38.最強がいる街
翌朝、モンスターによる襲撃の真相をつかんだ俺たちはすぐにアムリグの街へと戻った。
リカルド様の日誌のことをケイルに話すと彼は愕然としていた。
「信じられない、あの男が、まさかそこまでやるだなんて……」
「俺がいくら攻撃してもモンスターたちが逃げなかったことから察するに、ドラケルが奴らを操って意図的に街を襲っていたのは間違いないと思います」
俺はケイルに言った。
「し、しかし、我々は一体どうしたらいいんだ……」
「まずはギルドマスターに報告です。そうすれば戦力を整えて、ドラケルが潜むダンジョンを攻略してくれます」
動揺を隠せないケイルにメルさんが落ち着いて言った。
色々と変わったところのある人だけどやっぱりこの冷静さは長所だな。
「ダンジョンを攻略してドラケルを止めてしまえば、私たちの戦いは終わりです。もう少しだけ、がんばりましょう」
シアがぐっと拳を握って言った。
「それもそうじゃな。長い戦いだったが、原因はわかったんじゃ。あとはあいつをなんとかするだけでいい。もう一踏ん張り、やってやろうじゃないか。なあ、ケイル」
ベネットさんが笑って言うと、ケイルもぎこちなくではあるが笑みを返した。
「確かに、終わりが見えてきてはいるんですね。それだったら、もう少し、がんばりましょうか」
「今すぐ避難したりする必要はありませんが、街の人たちには説明しておいてください。俺は位置替えでギルドまで飛んで——」
これからどうするかを説明しようとした時、体が震えるほどのものすごい叫び声が街に響き渡った。
俺はとっさに空を見上げた。
まばらに白い雲が浮かぶ澄んだ青い空に、赤い点が、浮かんでいた。
遠くにあったその赤い点は、近づいてくるにつれてどんどん大きくなっていく。
「なんじゃ、あれは……」
「メルさん、見てもらえますか?」
耳を押さえながらベネットさんとシアが言う。
メルさんは言われたとおりにスコープ付きのライフルを構えて、空に浮かぶ赤い点に向けた。
「…………嘘でしょう…………」
メルさんがこんな呆けたような声を出すのを聞くのは初めてだった。
俺には、何がやってきたのかがわかっていた。
さっきまで赤い点だったものは、もうその形が見分けられるくらいまで近づいてきている。
大きな翼が上下に動いているのも、長く力強い尻尾が揺れているのもわかった。
「……ドラゴン……」
シアが呆然とそのモンスターの名を口にした。
この世界に存在する数多のモンスターの中でも指折りの強大な種族であるドラゴンが、こちらに向かって飛んできていたのだ。
上空の赤いドラゴンが、その口を開ける。
少し遅れて、さっき聞いたのと同じものすごい咆哮が、アムリグの街を揺らした。
まずい。ドラゴンがやってくるのがわかったら、街は大混乱になる。
「ケイル、どうにかしてみんなを落ち着かせて……」
俺が言いかけた時、街の人々が一斉に集まってきた。
これは大変なことになる、と俺はあせったが、人々は至って冷静だった。
「ケイルさん、あたしたちは何をしたらいいかな?」
集団を代表するような形で前に出てきた四十歳くらいの女性が言った。
ドラゴンの姿はもうはっきり見えているが、彼女は落ち着き払っていた。
後ろにいる他の人々も、騒ぐ様子は全くない。
なんでこんなに冷静でいられるんだ。
俺が不思議に思っていると、ベネットさんにポンと肩を叩かれた。
「ワシらもドラゴンは怖いが、それ以上にお前さんたちを信頼しとるんでな。力を合わせてお前さんたちを手伝えば、きっとなんとかなる。みんなそう思っとるのさ」
「ベネットさんの言う通りだよ」
「今更うろたえたりするもんか」
「この街には最強の冒険者がいるんだ。ドラゴンがなんだってんだ」
街の人々は威勢よくそう言っていた。
「みなさん……」
あの強大なドラゴンを前にしても、俺たちを信じてくれるのか。
ありがたいことだ、と俺は思った。
「これは負けられないですね」
シアが笑って言う。
「俺たち、最強の冒険者だものな」
俺も笑みを返す。
「実のところ私は冒険者ではありませんが、そこはどうでもいいですね。派手にいきましょう」
メルさんも気合十分だった。
「ケイル、みんなと手分けして他の人たちを講堂に避難させてくれ。あの建物がこの街で一番頑丈だから」
「わかった。すぐに取り掛かろう」
俺が言うとケイルはすぐに頷いて、集まっている人たちにてきぱきと指示を出し始めた。
「で、俺たちは……」
「ドラゴン狩りですね」
シアと二人で空を見上げた。
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