33.叩けるだけ叩いて

「真っ直ぐこちらに向かってきますね。アムリグに来るのは確実かと」


 スコープから目を離したメルさんが言った。

 俺はシア、メルさんと一緒に街を出て、敵の動きを偵察していた。


 曇り空の下、丘の上に腹ばいになって目を凝らす。

 俺の目にも遠くで何かが動いているのは見えた。


「ギルドマスターの情報通りか」


「でも、あの人はどうやってモンスターの動きなんて掴んだんでしょう?」


 俺が言うと、シアは首をかしげた。


 実は今回のことはギルドマスターから教えられていたのだった。

 アムリグの復興が一段落ついたので報告しに行ったところ、モンスターの大群が動いているから警戒するようにと言われたのだった。


「私もわからないですね。ただ、あの方はかなり顔が広いので……」


「そうはいってもイースト・エンドのモンスターの動きですよ」


 俺もシアと同感だった。

 いくら顔が広いと言ったってこの辺りの情報なんて自然に入ってくるものじゃないだろう。

 ギルドマスターは俺たち以外の冒険者も雇っているのかも知れないな。


「なんにしても、敵が来る以上は倒さないといけないですね」


 シアが言った。


「ここで全部仕留めるのは無理だろうけど、数は減らしてやるか」


「では、位置替えガン(仮)、いきますよ」 


 メルさんがスナイパーライフルを構える。

 一応シアに技名を考えてもらうことになっていたのだが、なんだかんだで忙しかったので、結局「位置替えガン(仮)」のままだった。


「ファイア」


 メルさんがスナイパーライフルを撃つのに合わせて俺も位置替えを使う。


 螺旋を描きながら高速で飛ぶ銃弾を、空中で大岩と入れ替える。

 回転しながら飛ぶ大岩が、遥か彼方のモンスターの群れをなぎ倒す。

 大きな土煙が上がるのが見えた。


「シア、頼む」


「わかりました、リリース!」 


 位置替えした大岩にはあらかじめシアが魔法をストックしてくれている。

 火球に雷撃が飛び出して、さらにモンスターを倒した。


「いい感じですね」


 スコープを覗き込んで戦果を確かめたメルさんが言った。

 ある程度は倒せたが、ここで全滅させるのはやはり無理だな。

 どうにも数が多すぎる。


「よし、二人は馬車で街まで戻って、迎撃の準備をしておいてくれ。俺はあいつらを叩けるだけ叩いておく」


「了解です。グラッドさん、気をつけて」


「では、お手伝いを」


 メルさんはスナイパーライフルを消して、別な銃を出した。

 シカゴタイプライターとかいうらしいそれは、連射が効く銃だ。


「ヒャッフー」


 メルさんはそれを無表情で乱射した。

 モンスターの群れに無数の銃弾が突き刺さる。


 もちろん連射される銃弾一発一発には俺が位置替えの印をつけてある。

 かなり面倒だったが、その甲斐はあったな。


「じゃあ行ってくる」


 俺は位置替えを使った。

 命中した銃弾の一つと自分を入れ替え、モンスターの群れの中に降り立つ。


 敵が一斉にこちらを向く。

 リザードマンにオーク、ジャイアントラットにレイジングボア。

 前とは違ってさまざまなモンスターがいた。


 それらが俺目掛けて突撃してくる。

 俺はまた位置替えを使う。


 別の弾丸と入れ替わり、安全なところまで瞬時に移動する。

 襲いかかってきたモンスターたちは俺を見失って同士討ちとなる。


 リザードマンの爪はオークを切り裂き、オークの拳はレイジングボアを打ちのめした。


「こっちこっち」


 俺はモンスターたちを挑発しながら位置替えを連発した。

 時にはモンスターの側に印をつけて位置替えしてやり、奴らを撹乱する。


 この集団にも指揮をとっている個体が何体かいるようで、奴らは周りの仲間に指示を出して俺を倒そうとしていた。

 そうはいくか。


 俺は指揮官を見つけると、位置替えで背後をとる。


「極光閃!」


 位置替えの力を収束した右手で、一際大きなオークを背中から貫く。

 指揮官が倒れて混乱するオークたちをさらに位置替えで翻弄する。


 集団の歩みは止められないが、こいつらをズタズタにしてやることはできる。

 俺は位置替えで戦場飛び回りながら、モンスターの群れを一方的に叩き続けた。




 アムリグの街の入り口に位置替えで移動すると、シアとメルさんがいた。


「グラッドさん!」

「戻られましたか」


「叩けるだけ叩いておいたよ」


 駆け寄ってきた二人に俺は言った。

 やはり全滅させるのは無理だった。

 街まで近づいてきたので、俺は途中で攻撃を切り上げて戻ったのだった。


「どれどれ……げっ、こんなに減らしたんですか。三分の一くらいしか残ってないんですが……」 


 スコープで敵の様子を見たメルさんが驚きの声をあげる。


「さ、さすがは伝説の「子」……!」


「褒めてくれてるのはわかるんだけど、その言い方はやめてくれないか……」


 シアは眼鏡の奥の瞳をキラキラさせているが、やっぱり伝説の「子」というのはなあ……師匠はなんて言うんだろう。


 などと思っていると、緊張した面持ちのケイルがやってきた。

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