第11話 Start Line(11)
「え、ナニ? ・・そんなめんどくさいことおれに相談する???」
志藤は本当に迷惑そうに斯波に言った。
「で、でもっ! なんっかもう、ワケわかんなくって・・・」
斯波はもうみっともないとかそんなことを言ってられないほどパニくっていた。
「なにその青年は。」
志藤はやはりワケわからずに斯波に言った。
「真尋のアホが。 もう! めちゃくちゃ腹立つんですけど! ・・でも。 なんか責任感じるし、」
うな垂れる斯波に
そういうトコが。
ほんまに情が深いっていうか。
加瀬を自分トコのマンションに住まわせる時だって
ほっとけないってのが
丸わかりで。
「ええんちゃうの? おまえがしたいようにすればええってことやん。 ほっとけないなら、『飼ってやる』っきゃないっていうか、」
志藤はおかしくて笑ってしまった。
「飼って・・いいんですかね、」
斯波は思いっきり、志藤の表情を伺った。
「総務にはおれから言っとくし。 おまえが、決心したなら。 おれは後押しするから。」
優しい
いつもの全てを包み込む笑顔で言われると
本当にホッとする
その
意味がわからない青年を
とうとう
『飼う』ことになってしまった。
そして
彼を真尋のピアノスタジオに連れて行く。
「ここで練習してるんですかあ・・」
有吏は嬉しそうにきょろきょろした。
「こいつ。 死ぬほど散らかすから。 いつもはヨメか八神が掃除してんだけど。」
斯波はついてきた真尋を指差した。
「ほんと。 キタナイですねえ・・」
思わず本音が出た。
「とりあえず。 スタジオの掃除から。」
「え! 掃除、ですか?」
「なんだ。 そのイヤそうな顔は!」
斯波はムッとして言い返した。
「マサヒロさんの仕事についていけるとか・・そーゆーのは、」
「図々しい! そんなもん10年早いし。」
斯波は彼の頭をペシっと叩いた。
「それに。 真尋は5月から1年以上ウイーンを拠点にするんで日本を離れるから。 真尋がらみの仕事はない。」
と言われて、
「そ、それなのに、おれを誘ったんですかあ?」
有吏は真尋を呆れて見た。
「ごめん。 ほんっと覚えてね~~。」
真尋は暢気だった。
ガックリする彼に
「だから。 バイトだけど使ってやっから。 真尋のアホな言動でこうなったんだから。 しょうがない。」
「しょうがないって・・」
もう泣きそうだった。
「バイトもやめちゃったんだろ?」
「はあ・・」
「ほんと。 雑用だよ? ひょっとしてバイト代もそこより安いかも。」
「もう何でもいいです! クラシックの仕事・・できるなら!」
「・・で。 ドコ住んでんの?」
「は?」
「家!」
「清瀬ですけど、」
「清瀬?? 遠いな。 時間読めない仕事だよ?」
「・・といって。 自活できるほど金、ないッスよ・・」
ガックリと肩を落とした。
そして、横でポテチをバリバリ食べていた真尋をチラっと見て、
「おまえんとこ下宿させてやれよ、」
と言った。
「はあ? ダメダメ! おれ、来月からずうっとウイーンなのに! 絵梨沙がいるってのにさあ、こんなワケわかんない男と一緒じゃあ、なんかあったらどーすんだ!」
猛烈に抗議した。
「ワケわかんない男を連れてきたのは誰だっ!」
また斯波の怒りに火がついた。
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