れないですぅ。



 … … …



「フルララぁ~おきてぇ~あさごはんぅ~!」

「んぅ~リリアナちゃん、ありがと。…ちょっと待ってね。」

 私はゆっくりと体を起こして、背を伸ばして目を覚まします。


 … はっ!

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