29.こういうのは得意なので

 リザードマンを全滅させた俺とメルさんはシアたちのところに向かって走っていた。


「それで、彼女はどこに?」


「講堂が無事だったんでそこに街の人を集めて、シアが保護する形にしてます。もうすぐ見えてきますよ」


 メルさんに答えているうちに目的の講堂の近くまで来た。

 白い尖塔が目印の立派な建物だ。

 そして、入り口のところにはシアがいた。


「グラッドさーん、メルさーん」


 俺たちに気づいてシアが手を振ってくれた。

 講堂の周りにはリザードマンの死体がいくつも転がっている。


「お疲れ様」


 俺は一人でここを守ってくれたシアを労った。


「これくらいは楽勝ですね。そちらはどうでしたか?」


 シアは無傷だった。やっぱり頼りになるな。


「私たちのスキルによるコンボ、「位置替えガン(仮)」でトカゲどもを蹴散らしてやりました」


 メルさんが答える。無表情だが得意げだった。


「か、(仮)ですか?」


 シアは助けを求めるような目で俺を見た。


「名前がいまいちだからシアに考えて欲しいんだ」


「なるほど、確かにパッとしないですね」


「ぐぬぬ……二人して……」


 考え込むシアにメルさんは悔しげだった。


「まあ、暇なときに考えてくれればいいよ。講堂の方はどうなってる?」


 俺が暇なときでいいと言った時、メルさんが「えっ?」って顔になったけど、まあ、ほっといていいだろう。


「怪我をした方はいますが、一応街の人は全員無事です。ひとまずは私たちの勝利ですね」


 それを聞いて俺はほっとした。

 よかった。とりあえずアムリグの街を守ることは出来たんだな。


 そのとき、講堂入り口の大きな扉が開いて、ケイルが出てきた。


「おお! 無事だったか!」


「リザードマンは全て倒しました。これでしばらくは大丈夫でしょう」


 俺はケイルに報告した。


「いやはや、なんと礼を言えばいいのか……しかし、どうして冒険者がこんなところに来たんだ?」


「それは私が説明しましょう」


 メルさんが説明役を買って出てくれた。




 彼女の説明は簡潔でわかりやすかったが、自分がリザードマンを倒したところだけは無駄に熱がこもっていた。


「遅れて駆けつけたこの私が、抜く手も見えぬほどの早撃ちでもって、バンバンバンバン! リザードマン四体をまとめてお空の彼方までふっと飛ばしてやったのです」


「おおー!」


 ケイルは普通に感心していた。

 この人から見れば街を救ってくれた恩人だし、当然と言えば当然の反応なんだが……。


「メルさん、なんだか楽しそうですね」


 俺は言った。

 一応無表情だが、彼女はどう見てもはしゃいでいた。


「……ひとつ、はっきりさせておきましょうか」


 テンガロンハットのつばをくいっとあげて、おもむろにメルさんが言う。


「私は、他の人にかまってもらうのが、大好きです」


 メルさんはニヒルに笑っていた。


「はっきり言いましたね」


 こんなロクでもないことを堂々と言える人はあまりいないだろうな。

 さすがはギルドマスターの懐刀か。


「意思表示はきちんとすべきかと」


「それはそうですが……」


 だからといって「かまってもらうのが大好き」とか言ってしまうのもどうなんだとは思ったが、それは言わずにおいた。


「とにかく、私は他人にかまってもらうことに飢えています。グラッドさんにさえかまってもらえればオールオッケーで、褒められようものなら露骨に上機嫌になるエリンシアさんとは違うんで——」


 メルさんがそこまで口にしたとき、彼女のほっぺたに短い杖がぐりっと押し当てられた。

 杖の持ち主であるシアが言う。


「自覚はありますし否定するつもりもありませんが、そういう風に言われるのは、ちょっと……」


「ひかえめな口調とは裏腹な殺意強めのアクション……なるほど、これはブチキレてますね。……すみませんでした」


 杖の先端でほっぺたをぐりぐりされながら、メルさんは謝罪した。


「話がそれましたが、俺たちがギルドの依頼でこの地域を再建するために来たってことはわかってもらえましたよね?」


 苦笑しつつ俺はケイルにたずねた。


「ああ。国がさじを投げちまったのには腹が立つが、あんたたちは大歓迎だよ。助けてくれて本当にありがとう」


「間に合ってよかったです」


 杖をしまったシアが言った。メルさんもうなずいている。

 だが、ケイルの表情は暗かった。


「助けてもらったことには本当に感謝している。でも、私たちはもうダメなんだ。リザードマンどもがいなくなっても、物資がない。食料すらほとんど残っていないんだ。私を含め、みんな疲れ切ってしまっている。ここまで保ったのだって奇跡みたいなものだ。我々はもう、ダメなんだよ……」


「ああ、その辺のことならなんとかしますよ」


 俺が軽い調子で言うと、ケイルはかぶりを振った。


「よしてくれ。あんたたちも何か持ってきてくれたんだろうが、馬車で運べる程度のものじゃどうにもならないんだ」


「いえ、運ぶのはこれからやります。大丈夫ですよ。こういうのは得意なので」


「どういうことだね?」


 自信満々な俺を見て、ケイルは首をかしげた。

 さあ、位置替えといくか。

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