第14話 Start Line(14)
あとは
もう使わなくなった服をもらって。
「あ、ええやん! ちょっと渋谷の若者っぽくなった~!」
南は喜んだ。
「なんか・・じゃらついてんですけど・・」
ジーンズにひっかけたチェーンを手に有吏は戸惑いながら言った。
「そのくらい! あんたまだ19やろ? もっとセンスいい格好せな。」
「てゆーか。 会社にこの格好って・・」
「ああ、それはかまへんて。 バイトやし。」
「さっきと言ってることがちがう・・」
もう、ついていけなかった。
「だってさあ。 本部長の斯波ちゃんだってノーネクタイでジーンズやし。 ウチは他の部署と違って、ゆるーくやってるから。」
南は人懐っこい笑顔を見せた。
「あたしより9も年下かあ。 もう息子やな。」
しげしげと有吏を見た。
「はあ・・」
「あんた名前、なんていうんやっけ?」
「え・・瀬能有吏ですけど。」
「ユーリ? なんかロシア人みたいな名前やなあ、」
「初めて言われましたよ・・そんなこと、」
「んじゃ、『ユーリ』でいいや。 なんかようわからんうちにここに来ちゃったみたいやけど。 頑張ってな。」
笑顔でそう言われて、
「・・は、ハイ。」
有吏は神妙にアタマを下げた。
この人
北都真尋さんのお兄さんの・・次期社長の奥さんって聞いたけど。
小柄で
それでいてすっごいオーラが出てて。
関西弁の大きな声がいつも溌剌としてて。
「おれ・・頑張りますから、」
と言うと、満面の笑みで、
「うん! あたし、才能とかなくっても頑張ってる子、大好き!」
と返された。
「才能・・ないッスか、」
有吏はガクっとうな垂れた。
戻ってくると、事業部の入口で志藤が中をうかがうような格好をしている所に遭遇した。
「なにやってんの?」
南が彼の背中を叩く。
「は!? あ~、いや、別に。」
少し慌てて去ろうとするが、
「あ、わかった! ウチのバイト、見に来たんやろ!」
南は彼を指差して嬉しそうに言う。
「えっ!」
思わず図星を指されて後ずさりをすると、
「ほらっ! コレっ!」
南は後ろにいた有吏の腕を引っ張って自分の前に連れてきた。
「え? あ~~、っと。」
有吏は戸惑う。
「あ、この人。 ホストちゃうから。 前の事業部の本部長の志藤さん。 今は取締役やけどね、」
「余計なことを言わなくていいから、」
「あ! えっと! せ、瀬能有吏です! よろしくおねがいします!」
風が起こるほど勢いよくお辞儀をした。
「威勢のいい子やな。 何の因果かわからへんけど、仕事することになったんやから。 頑張ってな。」
志藤はふっと微笑んだ。
「は、ハイっ!!」
有吏は嬉しそうに頷いた。
笑った口元から八重歯が零れ落ちて
年よりもずっと若く見えるまるで
『少年』
だった。
「あ、帰ってきた~。 ねー、瀬能くん。 コレ全部コピーとってきて~。」
夏希がどっさりと書類を彼に手渡した。
「あ・・ハイっ。」
「両面もあるから気をつけてねー。」
「加瀬も生意気に先輩になったんか、」
志藤は笑ってしまった。
「だって。 あの子まだハタチ前やで? あたしらにしたら息子やん。 もー。」
南は笑って志藤の腕を叩いた。
「しかし。 もー。 加瀬とか八神っぽい匂いがプンプンするやっちゃな~。 斯波も大変やな、」
「それ言うたらアカン。 ほんま斯波ちゃん大変なんやから・・」
南は笑いを堪えた。
「あ、バカ! ファイルはちゃんと得意先別にきちんと分けてしまえっつっただろ! また間違えそうになっただろ!」
斯波の罵声が部屋に響く。
「す、すみませんっ! すぐ直します、」
有吏は慌てて棚の整理を始めた。
「なんか。 久しぶりだよな。 斯波さんの罵声。」
八神がボソっと言った。
「まあ。 新人なら誰もが通らなくちゃならない道でしょう。」
夏希がウンウンと頷きながら言ったので、
「おまえのVTRを見てるみたいだけどなァ。」
ぷか~っとタバコをふかして笑ってしまった。
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