第2話

 そして、一ヶ月後、法子から連絡がきた。


『子供は成人に成長したわ』

「そう。ご苦労様」

『言う事はそれだけ?』


 電話の向こうから聞こえる法子の声はかすかに怒気が含まれていた。

 どうしたんだろう? まさか!? 私の企みに気が付いた?


「どうしたの? なんか怒ってるみたいだけど」

『英子。あんた、あの受精卵をどこで手に入れたのよ?』

「どこでって……」

『あの子はあなた達二人の子じゃない。あなたの夫のクローンよ』


 そのことか。


『どういうつもり? クローンを作る事は犯罪よ』

「それは……」

『言っとくけどDNA鑑定は済ませたわ』

「黙ってて悪かったわ。正直に言ったら協力してくれないと思って」

『当り前よ。なんでこんな事を……』


 ここは法子の同情心を利用するしかないか。


「あなたには分からないでしょうね」

『何が?』

「子供を産めない女の悲しみなんて」

『え? そうだったの?』

「二人の子が無理なら、せめてあの人の子供だけでも」

『そうだったの。でも、同情はするけど、これは犯罪よ』

「大丈夫。私は法律のプロよ。抜け穴はちゃんと考えてあるわ」

『抜け穴?』

「禁止されているのは、卵細胞に細胞核を入れる行為よね」

『そうよ』

「でも、すでにクローンの処置を済ませた卵細胞を育てる事は禁止されていないわ」

『だからあ、処置をした時点でアウトだって』

「日本国内で処置をすればね。でも、クローンを禁止していない国で処置した場合、日本の国内法では裁けないのよ」

『え? そうなの? でも……いくら法律上問題なくても人として許されることかな』

「じゃあその子はどうするの? あんたが処分する?」

『それは……できないわ』

「でしょ。それじゃあ明日、夫が迎えに行くから、その子を引き渡してね」


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