第7話 フルララ、夢を見る。
北の大地に来て1ヶ月が過ぎました。
リリアナちゃんの会話の練習は、少しずつ成果が出ています。
「パパ」《だっこして》
なぜか最初の単語だけが、口から発音することが出来るようになりました。
そして、ディムさんとリリアナちゃんは相変わらず、ベッタリしています。
部屋の中では、私と一緒にいることが多いのですが、部屋から出ると必ずディムさんの上に座るのです。
フルラージュさんが靴下のようなブーツを作ってくれましたが、ほとんど部屋の外では歩きません。 私が『リリアナちゃんの足腰が弱くなるから』と助言しても、部屋で遊んでいるから大丈夫だと言うし…
溺愛です。親バカです。史上最強の『娘がダメになる父親』です。
いや、リリアナちゃんはダメな子じゃないです。性格は凄くいいんですよ。素直だし、いつも笑顔だし、優しいし。
ただ…ディムさんへの甘えっぷりが常識外なんです。
そりゃ、ディムさんが何でも出来るスライムっていう時点で常識外なのは、私も判ります。
ですがそれ以上の、あの精神的にも物理的にも、類を見ない包容力!
私も一度は、その上で寝てみたいものです。
っと! 今は祈りの最中でした。
神殿の一番東側にあった部屋は、女神『ツフェルアス・スティア』様の石像があり、教会になっていました。
見つけたのは、この神殿に来てから一週間ほど経った時、私だけがお留守番になった日でした。
それから、ディムさんが壁や天井を修復してくれて、午前の食材探しで皆が出かけている間に、祈りを捧げることにしました。
フルラージュさんの魔術指導を兼ねた食材探しなので、私も一緒に行っても良さそうなのに、ディムさんは、「大丈夫だ。フルララは祈りで魔力を高めろ。」と言って、結局、留守番です。
祈りを済ませた私は部屋に戻って、リリアナちゃんの勉強道具の作成をしています。
と、いってもリリアナちゃんはまだ4歳前なので、絵本を作ったり、絵遊びパズルを作ったりしています。
私は、絵は得意なんですよね。
そして、ディムさんが色筆を持っていたし、真っ白な紙も沢山持っていたので、製作に問題はありませんでした。
「フルララぁ~」《ただいまぁ~》
リリアナちゃん達が帰ってきました。
フルラージュさん達は、帰宅後すぐに昼食の準備を始めるので、ディムさんとリリアナちゃんが私を呼びに来るのです。
「はーい。」と返事を返して、私はリリアナちゃんんとディムさんと一緒に一階に降りて行きます。
食事部屋から、焼きたてのパンの香りが漂ってきます。
北の大地の南側の森でチクリの木が沢山生えていた森林を見つけてから、毎食にチクリのパンが出るようになりました。
硬い皮に覆われた木の実は中も硬く、味も苦いのですが、粉々に砕き、粉に変えてから大量の水で3時間ほど放置すると、渋みが抜け、水を切ると丁度いいパン生地になるとのことでした。
フルラージュさんとオリファさんは、その事を知っていて、当然、石釜での焼き方も熟知していて二人には本当に世話になりっぱなしです。
粉挽きからすぐに水に浸さないと、色が変わって使えなくなり、水に3時間以上漬けても駄目になり、パン生地にしてからもすぐに焼かないと駄目になるので、本当なら毎回粉挽きから始めないとだめなのですが、そこはディムさんの『次元倉庫』です。
大量に作った焼きたてのパンを倉庫に保管することで、いつでも焼きたてのパンがすぐに食べれるのです。
ほんとディムさんて、凄いです。
そして、ディムさんが蜂蜜をあまり持っていないと知ったガトラさんが、高原や森で蜂の巣を探し出して大量の蜂蜜を確保してきました。
最初、私だけが残るって言っていた事…もう、恥ずかしくて言えません。
「おねえちゃん、」《はちみつぬってぇ~》
「ちょっと待ってね。」
そして、私が『お姉ちゃん』になるはずだったのに、何故かフルラージュさんが呼ばれる事になりました。
ちょっと悔しいですが、訂正することも出来ないですし、私とフルラージュさんを『お姉ちゃん』って呼ばれると返事に困りますからね。我慢です。
食後のティータイムに入り、リリアナちゃんに林檎ジュースを渡したディムさんに、私が淹れた紅茶を渡します。
《食材は十分に集まったと思う。それと、寒くなってきたから食材集めは今日で終わりにする。まあ、春までのんびりと過ごしてくれ。》
ディムさんがそう言って、紅茶を一飲みで空にしていた。
「では、オリファ。剣術稽古は午前に済ませて、午後はゆっくりと過ごすことにするか。」
「はい。えっと…じゃあ、ラージュはどうしますか?」
オリファさんが、物言いたそうな顔でフルラージュさんを見ています。
この一ヶ月で、午前中の食材集めから戻ってきたガトラさんとオリファさんは、午後から剣術の鍛錬をするのが日課になっていた。
フルラージュさんは、午後からはディムさんの部屋で、リリアナちゃんの換えの服やぬいぐるみなどを作ったり、ソファで寛いだりをしていました。
なので、オリファさんはフルラージュさんとの時間は、夕食後から就寝までの3時間ほどでした。
その時間の間に入浴1時間が入るので、実際は2時間あるかないか、なのですが、それでも私からみたら十分な時間だと思っています。毎日2時間ですからね。
だけど、オルファさんが満足していないのは、態度を見れば明らかです。
フルラージュさんに、それとなく聞いてみましたが、まだ自室に呼んだりも無く、呼ばれても断っているとのことで、キス以外をしていないとのことでした。
まあ、自室と言っても隣の部屋には叔父様が居るわけですし、なにも出来ないことには変わらない気もしますが…
リリアナちゃんの前では、絶対にそんな顔を見せないで欲しいものです。
「ん゛っん゛」
私は咳払いをして、フルラージュさんに私の意図を伝えます。
「そうね。リリアナちゃんの服とかも今は大丈夫だし、午後からはのんびりと過ごそうかしら。」
フルラージュさんの、少し恥ずかしそうな視線を貰ったオリファさんが満足そうな笑みを浮かべています。
二人は結婚するのかな?
オリファさんの一目惚れって聞いたけど、頼れるお姉さん的なところなのかな?
確か、フルラージュさんはオリファさんより1つ年上だったし…
いいなぁ~私も好きな人と結婚したかったな…
次の日、私はリリアナちゃんと教会に来ました。
食材探しに出掛けなくなったので、私の祈りに付き合ってくれました。
まあ、ディムさんの上にいるのは変わらないですけどね…
「ディムさん、暇じゃないですか?」
《ん? ああ、別に気にすることでもない。リリアナと一緒にいることが俺のやりたいことだからな。》
ほんと親バカです。
尊敬するほど羨ましい、親バカです。
「リリアナもいのるぅ~」
「そうね。一緒に祈りましょうね。」
私は石像の前で両膝を付けて、手を組んで祈りの動作を見せると、隣に来たディムさんの上で、リリアナちゃんも同じように座ってみせた。
「うん、上手。それじゃ、神様ありがとうって心の中で想いながら目を瞑ってね。」
「うん」《わかったぁ。》
… … …
《ばーちゃのおねえちゃん? …うん。わかったぁ~》
「えっ?」
私はリリアナちゃんの突然の言葉に驚いて、目を開けてリリアナちゃんを見ました。
《ん? リリアナどうした?》
《んとね…ばーちゃのおねえちゃん。》
リリアナちゃんが女神像を指差しています。
ばーちゃ? ああー!
《ああ、この女神像は『ツフェルアス・スティア』だったな。そうだぞ。バーチャのお姉ちゃんだ。》
私が気付くと同時に、ディムさんがリリアナちゃんの言葉に答えていた。
リリアナちゃんが「バーチャ」と呼んでいるのは、ディムさんの部屋にあった人形の名前です。
それは堕女神『ルーヴィリアス・バーチャ』の人形で、確かに、この女神像の妹になります。
《すてあ~》
リリアナちゃんが嬉しそうにはしゃいでいます。
《フルララが教えてやったのか?》
「えっと…神話の話をしていたときに…言ったような…」
《そうか。まあ、あの人形が大好きで話しかけているくらいだし、覚えたのかもな。》
「そうですね。 凄く楽しそうに遊んでいますからね…」
ディムさんの部屋に最初からあった女神『ルーヴィリアス・バーチャ』の人形は贈り物で貰ったと言っていました。
最高神で、女神二人の父親でもある『ロフォテアス・ザーレン』のお酒を飲み干したことで激怒され、その父親の態度に逆切れした『ルーヴィリアス・バーチャ』が神界を飛び出して、闇の世界で好き勝手に遊んで、魔族を従えてこの世界に光臨したことになっている。
元々が、死者の管理者だった女神なこともあり、人族では『闇の女神』として恐れられていますが、一部の「死は平等であり」を信仰する人達もいるで、人族が女神ルーヴァリアスの人形を持っていても不思議ではないのですが…
普通は、人形遊びなどには使いません。
私たち人族が、女神ツフェルアス・スティア様の人形で遊んだりとかあり得ないことです。
まあ、ディムさんは魔族だったのだから、そういう常識を知らないのは仕方がありません。
なので、そういう所も含めて、私はリリアナちゃんを見守っていたのですが、時々違和感を感じることがあります。
人形と、会話をしているように見えるのです。
リリアナちゃんの念話は、相手を選んでいるのではなく、無選択の範囲念話だったようで、だいたい見える範囲なら聞こえたりします。
なので今みたいに、人形に喋りかける言葉も私達に届くのですが…
人形に頷いたり、問いかけたりしているのです。
私は気になって、一緒に見ていたフルラージュさんに聞いてみたのですが、「一人ぼっちだと、そういうものよ。」と、問題ない行動だと教えられました。
だけど、どこか納得していない自分がいるのです。
《ばーちゃすき~!》
一体、リリアナちゃんはどんな会話で遊んでいるのでしょうか?
女神像に向かって笑みを送っているリリアナちゃんは、無邪気に遊んでいる子供の姿でした。
昼食後、いつものように部屋でリリアナちゃんのお昼寝の添い寝をします。
お昼寝の時は、私とベッドに寝てくれるリリアナちゃんなので、私の楽しみにの一つになっていました。
出来れば一緒に寝たい気分なのですが、フルラージュさんが部屋にいるので、そういうわけにはいきません。
ですが! 今日からフルラージュさんはオルファさんと過ごすので部屋に居ません!
なので、一緒にお昼寝をするのです。
「フルララ~」
絨毯で、絵合わせパズルを遊んでいたリリアナちゃんが真剣な顔で私を見てきました。
「ん? なに?」
「おねえちゃん」《いないよ?》
いつも座っているソファを指差すリリアナちゃん。
「そうね。おねえちゃんは、オリファさんのところかな。昼からは一緒に過ごすことにしたみたいよ。」
《ふ~ん…なんで?》
「リリアナちゃんは、パパと一緒に居たいと思うよね?」
「うん!」
「それと同じかな。」
「そっか」《だいすきだぁ~》
「ごめん…戻ってきました…」
私は背後からの声に振り向くと、そこにはフルラージュさんが、立っていました。
そして、気恥ずかしそうな笑みを私とリリアナに見せています。
「おねえちゃん」《きらいになったの?》
私はリリアナちゃんの言葉にドキっとしてしまい、息を呑みました。
「ううん。そうじゃないのよ。結婚を申し込まれたんだけど、どう返事を返したら良いか判らなくて、考えさせてって逃げてきちゃった。」
そう言ったフルラージュさんの見せた笑顔は、嬉しいのか困惑しているのか、初めて見た顔でした。
《けっこん?》
私はリリアナちゃんに教えてあげました。
「えっとね、けっこんってね、好きな人と死ぬまで一緒に居よう。って誓うことなのよ。」
それは、私には無縁の幻想でした。
「そっかぁ~」《リリアナは、パパとけっこんしてるぅ~》
リリアナちゃんの言葉にディムさんが反応しました。
《ああ、それはちょっと違…まあ、それでもいいか。似てるからな。》
ディムさん、説明するのが面倒になったでしょ。
リリアナちゃんに嬉しい事言われたから、訂正しないんでしょ。
「じゃあ!」《フルララともけっこんするぅ~》
「えっ? あぁ…ん~。それはちょっと出来ないかな。」
私の返事に、リリアナちゃんが涙を溜めて泣きそうになっていた。
「えっとね。私もリリアナちゃんと死ぬまで一緒に居たい気持ちはあるのよ。でもね、女の子同士は結婚出来ないの。」
《そうなの? パパ?》
《ああ。だから、フルララはリリアナのお姉ちゃんになったんだぞ。家族は離れていても、ずっと家族だからな。永遠だ。》
《うん。フルララはおねえちゃんだぁ~》
笑顔になったリリアナちゃんが、私に抱き付きました。
リリアナちゃんの言葉とディムさんの優しさが嬉しくて…私はリリアナちゃんから伝わる体温の暖かさに、涙が溢れそうになるのを必死に堪えたのでした。
《で、フルラージュはどう返事をするつもりだ? 人族の領地に戻る時まで、保留にするつもりなのか?》
ディムさんの言葉にフルラージュさんが困惑した表情を見せています。
「やっぱり、その…不安が…」
《前にも聞いたが、収入だけの問題なんだな? それが解決すれば、オリファとの結婚は?》
「えっ!? ラージュさんの悩みってそこなんですか?」
私は、ディムさんの言葉に驚きを隠せませんでした。
だって、そんな話をディムさんにしていた事も入れた、2重の驚きだったのですから。
「フルララさんは裕福な家庭で育ってるから、そんな事だと思うかもしれないけど、お金があれば家族を失わずに済むことだってあるのですよ。」
フルラージュさんの言葉に、私は自分よがりで恥ずかしく、凄く失礼な発言をしたことを理解しました。
「すみません!」
私は絨毯に座ったまま、頭を大きく下げて頭を絨毯に置いて謝罪しました。
「いえ、私も言い過ぎました。お金が全てじゃないって事も判っています。だけど、私の中ではそれが一番なのよね。贅沢したいって気持ちも確かにあるんだけど、それ以上に、お金で救えた命があった。この記憶がある限り、私の一番はお金なのよ。」
《フルララも反省はそれくらいでいいから、二人とも頭を上げてくれ。話が進まないからな。》
ディムさんの言葉で私は頭を上げると、フルラージュさんも座って頭を下げていました。
《フルララとおねえちゃん、なかよし?》
不安な顔を向けているリリアナちゃんに、私とフルラージュさんは「うん。」と答え、笑みを見せ合いました。
それから、フルラージュさんはオリファさんの事は大好きで、結婚してもいいと思っていると話してくれました。
《さて…少し早いが、楽して儲かる話を教えてやろう。ただし、この話を誰にも言わないと誓うならだ。なぜなら…知れ渡れば儲からない話になるからな。》
ディムさんの言葉に、フルラージュさんが息を呑んで頷きました。
「あの? それって私も聞いていい話なんですか?」
《ああ、フルララにも手伝って貰った方が、儲かりそうだしな。》
私の疑問に、ディムさんはどこか楽しそうな声で答えてくれました。
「はい、判りました。」
《材料が揃っていないから、説明だけになるが…》
そう言って、リリアナちゃんの遊び道具になっている丸い魔石を、キャビネットから取り出しました。
そして、そこから始まったディムさんの話は驚くことばかりでした。
ダンジョンの壁は魔力を吸収して無力化する事は判っていました。
どうしてそうなるのかは解明していませんが、そのおかげで、密閉された場所でも高火力の魔術を心置きなく使えるのです。
その壁を粉末にして、付与したい属性の魔力を吸収させて、『ロック』を使って魔石と融合させると、魔鉱石になる。
それが光属性なら、『光剛石』になるなんて…
ディムさんが私に聞かせた理由がこれでした。
属性付きの魔鉱石は、生活用具として重宝されています。
火の魔鉱石は暖房と光。水は飲料水や生活用水。風は乾燥や掃除など。
魔鉱石に魔力を流せば、自分が使えない属性でも使うことが出来ることから、私達の価値は、火>水>風となっていて、土は砂を出すだけなので価値は全然ありません。
そして、光は別格なのです。
『光剛石』は魔素を相殺することから、防具や剣に付けて魔物や魔獣を寄せ付けないお守り的な用途に使ったり、大きい物だと村や町を守ることに使ったりします。
フルラージュさんは火と風と土を付与する事が出来るので、火属性を付けるのが一番価値が高くなり、今リリアナちゃんの遊び道具になっている魔石を『火の魔鉱石』に作り変えたら、白金貨2枚くらいにはなるでしょう。
ですが、それを私が手伝って『光剛石』にした場合は、白金貨100枚くらいになるかもしれません。
一個で、範囲数百mの魔除けになるのだから。
《ざっと説明したが、極小魔力の『ロック』を何度も繰り返す手間と、魔力調整技術が必要になる。だがそれは、温水作りや温風と同じだから、フルラージュは問題なく出来るだろう。》
もしかして…いいえ、もしかしなくても、フルラージュさんへの魔術指導は、これの為だったのでしょう。
ディムさんが、どうしてここまで面倒を見てくれるのか判らないけど、それがディムさんの本質なのだと理解し、私は胸の奥が暖かくなるのを感じていました。
「でも…ディムさん…」
《ん? なんだ?》
私は、考えたくない不安を打ち明けました。
「ラージュさんが『光剛石』や『魔鉱石』で財を築けば、疑う人が出るはずです。それに、ラージュさんが妬まれたり、狙われたりするのではと…」
《ラージュは冒険者なのだろ。ダンジョンで得た物は、正当な報酬だと聞いている。だから、ダンジョンで拾った事にすればいい。その為の魔術特訓だ。もちろん、オリファも鍛えているぞ。》
ディムさんの、先の先を考えての行動に、私はただただ、尊敬するしかありませんでした。
魔鉱石はダンジョンの中か、魔鉱山でしか取れないと言われています。
正確に言えば、魔鉱山は過去のダンジョンが地上に隆起した物らしいので、全てがダンジョン産になります。
いったいディムさんって、どういう人物だったのでしょうか…
いえ、魔王の側近かもしれない人なのです。凄く頼りになる、策士や軍師だった人なのかもしれないですね。
そんな人が、今はリリアナちゃんの父親として全てを注ぎ込んでいることは、人族にとって有益どころの話じゃない気がします。
そうよ! 私はリリアナちゃんと、ディムさんにずっと付いて行くことにします。
私が授かった『星詠み』は、二人に出会う事、そして見届ける事なのよ!
《ん? フルララどうした? 握りこぶしを作って?》
「いえ、ディムさんは凄い人なんだと、改めて思っていたところでした。あっ! リリアナちゃんごめんね。」
《んっ…だっこぉ~》
絨毯の上で眠そうにしているリリアナちゃんに気付いた私は、リリアナちゃんを抱きかかえてベットに向かいます。
《まあ、そういう事だから金の事は心配しなくていいぞ。それと、相手に頼る人生なんてどうなるか判らんからな。》
ディムさんの言葉に、フルラージュさんの表情が一変しました。
目を覚ましたような顔といった感じでしょうか? 憑き物が取れたような顔といった感じでしょうか?
「そうですね。 自分の幸せを人に頼るなんて、愚かなことだって知っていたのに忘れていました。私今からオリファのところに戻ります。」
《ああ、オリファに伝えておいてくれ。ラージュと結婚したいのなら、ガトラを超えてからとな。》
「はい。伝えておきます。」
満面の笑みで部屋から出て行ったフルラージュさんを見届けた私は、ベッドにリリアナちゃんをそっと寝かせて、隣に添い寝しました。
リリアナちゃんを挟んだ反対側に、ディムさんがぽよん! って座ります。
私は、リリアナちゃんを起さないように、小さな音で笑い声を漏らしました。
「ディムさん、それだと結婚がいつになるか判らないですよ。それに、それは娘の結婚を認めない父親の台詞ですからね。」
《本当の事だから仕方がないだろ。ダンジョンで、ラージュを守れない男じゃ駄目だからな。》
「ダンジョンですよね…危険な所だと聞いています。大丈夫なのでしょうか…」
《安心しろ。実際には俺が付き添っていくつもりだからな。二人には内緒にしとけよ。》
ああ…やっぱりディムさんは優しくて、面倒見が良くて、頼りになる理想のお父さんなんですよね…
「うん…ディムさんと一緒なら安心ですね。」
不安の無くなった安心感からか突然の睡魔が襲い、リリアナちゃんの寝息が子守り歌のように聞こえ始めた頃、私の意識が薄くなるのを感じました。
「わたしも…」
そして、私の意識は消えたのでした。
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