第13話 Start Line(13)

「ねーねー。 『セノ』ってゆーの? それとも・・『セノウ』なの? どっち?」


夏希は有吏の顔を覗き込むように言った。



「え。『セノ』ですけど・・」


ボソっと答えると、



「真緒さーん! やっぱ『セノ』だって!」


夏希は大きな声で真緒に言った。


「え? ほんと? なんだァ。 紛らわしいよね。」


真緒も暢気に言った。



「ふりがなをふっておけばいいんですよ。」


「そんなのどこにふっとくのよ~、」


二人はおかしそうにアハハハと笑った。



本人の有吏は呆然として、彼女たちを見ていた。


「ちょっとお、あんたたち。 でっかい声で雑談しないで。 仕事しなよ~、」


南に注意をされていた。


「そうそう仕事しろっつーの。」


八神が偉そうに言ったので、



「八神さんもさあ、おせんべ食べながら言わないで下さいよ~。」


夏希に背中を叩かれた。



「だって今朝、寝坊してメシ食えなかったし。 腹減った、」


と、尚もせんべいを食べ続けると、



「あっ! ヤベっ! さし歯取れたっ!」


八神は口を押さえた。



「アハハハ! ロクなことな~い、」


真緒も笑った。



「仕事中そんなん食ってるから・・」


南は呆れた。



「あ~~、歯医者また行かなくちゃ。 このクソ忙しいのに、」



なんて


暢気な人たちなんだろう・・




有吏はつくづく思った。




本部長の斯波さんは


めちゃくちゃ無口で怖くて。


あの人が部屋に入ってくるだけで空気が緊張する感じで。



その他の人たちは


朝からアホな話で盛り上がってて。



「瀬能くん。 じゃあ、とりあえず。 今日は午後からオケの練習があるから一緒に行こうか。」




玉田さんは


すごく優しくて。


仕事のことも色々教えてくれる。



コピーの取り方や、ファックスの流し方、電話の取り方まで。


すごく丁寧に。




「あ、ハイ。」


と、立ち上がる。



すると南が


「あ、あんたさあ。 いちおうバイトだけど。 その部屋着みたいな服やなくて。 ちゃんとした格好してき。」


と言ってきた。



「へ、部屋着~? いちおう外用なんですけども?」


有吏は心外といったように彼女を見た。



「大学生やないねんから。 もちょっとまともなカッコしていきなよ。」


「まともじゃないですかね・・」


ジーンズにパーカーにスニーカーといういでたちの彼を上から下まで舐めるように見た。



「アカンなァ。 スニーカーも汚すぎるし。 このアタマもさあ・・なんっかウザいっつーか、」


と、彼の髪の毛をつまんでみた。



「あ~あ、南さんの『毒牙』にかかってるし~、」


八神はおかしそうに笑った。



「毒牙って。 人聞きの悪い・・」


南はジロっと睨んだ。



「もうこんなん見たら改造したくてウズウズしてるし~、」


八神が笑うと、



「その歯の抜けた間抜けな顔で笑うな!」


南はファイルで八神のアタマを叩いた。




そして


何故だかわからないが



「もっと、この辺もっさりしてるから、いっちゃって。」



南が仕事で行くことになっていた、スタイリストの打ち合わせに連れてこられた。


そこの専属のヘアメイクの人に切られている。



「ほんまに。 ウチはさあ、男子はみんなイケメンやし。 こんなんおったら事業部の名折れやん、」


南は鏡越しに腕組みをして怖い顔で言った。



「名折れって・・」




あんまりだ・・



有吏はがっくりとうな垂れた。


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