第6話 魔王、食される。

《リリアナ、フルララ、朝だぞ。》

 俺は、横で寝ているフルララと、上で寝ているリリアナを起こす。


 魔王時代の習慣なのだろうな、職務と配下達の手本となるように毎日規則正しい生活をしていた俺は、寝起きがいい。


「ん…んぅ~…おはようございます…」

 まだ半目で寝ぼけてはいるが、フルララは体を起こして腕を伸ばしている。

「んっ…んぅ~」

《パパぁ?》

《おはよう、リリアナ。朝だぞ。》

《はーい。》

 目を覚ますとすぐに元気になって、ベッドの上で遊びだすリリアナとは対象的に、フルララは起きるまでに時間が掛かる。

《リリアナは起きたぞ。》

 俺は、まだ下着姿でぼーっとしているフルララに声をかける。

「んー! 温かい紅茶があれば最高ですよね。」

 やっと目を覚ましてベッドから降りたフルララが、服を着ながらそんなことを言っている。

《茶葉ならあるぞ。ティーポットもあるから飲むか?》

「ほんとですか!? 是非、お願いします!」

《パパ、リリアナもぉ~》

《ああ、わかった、わかった。》

 ベットに、よじ登りそうな勢いで手をついているフルララと、抱きついているリリアナをたしなめるように俺は返事をした。


 俺は、献上品で貰った紅茶の茶葉と、何かの祝いで貰ったティーポットとティーカップ4つがセットになった箱を取り出し、部屋のダイニングテーブルに置く。

《お湯は俺が注ぐから、準備してくれ。》

「はい。今準備します。」

 鼻歌を歌いだしたフルララが、手際よく茶葉をティーポットに入れてカップを3つ並べる。

 ティーポットに『ウォーター』と『ファイア』で作った熱湯を入れると、フルララが蓋をして、また鼻歌を歌いながら眺めている。


 リリアナも興味深々で、椅子に座って待っているが、飲めるのだろうか?


「リリアナちゃんは、少し冷ましてからね。やけどするから。あっ!砂糖ってあります?」

《もちろんあるぞ。最高級の砂糖だとか言っていたが、俺には判らなかったな。》


 俺は、献上品なども『次元倉庫』に入れては使わずに放置していたから、色々とある。だけど、俺が思い出さないと取り出す事が出来ないから、実際にどれだけの物が入っているのか、見当も付かない。


《そうか! 蜂蜜も確かあったな。紅茶に蜂蜜を入れると美味しいと聞いている。リリアナもそっちの方がいいだろ。》

「蜂蜜ですか! 私も大好きです。」


 フルララの目がキラキラしてるんだが…

 まあ、砂糖もついでに出しておくか。何かの料理に使ってくれるだろう。


 俺は瓶詰めされた蜂蜜と、同じく瓶詰めされた砂糖をテーブルの上に置いた。

《砂糖も蜂蜜も、色々と使えるだろうと思うから、あとで下に持っていってくれ。》

「はい。ラージュさんなら、色んな料理に使ってくれると思います。」

 フルララの目のキラキラが収まらないまま、カップに紅茶を注ぎ、スプーンで掬った蜂蜜を垂らして混ぜていく。

「あ~、この香り…目が覚めますね。」

 楽しそうにスプーンを取り出したフルララが、出来上がった一つ目の紅茶を、ジッと待っていたリリアナの前に置く。

「リリアナちゃんには蜂蜜多めです。ディムさん、少し冷ましてあげてくださいね。」

《ああ、もちろんだ。》

 俺がリリアナの紅茶に冷気を少しかけている間に、フルララは2つ目の紅茶を作り終えて、俺の前に置いた。そして、自分の分を作り出す。

 俺は別に甘くなくても良かったのだが、フルララが嬉しそうに蜂蜜を混ぜているのを断ることが出来なかった。


 フルララが自分の分を作り終えて席に着いたので、俺は紅茶を一口飲む。


 まあ重力魔法で、手で持っているように動かして、口のように空けた場所に流し込むのだが、最初は驚かれた。

 そして、リリアナに食事の仕方を教える為にしていると話すと、すぐに納得してくれた。

 もう、4人がいるから食事の仕方を見せなくてもいいのだが、俺がこの食べ方で食事するのが当たり前になっていたし、食事をしている気分になるから、止めることはない。


「はぁ~、こんな美味しい紅茶は久しぶりです。」

《パパ、おいしいぃ~》


「ディムさん~フルララ~ご飯出来てますよ~」

 フルラージュが扉を開けて部屋に入ってきた。

 俺は二人の幸せそうな笑みを眺めていたら、時間を忘れていたようだ。

「って、紅茶飲んでるの?!」


 フルラージュにちょっとお説教をされたフルララだったが、食後に紅茶を出すことで話は纏まり、砂糖と蜂蜜を持ったフルラージュと一緒に俺達は朝食に向かったのだった。


「ディムさん、他に調味料とかはないのですか?」

 食後の紅茶を飲みながらフルラージュが訊ねてくる。

《そうだな。贈答品ばかりだから、塩とかコショウとかは無いな。使えそうな物といえば、酒くらいか? ああ、ジャムがあったな。》

 俺は倉庫から、ジャムの詰め合わせを取り出してテーブルに置く。

《パパ? じゃむってなに?》

「え?! ディムさんどうして、リリアナちゃんがいるのに蜂蜜やジャムを忘れていたのですか?」

 フルララが目を丸くしている。

《ん? 小さい子に食べさせて良いものなのか、判らなくてな。それに、このまま食べる物なのか?》

 俺の問いに答えたのはフルラージュだった。

「そうですね。そのまま食べても問題ないですが、甘すぎて取り過ぎることになりやすいですね。特に子供は。やっぱり、蜂蜜もジャムもパンやクッキーに乗せるのが良いですが、ここには小麦がありませんからね。」


「コキの実か、チクリの実があれば代用できると思いますけど、森にありますかね。」

「あ~、そうね。少し硬くなるけど、あれば作れるわね。」

 オリファの助言にフルラージュが相槌を打つ。


《俺はそれを知らないからな。丁度、お前達の戦闘訓練をするつもりだったし、森で探してみるか。》

 俺の言葉に4人が驚きの声を上げる。

《前衛の二人には、ラージュの魔術に対応して貰わないとな。それとフルララの支援魔術の訓練にもなるしな。》

「それは願ったりの話なのですが、どうして?」

 ガトラの問いに俺は簡潔に答える。

《暇だからだ。》



 リリアナをいつものように乗せた俺は、森の中で4人の探索を見物していた。

 ガトラとオリファは、騎士団所属だが野外活動の訓練もあり、森の中の移動を苦も無くこなし、食材採取の知識も素晴らしいものだった。

 そしてフルララとフルラージュは予想通り、足取りは重くガトラとオリファが守るように、森の中を進んでいく。


《左の斜面上に熊だ。数は単体。》

「了解した。 俺が先行する。」

 ガトラが盾を構えて、木々の間を縫うように斜面を上がっていく。

「目標確認。向こうも気付いたようだ。」

 ゆっくりとガトラに視線を移した、体長3メートルほどの黒い熊が斜面を駆け下りる。


 熊の突進を盾で受け流したガトラが、勢いを残したままの熊の尻に体当たりをする。

 すると、バランスを崩した熊が木に衝突。

 怒りを見せた熊が立ち上がり腕を振りかざすが、ガトラは冷静に盾で防ぎ、右手の剣で切り落とす。

「撃ちます!」

 腕を落とされた熊が動きを止めた瞬間、フルラージュの「エアカッター」が熊の首を切り落としていた。


 熊などの獣に対しては、全然余裕だな。


《血の匂いで魔獣が来ると思うが、見張っているから安心しろ。》


 俺は、腕や足の肉の部分だけを切り取るだけだったが、ガトラ達はそれ以上の部位も使える事を知っていたので解体を任せている。

 なので、食材集めに関しては俺が教えを受ける立場になっている。


《パパ、おにくいっぱいだぁ》

 ガトラとオリファによって、次々に解体されていく肉の塊を俺は『次元倉庫』に入れていく。


「リリアナちゃんは見慣れているから、全然平気なのですね。」

 俺の隣にいるフルララが、少し青ざめているようにみえた。

《まあな。それに命を奪う意味も、ちゃんと教えているからな。》


《パパ、きたよぉ~》

《ああ、3匹来たな。》

 俺はガトラ達に、犬型の魔獣が3匹、1km先から走って来るのを教える。


《フルララ、教えた通りに、凝縮した『光の加護』をメンバーに掛けておけよ。》

「はい!」と、気合が入った返事をしたフルララの手に魔力が集まっていく。

《ラージュ、3匹いるから、1匹は先制で倒してみろ。ガトラとオリファは1匹ずつ足止めだ。》

「はい。」と、返事をしたフルラージュも魔術の溜めに入る。


「了解した。俺が2匹目を、オリファは3匹目を頼む。」

 ガトラとオリファは解体を中断して、剣と盾を構えている。


 この北の大地と言われる場所では、犬型の魔獣以外の魔獣を見ない。

 まあ、この山や森を駆け抜けて狩りをするとなると、4本足の犬型が適しているのは分かる。

 その犬型の上位種になる『デビルハウンド』が他の魔獣を寄せ付けないのだろう。


 森の斜面を、疾風の速さで駆け走るデビルハウンドがガトラ達の視界に入る。

 先頭の一匹に向かってフルラージュがウインドショットを放つが、距離が遠すぎた為、かわされていた。

「オリファ! 2匹目を頼む。ラージュは3匹目の足止めを!」

 ガトラが瞬時に1匹目の前に立ちはだかる。

 オリファが指示された通りに、2匹目の噛み付きを盾で防ぐと同時に、3匹目の前には火柱が発生していた。

 フルラージュの『ファイアピラー』が3匹目の足止めに成功する。


 ガトラとオリファはデビルハウンドの攻撃を盾で押し返している。

「ガトラさん! これならいけます!」

「そうだな。力負けはない! やってみろ!」

「はい!」


《おにいちゃん、がんばれ~!》

 リリアナが二人を見て声援を送る。


 フルララの支援魔術がデビルハウンドの魔素量を超えたってことだな。

 こうなると、ただのデカイ犬と変わらん。


 俺は、前衛の二人の攻防を横目に見ながらフルラージュの行動に注意を向ける。

 3匹目のデビルハウンドを火柱3本で突進を止めた後、魔力の凝縮を始めていた。

 練習を重ねて凝縮時間が短くなった『エアカッター』が火柱を切り裂きながら足止めをくらったデビルハウンドを切り裂く。


「よし!」

 フルラージュが手をギュッと突き出して、喜びを表している。


《まだ終わってないぞ!》

 俺はフルラージュに次の指示を出す。

《二人の支援をしてみてくれ。魔獣の足止めだ。》

「はい。」

 俺の声で集中を取り戻したフルラージュが、風魔術『サイクロン』でデビルハウンドの逃げ道を塞ぐ。

《いい判断だ。あとは二人に任せてみようか。》


 竜巻で退路を断たれたデビルハウンド。その動揺からか、動きが鈍くなったのをガトラとオリファは見逃さなかった。

 盾をかざして攻撃を受け止め、返しの剣技で急所を突く。

 そして、畳み掛けるように剣技を重ねていく。


《たおしたぁー!》

《そうだな。》

 リリアナが両手を手を上げて宣言した通り、3匹のデビルハウンドが息絶えて倒れていた。


「フルララの支援魔術の効果がこれ程とは…」

 ガトラが感嘆の声をこぼすように呟いている。

「私もビックリしてます。これなら、魔族にも対抗でき…ますよね…」

 フルララが俺の方を見て言葉を濁していた。


《だから、気を使うなって言ってるだろ。俺は対等にしただけだ。命は平等で対等だからな。そして公平だ。食うか食われるか、奪うか奪われるか。そういうことだ。》

「はい、そうですね。」

 納得したのか、フルララが倒れたデビルハウンドに視線を移していた。


 熊の解体作業に戻ったガトラ達から少し遅れて、俺はデビルハウンドから魔石を取り出し、一つをリリアナに持たせて残りの2つを倉庫に入れる。



 森の探索に戻った俺達は、山芋や茸、薬草などを集めながら山の中を進んでいた。

《パパぁ~、おなかすいたぁ。》

 目的の木の実は見つからなかったが、俺達は豊富な山の食材を集めることに夢中になっていたようだ。

《そうだな、ご飯にするか。戻ってからだと、遅くなるから、山を降りた辺りで昼食にしようか。》

 俺の言葉に、フルララ達から返事が返ってきたので、俺は移動用に木を一本切り落とした。


「ガトラさん、なにかありますよ? あれってなんでしょうか?」

 オリファが指差したのは、少し広場のようになっている草むらの先にある岩壁で、大きな丸い筒状の植物の花みたいなのがあった。

「いや、俺にも判らん。なんだろうな?」

 ガトラが確かめる為に、ゆっくりと近づいていく。

「なにか、甘いお酒のような匂いがするぞ。」

 植物にゆっくり近づくガトラは、一度足を止める。


 なんだあれは? 俺も知らないが、魔力感知では反応しないし、植物なのだろう…


 突然、ガトラの足元から白い煙のようなものが立ち上がる。

「うわ! なにか踏んだのか!」

 それが合図だったのか、俺達の周りの地面の数箇所から同じように白い煙が立ち上がり、俺達を包むように広がっていった。 


《パパ!》

《大丈夫だ。俺達には効かないからな。》


 俺は、自分の周りに魔力を張る事で、全てのものを遮断出来るのだ。それは、空気も例外ではない。

 なので、俺に乗っている間のリリアナには常に、空気中の菌一つも寄せ付けないようにしている。


「おい! ガトラ! フルララ! ラージュ! オリファ! 無事か!?」

 俺は白い煙を『ウィンド』で吹き飛ばし、4人を探す。


 最初に目に入ったのは、フルラージュにゆっくりと歩いて行くオリファだった。

 何かを呟いているようだ。

「ラージュ…ラージュ…僕にもっと…もっと…」


 次に目に入ったのは、ガトラだった。

「リタニア! 生きていたのか! リタニアァー!」

 そう叫んでいるガトラは、ゆっくりと怪しい植物に向かって歩いている。


 3番目はフルラージュ。

「もっと! もっとよ! さぁ! 全てを焼き尽くしてあげますわ!!」

 両手を天に掲げて魔力を溜めている。


 そして、最後は…いや、最初から気づいてはいた。

 俺の角を嬉しそうに食べているフルララだ。


《あぁ~フルララずるい~。わたしもたべるぅ~》


 そしてリリアナまでも俺の体を食べ始める…


 俺は正気を失った4人で、一番に対処しないとならないと判断したガトラを救出することにした。

 重力魔術で引き寄せて、『スリープ』で眠らせる。


 次はオリファだな…

 俺はフルラージュに抱き付こうとしているオリファを寝かせて、恍惚の笑みを浮かべて魔力を溜めているフルラージュの横に下ろす。

 そして、ガトラと俺の角を食べているフルララを連れてフルラージュのところに行く。


《おねえちゃん、どうしたの?》

《ん? なんだろうな?》

 俺はリリアナの問いの答えを濁したのでなく、俺もよく判っていなかったのだ。


 そのフルラージュの両手から、空に放たれた魔力の塊は直径2メートルほど。それがさらに大きくなりながら巨大な火の玉に変わる。


《おっきい~ぃ。 》

 リリアナが無邪気に喜んでいた。


「さあ! 塵になりなさい!」

 フルラージュの揚げた両腕が振り下ろされると同時に、巨大な火の玉が落下する。


『メテオ』

 炎魔術の『ファイアボール』を巨大化させ、土魔術の『ストーンフォール』との合成魔術で、落下地点から広範囲の大地を、焦土と化す。

  フルラージュの作った大きさだと大体、直径100mほどの範囲になるだろう。


 俺は、メテオを無効化する術を持っているが、今は防御魔術を発動させて俺達を守ることにした。

 4人がおかしくなったのは、さっきの白い煙なのは想像がつく。だから、暴走したフルラージュの魔術を利用して、辺りを焼き尽くすことにしたのだ。


 普通なら自滅になるはずの『メテオ』の頭上落とし。

 それを俺の魔法障壁が受け止めると、四散するように爆発する。

「あぁー! 素晴らしいわ!」

 フルラージュはご満悦の様子で手を広げている。


《わぁー! すっごいよぉ~!》

 リリアナが目を輝かせながら、爆風で吹き飛ぶ地面の土と、赤く燃えながら飛び散る岩の景色に喜んでいた。


《リリアナ、4人は心を奪われていたようだから、さっき見た事は、教えても聞いてもダメだからな。》

《ど~して?》

《自分じゃない誰かに操られてた時の事だから、知らない方が良いからだ。》

《ん~わかったぁ。》


 さっきの4人の行動から察すると、内に秘めた欲が現れたようだしな。

 欲望か願望と言ったほうがいいか。そんなものを他人に知られるほど恥ずかしいものはない。

 しかし、フルララはそんなに俺を食べたかったのか…


 満腹になったのか、満足したのか判らないが、フルララは俺に抱きついて笑みを浮かべている。

 

《さて、元に戻さないとな。リリアナ、さっきの事、ちゃんと守るんだぞ。》

《はーい。》


 俺達がいる地面以外がえぐられ、周囲の所々で炎が立っている中、俺は4人に小瓶1本の『エリクトラ』を少量ずつ掛ける。

 そして、我を取り戻した4人の記憶は無かったようで、辺りの惨状と重なって言葉を失っていた。


 やっぱり記憶は無いか。

 だが、こいつらには幸いだったな。


《まあ…たぶんだが、白い煙が精神破壊の効果を持つ胞子かなにかなのだろう。そして、あの変な植物の根か蔓に生き物が触れると放出して、捕食するつもりだったのだろう。》


「そうでしたか…ディム殿、ありがとうございました。」

 ガトラが頭を下げると、3人も同じように頭を下げていた。


「これって、ディムさんの魔術ですか?」

 フルラージュが辺りを見渡しながら感嘆しているような声で聞いてくる。

《ああ、そうだな。まとめて焼き払うのが一番だと思ってな。》

「凄いですね。 私にもこれほどの魔術を扱えるようになるでしょうか…」

《素質は十分にある。あとは理解するだけで使えるようになるだろう。》

「本当ですか!?」

 フルラージュが、全身から高揚した時のような熱気を放ちながら、期待の目を俺に向けていた。


 あれは、理性を外した状態で、本能のまま使ったのだろう。

 俺が思っていた以上に、フルラージュの魔術適正は高いってことだ。


《ああ、俺が保障する。》



 俺は、残っていた火種を全て消してから森を下った。

 そして、高原に入ったところで昼食の準備を始める。

 テーブルと椅子を取り出し、そこらへんに転がっていた石で、かまどを作る。

 そして食材をフルラージュに渡して、俺はリリアナを席に座らせてから体を元に戻し、テーブルの上に乗る。

 テーブルの席には、フルララが既に待っていた。

 手伝える事がないから、大人しく待っていたのだ。


「精神を混乱させて捕食する植物…書物では知っていましたが、初めて見ました。」

《ああ、俺もだ。話では聞いていたがこんな寒い土地にもいるんだな。…そうだな、世界を見て回るのも面白そうだ。》

 

 俺は、魔族領の統治に忙しく、世界を直接見る機会が無かった。

 もう魔王じゃないのだから、リリアナと一緒に世界を見て回るのも、面白いかもしれないと思ったのだった。


「リリアナちゃんとですか?」

《もちろんだ。》

《ん? なに?》

 リリアナがキョトンとした顔をしている。

《世界は広いからな、色んな場所を見に行くのも楽しいかもってな。》

《パパといっしょならいっくぅー!》

「なら、私も一緒に。」

《うん。フルララもいっしょぉー!》


 そうなるか…


 二人で笑みを見せ合っている姿を見せられたので、もう決定事項になってしまったと悟り、俺は少し気が重くなっていた。


「食事が出来ました。」

 フルラージュ達がテーブルに料理を並べ席に着く。

《じゃあ、食べようか。》

 俺の合図で食事が始まると、フルララが不思議な顔で呟いた。


「あれ? なぜかお腹が一杯?」


 そりゃな…


《パパ、おいしかったぁー!》

《こら、リリアナ。まだ食事中だぞ。》

《はーい。》


 リリアナの言葉は、目の前の食事に対しての発言だと思ってくれたのだろう。

 フルララの疑問はうやむやになり、気にする者も居なかったのですぐに掻き消され、当の本人以外は、魔獣狩りの疲労回復と空腹を満たすために、目の前の食事に手を伸ばしていたのだった。

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