32.再建の最中に
翌日から本格的に街の復興作業が始まった。
俺は位置替えを使ってギルドまで戻って、ギルドマスターとも話し合いながら、作業を進めていった。
「予想通りの活躍ぶりですねー」
「まったく」
シアとメルさんに言われて俺は苦笑した。
案の定というか、当然というか、俺の位置替えのスキルはこの作業との相性が抜群だった。
瓦礫の撤去も資材の運搬も一瞬なので、アムリグの街はものすごい勢いで復興していった。
いまは昼休み、シアとメルさんが作ってくれた昼食をみんなで食べているところだ。
「お疲れ様です。お茶どうぞ」
「ありがとう。助かるよ」
シアが淹れてくれたお茶を受け取る。
これはギルドマスターからの差し入れだ。
俺のスキルのおかげで恐ろしくスムーズに作業が進んでいるので、予算には余裕があるらしい。
「この段階まで来ちゃうと私たちの出番はほとんどないですから」
「私たちは戦闘専門ですので」
シアとメルさんが言う。
「戦闘専門なのはそうなんだろうけど、二人にはかなり助けられてるよ」
シアの料理の腕前は相当なものだし、メルさんもお手伝いに慣れてきたのか、テキパキ動いてくれるのでありがたかった。
「食事の方は任せてください」
「料理は食べるものですが、作るものでもあります」
シアは笑顔で、メルさんはなんかキリッとした顔でそう言っていた。
「おい、グラッドとやら」
不意に名前を呼ばれた。
ベネットさんだった。なにやら不機嫌そうだ。
「ああ、ベネットさんでしたか」
「お茶どうぞ」
「おいしいですよ。お高いやつなので」
俺たちは歓迎したのだが、ベネットさんは顔をしかめた。
「茶などいらんわ! お前たち、なぜワシの家を直している!」
「なぜって、ベネットさん、結局荷造りしてないですし、作業の時もいろいろ助言してくれてますから」
俺は声を荒げるベネットさんに言った。
最初に会った時は出ていくと言っていたけど、なんだかんだでこの人はここに留まってくれている。
「に、荷造りに手間どっとるだけだ! それとワシは助言などしておらん! 文句を言っとるだけだ!」
「いや、この前なんて手伝いまでしてくれたじゃないですか」
この人が「全然なっとらん! 貸してみろ!」と言って、作業に手間取っていた街の人からノコギリを奪い、せっせと材木を切っていたのを俺はちゃんと見ていた。
名の知れた大工だっただけあって、素人の俺から見ても見事な手際だった。
「それは……」
「まあ、あの時のお礼だと思って、受け取ってくださいよ」
「どうぞ」
シアが湯気のたつカップを差し出すと、渋々といった感じではあるがベネットさんも受け取ってくれた。
しかし、お茶を飲もうとはしない。
「…………」
俺たち三人はじーっとベネットさんを見つめた。
「……飲めばいいんじゃろ! 飲めば!」
根負けした形だが、ベネットさんはちゃんとお茶を飲んでくれた。
「おかわりありますよ」
「いらんわ!」
メルさんの申し出はあえなくつっぱねられた。
「まあまあ、そう怒らないでくださいよ。それより、家を直すにあたって要望とかありますか? 屋根裏部屋が欲しいとか、ベランダをつけてくれとか」
俺はベネットさんに聞いたみたのだが、彼は黙り込んでしまった。
「……なぜだ。なぜワシなんかに構うんだ。こんなジジイなんて放っておけばいいだろう」
「作業をしてる時、街の人たちはよくあなたの話をしてました。ノコギリだの金槌だのを使っていると、あなたのことを思い出すんでしょうね。みんなあなたに感謝してました。そして、あなたの力になりたいと言ってました」
俺は作業の時に見聞きしたことを話した。
アムリグの人たちはみんなベネットさんのことを褒め称え、彼を支えたいと言っていたのだ。
「ワシはもう、一人でいたいんだよ……」
ベネットさんは苦しそうだった。
「そんなことはないでしょう。ひとりぼっちは、さびしいじゃないですか」
俺は彼に言った。
もし師匠と出会わなかったら、もしシアと出会わなかったら、俺は今でもずっとひとりぼっちだっただろう。
そうなっていたら、やっぱりさびしかったと思う。
ベネットさんも、俺とあまり変わらないんじゃないかと思っていた。
「息子も娘も、孫も亡くしたんだ……」
「だからって、ひとりにならなくてもいいじゃないですか。みんなが、あなたを待っているんだから」
「……そうか、そうだな。息子たちも、ここを守ろうと必死に戦ったんだ。ワシだけ一人で逃げ出すわけにも、いかないよな」
ベネットさんは笑ってくれた。
「じゃあ……」
「ああ。手伝ってやるとも。若いのばかりに任せてられるか。ここはワシの街だ。立派に立て直してやるとも」
そう言って、ベネットさんはアムリグの人たちのところへ走っていった。
彼が力を貸してくれることに、みんなとても喜んでいた。
「これなら、再建はなんとかなりそうですね」
シアが言った。
「ああ。あとはここを守り抜くだけだ」
「戦闘屋たる私たちの出番ですね。滾ります」
メルさんも燃えていた。
無表情で44マグナムを握りしめる姿はちょっと怖いが。
なんにしても、この街は立ち直れる。
そして、ここは俺たちが守る。
敵の第二波がやってきたのは、それから十日後のことだった。
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