35.報酬と疑念
「やったのか!」
「私たち、勝ったのね!」
攻撃に参加しなかった街の人たちもやってきた。
みんながこの勝利を喜んでいた。
「さてと、お祝いといくか」
「グラッドさん、今は完全に真っ昼間ですよ?」
そんなことを言ってはいたが、もちろんシアは笑っている。
「笑顔で言っても説得力がないぞ」
俺も笑って言う。
「ですね。では、今回もよろしくお願いします」
「もちろん。こういうのは、得意だからな」
俺はスキルを使う。
位置替えで酒を出して、この日は一日中、みんなの勝利を祝った。
数日後、俺たちはアムリグの街から少し離れたところにある大きな屋敷を訪れていた。
「すごいな……」
「本当に、ここをもらえるんですか?」
俺もシアも目の前の屋敷の迫力に圧倒されていた。
これは今回の仕事の報酬となっている屋敷だ。
元々イースト・エンドの領主のために用意されたものだが、当然今は誰も住んでいない。
土地もかなり広いのだが、屋敷と同じで荒れ放題だった。
だが、きちんと手を入れさえすれば、かなり豪勢な屋敷となるに違いない。
メルさんが言う。
「こちらの屋敷と周囲の土地全て、あなた方のものとなります。まあ、イースト・エンドの再建が済んだ後での引き渡しとなりますが、荒れ果てた状態で渡すのも申し訳ないので、こちらの修繕も地域の復興と並行してやっていくといいのではないかと」
アムリグの街の立て直しはほぼ終わったので、俺たちは今、打ち捨てられてしまった他の村や町の復興を進めている。
モンスターの攻撃に耐えられず、この地域の人々はアムリグに逃げ込んでいたので、あの街は人口が多かった。
だが、俺たちが街を立て直したおかげで人々にも余裕ができた。
なので、元の住人たちが中心になって、捨てられた村や町の再建を始めたのだった。
「でも、いいんですか? ベネットさんもお忙しいでしょう」
シアが同行してくれているベネットさんに言った。
彼はこの屋敷を直してくれることになっていた。
「なーに、派手に壊れてるわけでもないからな、この程度ならどうとでもなる。世話になったお前さんたちにボロ屋を引き渡すんじゃカッコがつかんよ」
ベネットさんは明るく笑っていた。
「ありがとうございます」
この人がいてくれれば屋敷は見違えるようになるだろう。ありがたいことだ。
「これくらいじゃ恩返しにはならんが、まあ見ておれ。国一番ともいわれたこのワシの腕前をな」
「これで根無草脱出ですね。お二人とも、おめでとうございます」
メルさんがなんか拍手していた。
「確かにそうですが……」
「冒険者なんてみんなそんなものじゃないですか……」
俺もシアも顔をしかめた。
「ははは、アムリグを救ってくれた恩人に相応しい、立派な家にしてやるから、楽しみにしておれ」
「よろしくお願いします」
豪快に笑うベネットさんに、シアと二人で頭を下げる。
大仕事とはいえ、本当にすごい報酬だ。
「ところで、歴代の領主はみんなここを使っていたんですよね?」
ふと思いついて聞いてみると、ベネットさんは難しい顔でうなずいた。
「そうじゃな。もっとも、すぐに逃げ出す輩もいたが。まったく……」
「そうでしたね……」
「じゃが、立派に働いてくれた方もいたんじゃよ。三代前の領主、リカルド様。あの方だけは、ワシらに尽くしてくれた。本当に素晴らしい方じゃった」
領主はみんなここを捨てて逃げたんだと思っていたけど、そんな人もいたのか。
「どんな方だったんですか?」
「人柄は穏やかなんじゃが、武芸に秀でた活動的な方でな、貴族に生まれてなかったら、間違いなく冒険者をやっていたと笑っておったよ」
かつての領主リカルドのことを語るベネットさんは楽しそうだった。
「武芸に秀でた領主様ですか」
シアが言った。
「あの方はワシらにも訓練を施して、一緒になって街を守ってくれたんじゃ。……ワシの息子は、あの方の右腕のような存在じゃった」
ベネットさんは荒れた屋敷を見ながらぼんやりと言った。
「もう五年も前になるか。ある時、リカルド様はしばらく屋敷を留守にした。そして帰ってきて、「もうモンスターに怯える必要はない」と宣言したんじゃ」
「えっ、そんなことがあったんですか!」
俺は驚いて聞いた。
どういうことなんだ。
リカルド様はモンスターがやってくるのを止められたっていうのか。
「ワシらも流石に半信半疑じゃったが、事実、モンスターの襲撃は途絶えたんじゃよ。これでもう安心だ、ワシらはそう思った」
「でもいまは……」
シアが言いよどむ。
そうだ。この地域はいまもモンスターの襲撃に悩まされている。
何があったんだ?
「平穏な日々はそれなりに続いたんじゃが、ある日突然、リカルド様が行方不明になった。街の連中総出であちこち探し回ったんじゃが、結局は見つからずじまい。
そんなとき、またモンスターの群れがやってきたんじゃよ。信じられなかった。ワシらも必死で抵抗したが、敵は今までよりも数が多かった。そして、この戦いで、ワシの息子は……」
「…………」
メルさんは何も言わずに、ベネットさんの背中にそっと手を置いた。
「……すまんな」
「お気になさらず」
涙ぐむベネットさんにメルさんはゆっくりかぶりをふった。
「そこから先は、またモンスターの襲撃に怯える日々じゃ。ワシは息子夫婦を亡くし、ついには孫娘まで亡くしてしもうた」
「そんな……」
本当に気の毒な話だった。一度は平和な暮らしが手に入ったのに、どうして……
「悪かったな。暗い話をしてしまった。家族を失ったのは確かにつらいが、それでもワシは立ち直れたよ。あんたたちのおかげだ。感謝している」
涙をぬぐってベネットさんが言った。その言葉は、力強かった。
「でも、リカルド様はモンスターの襲撃を止められたんですよね。どうしてそんなことに……」
悲しげに言うシアにベネットさんは首を横に振った。
「皆目見当がつかんのだ。リカルド様の言った通り、確かに一時、モンスターの襲撃は止まった。あの方は何かをして、それが上手く行ったんじゃと思う。だが、その後どうしてこうなったのかは、全くわからん」
「…………」
俺たちはアムリグの街を再建することができた。
でも、これから先もモンスターの大群による襲撃は続くはずだ。
そもそも、この土地はどうしてあれほどたくさんのモンスターが生まれるんだ?
それに、二回目の襲撃は異様だった。
俺は移動しているモンスターの群れを攻撃して数を減らしてやったわけだけど、あいつらは仲間を半分以上失ったにも関わらず、全く逃げようとしなかったんだ。
やはりこれはおかしいと思う。
リカルド様はこの原因を掴んだんだろうか。
「グラッドさん」
シアに声をかけられた。
彼女も同じことを考えていたようだ。
「ああ。屋敷で何か見つかるかもしれないな」
リカルド様はモンスター襲撃の原因を突き止めた。
そのことを、記録として残しているかもしれない。
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