第4話 Start Line(4)
「はあ???美咲んちに? なんで!?」
八神は素っ頓狂な声を出してしまった。
「んでな。 美咲ちゃんのお母さんが遅いから泊まってけって言うもんで。 八神の家族も来て、なんか宴会っぽくなってしまって。ワインもいっぱい飲ませてもらっちゃったから、泊まらせてもらうことにした。」
志藤は美咲の家の一室で八神に電話をしていた。
八神にしてみれば
いきなり志藤が美咲の家にいることのわけがわからなかった。
「おまえ。 ほんっと幸せモンやな。」
「はあ?」
「美咲ちゃんは別におまえのことを理解してないわけやなくて。 ほんまにおまえと離れて暮らしたくないって。 そんだけやし。 何とか美咲ちゃんにわかってもらおうと思ってここまで来てしまったけど。 結局、おまえが迎えに来てやらへんと・・アカンみたいやし。」
志藤はふっと笑った。
「志藤さん、」
「余計なお世話やったかもしれへんけど。 なんっか心配で。」
八神は
ちょっとジンとしてしまった。
「おれだって。 桃や美咲とずっと離れるのは迷わなかったわけじゃないけど。 美咲と桃はは実家にいれば、みんなが面倒を見てくれる。 でも、真尋さんは心配で一人にしておけないし。 あの人にはピアノのことだけ考えて生活して欲しいから。 おれは。 真尋さんが真尋さんらしくいられる環境を作れるって・・ちょっとは自信があります。 あの人のピアノを世界中の人に聴いてもらいたいから、」
「うん。 なら・・ちゃんと美咲ちゃんにそう言えばよかったのに、」
「言う前に、もんのすごい怒り出して。 手のつけようがなかったし・・」
と言われて、想像がついて笑ってしまった。
「忙しいとは思うけど。 迎えに来てやったら? それが一番やって。」
ほんまに
世話がやけるったら。
でも
こうやって家族にも理解をしてもらわないと
事業部は大変なことになってしまう。
志藤は
自分が抜けた後、
てんてこ舞いになっている部署に責任を感じていた。
翌朝
志藤は美咲の実家を早く出て出勤したが
それと入れ替わるように、八神がやって来た。
「慎吾、」
美咲は突然やってきた八神に驚いた。
「もー。 志藤さんにまでメイワクかけちゃって・・」
八神は何だか気恥ずかしくて、やっぱり文句を言ってしまった。
「べ・・別に。 あたしが来てくれって頼んだわけじゃないよ、」
美咲はプイっと横を向いた。
「おれ。 別に平気なわけじゃないから。」
ボソっという八神に
「・・え?」
美咲は彼を見た。
「すっげえ・・つらいけど。 でも。 たぶん絵梨沙さんがあの人についていったとしても。 心配で行きたくなっちゃったかもしれない。 おれは、演奏家を諦めて。 ふてくされてた時もあったけど。 あの人のピアノに触れてもう、この人をずっと支えようって。 ホント思ってたし。 でも、それはおれの勝手であって。 もう結婚して家庭を持ってるのにほんとワガママばっかで・・悪いと思ってる。」
八神は素直な気持ちを彼女にぶつけた。
「慎吾、」
美咲はまた泣きそうになってしまった。
「美咲ならわかってくれるって。 甘えてたかも。 ほんと・・ごめん、」
絶対に自分から謝ったりするもんか、と
思ったけれど
やっぱり
こうやって泣きそうな美咲の顔を見たら。
「バカ・・。」
美咲はやっぱり泣いてしまった。
桃のことは
もう生まれてから目の中に入れても痛くないって
いうのはこういうことなんだって
思うほど
かわいがって。
忙しいのに一生懸命帰ってきて
桃をオフロに入れるのが楽しみで。
そんな八神の姿を美咲は思い出していた。
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