34.エクセレントな防衛

「おーい、どんな具合だ? 敵は多いのか?」


 今回、街の人々も武器を用意して戦うつもりでいる。

 最初は俺たちだけで敵を倒すつもりでいたが、ケイルも街の人々も自分たちの街なのだからできる限りのことはする、と言ったのだ。


 俺はギルドマスターとも相談して、復興作業と並行して武器の用意と訓練をすることにした。

 ベネットさんが協力してくれるようになったおかげで、作業ははかどっていたし、俺の位置替えのスキルもある。


 なにより、アムリグの人たちは本気でこの街を守ろうとしていた。

 彼らはみるみるうちに武器の扱いに慣れていった。


 とはいうものの、やはり不安はあるようで、ケイルは落ち着かない様子だった。


「皆さんが倒す分はちゃんと残ってますよ」

 メルさんがニヒルに笑う。


「そ、そうなのか……」

 ケイルはごくりと唾を飲む。


「はい。三分の二くらいはグラッドさんが倒しちゃいましたが」

 クスッと笑ってシアが言う。


「そうなのか……えっ? 三分の二も倒してくれたのか! す、すごいじゃないか! それくらいしか残っていないなら、私たちでもなんとかできるんじゃないか?」

 ケイルは興奮した口ぶりで言った。


「ええ。俺たちも手伝います。みんなでアムリグを守りましょう」


「もちろんだ。協力に感謝するよ」


 ケイルはクロスボウを握りしめてうなずいた。

 街に配備したのはクロスボウと投石器だ。


 もちろん、矢や石には俺が位置替えの印をつけたり、シアが魔法をストックしたりしてある。


「敵、来ます。パーティといきましょうか」

 メルさんがニヤリと笑う。

 よし、仕上げだ。



 修理した待ちの門の前に置いた、真新しい投石器から無数の石が放たれる。

 向かってくるモンスターの群れめがけて発射された石は、数は多いものの、どれも小さい。

 これで倒すのは無理だ。


 しかし、

「いきますよ! オールリリース!」


 小石の群れが敵の集団に命中する直前、門の上に立つシアが、杖を振る。

 途端、数多の小石に込められていたファイアボールの魔法が解き放たれ、モンスターたちに降り注いだ。


「ビューティフォー。キレイな花火ですね」

 シアから少し離れたところに陣取っているメルさんがふっと笑う。


「すげえ!」

「かっこいい……」


 男性も女性も、シアの派手な一撃に目を奪われていた。


「だいぶ減らしたな。じゃあ、俺が行ってくる。メルさん、俺が戻ったら、あとは頼みます」


「オッケーですとも」

 ぐっと親指を立てるメルさんに手を振って、位置替えで敵の中に飛んだ。


 今回は攻撃しない。

 ただ単に、位置替えのための印をつけて回るだけだ。


 モンスターたちの牙や爪、粗末な武器による攻撃をかいくぐりつつ、奴らの体に触れて、位置替えの印をつけていく。

 はっきり言って楽勝だった。


 前の俺の攻撃で敵は指揮官をほとんど失っていたし、疲れてもいた。

 そこにシアのリリースが炸裂したものだから、相手はかなり参っている。


 俺は敵陣を縦横にかけて次々と印をつけて回り、位置替えで門の上に戻った。


「終わりましたよ」


「お疲れ様です。あとは、お客様方にお引き取りいただくだけですね」

 俺の報告にメルさんは不敵な笑みを浮かべる。


「……あの、今のセリフは中々キマってると思うのですが」


「それはそうなんですけど、なんとなく褒める気になれなくて……」


「理不尽」


 無表情だったが、メルさんはちょっと不満げに見えた。

 そんなことをやっている間にも、敵は迫って来る。


「いよいよだな……」

 ケイルが言った。


 そして、門の後ろでクロスボウを構えている街の人たちに合図を出す。

 敵が十分に近づいてきたところで、アムリグの門を開いた。


 モンスターたちの目の色が変わるのがわかった。

 奴らは足音高く、開いた門めがけて突撃してくる。


「今だ! みんな、射て!」


 もう少しで敵が街に到達するというところで、ケイルが叫んだ。


 その指示に従って、みんなが一斉に、斜め上に向けたクロスボウを射つ。

 位置替え。


 四十五度の角度で発射された、みんなのクロスボウの矢と、向かってきていたモンスターの集団が全て入れ替わる。

 風を切って飛ぶ矢と入れ替えられたモンスターたちは、ものすごい勢いでアムリグの外に向かって飛んでいった。


 きれいな放物線を描いて空を飛んだモンスターたちは、次々と硬い地面に叩きつけられて絶命していった。

 風が吹いた。モンスターたちはもう動かない。街は、静かだった。


「私たちは、勝ったのか……」

 ポカンとした顔でケイルが言った。


 他の人々も不思議そうに顔を見合わせている。


「もちろんです。皆さん、エクセレントでした」

 メルさんが淡々というと、大歓声が上がった。


「私のセリフが、こんなにも熱い支持を……感無量です」

 ちょっと涙ぐみながらメルさんが言った。


「そういうんでは」


「ないと思うんですけどね……」

 俺とシアで苦笑する。


 とはいえ、これは大勝利だ。


 前よりもたくさんのモンスターを損害を出すことなく倒したんだからな。

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