27.届きさえすれば
メルクリアさんのスキルを見せてもらった俺たちは、今度こそ馬車でイースト・エンドに向かった。
御者役はメルクリアさんが務めている。テンガロンハットをかぶって手綱を握る姿はなんだか絵になる感じだった。
出発から二日が経った。
途中の町や村で休憩しつつ東に進んでいるわけだが、やはり進めば進むほど道も景色も荒れた感じになっていく。
こっちの方とは人の往来がほとんどないせいだろうな。
メルクリアさんの腕はたしかで、地面がでこぼこしていても馬車はかなり快適だった。
「すごいですね。こんな道なのに全然揺れないなんて」
俺は馬車の後ろの座席からメルクリアさんに言った。
「私、優秀ですので」
伸ばした人差し指でクイっと帽子のつばをあげてメルクリアさんが言う。
無表情だが、ちょっと得意げだ。
だんだんこの人のことも分かってきたな。
「私、こんなに快適な馬車は初めてです。メルクリアさんってすごい方なんですね」
俺の隣に座っているシアも感嘆していた。
「馬車の扱いが上手いだけじゃなくてガンスリンガーのスキルもあるからな。メルクリアさんがこんなにすごい人だったとは思わなかったよ」
俺もシアに同意した。
彼女はギルドマスターの懐刀なのだろう。
元Sランク冒険者から頼りにされるんだから大した人だ。
しかし、メルクリアさんはなぜか不満げだった。
「どうかしましたか?」
「出発してから二日が経ったわけですが……あなた方とは距離を感じます」
俺が尋ねるとメルクリアさんはそう答えた。
「距離、ですか……」
シアはピンとこないらしい。俺もだった。
そこそこ打ち解けたような気がするんだがなあ。
「スキルによるコンボをキメた私たちはいわば真の仲間。だというのに、あなた方は私のことを「メルクリアさん」などと他人行儀感全開で呼びます」
「あー……」
「そこですか……」
たしかに俺もシアも彼女のことは「メルクリアさん」と呼んでいる。
堅苦しいといえば堅苦しいか。
「じゃあなんて呼んだらいいですか?」
「メルルン」
シアの質問にメルクリアさんは即答した。
「…………」
俺もシアも口をつぐんだ。
目配せしあう。
お互いに、その呼び方は勘弁して欲しい、と思っているのを確かめ合った俺たちはこう言った。
「では、メルさんで」
「ですね」
「……ひとまずはそこで手を打ちましょう。ですが、いずれはメルルンと呼ばれるようになってみせます」
メルクリアさんは諦めてはくれなかった。
粘り強い人だな。
「さて、この辺りはもうイースト・エンドです。今日は天気もいいですし、そろそろ人のいる街が見えてもいい頃ですが」
あたりを見回しながらメルさんが言った。
実はここまでに打ち捨てられた村を二つ、廃墟と化している街を一つ目にしていた。
幸いモンスターに出くわすことはなかったが、ここはすでにイースト・エンド。
領主も逃げ出す荒れた土地というわけだ。
「人が住んでいる街って三つしかないんでしたよね?」
「最後に確認した時はそうでした。モンスターに追われた人々が身を寄せ合うようにして暮らしているそうです」
俺が聞くとメルさんはそう答えた。
「なんとかしないといけないですね」
シアは腿の上においた拳をぎゅっと握りしめている。
「ちょっと遠くの方も見ます」
言いながらメルさんは細長い銃を出した。
「ワンオブサウザンドなスナイパーライフル。この二十倍スコープがあれば……」
メルさんが両手で銃を構え、スコープを覗き込む。
少し前に説明されたのだが、彼女は44マグナムだけでなく、色々な銃を出せるそうだ。
これもその一つで、望遠照準器によって遠くの敵も正確に狙い撃てるらしい。
「……まずいですね。街が見えましたが、火の手が上がっています」
「襲われてるのか!」
俺は思わず身を乗り出した。
目を凝らすとメルさんのいうように、うっすら煙のようなものが見えた。
「とにかく急がないと!」
「そうしたいのは山々ですが、私の技量でもこの悪路で馬車の速度を上げるのは危険です」
シアが言うとメルさんは悔しげにうつむいた。
「スナイパーライフルでなんとかなりませんか?」
「弾は街まで届きますが、スコープでもモンスターは狙えません。流石にここから援護は無理です」
メルさんは申し訳なさそうに言った。
「どうしたら……」
シアは不安そうに街の方を見ている。
街から上がる煙は濃くなっているようだ。
急がないとまずい。
でも馬車の速度は上げられないし、街まではまだ距離がある。
メルさんの銃でもモンスターを撃つことは出来ない……いや、当てられないだけで、弾は街まで届くのか。
それだったら……
「メルさん、街に落ちるようにして弾を撃ってくれないか」
「構いませんが……山なりに撃ったのではモンスターには当てられませんよ」
メルさんは俺の言うことに少し戸惑っていた。
「いや、当てなくていいんです。弾をあの街の上まで運んでくれればいいんだ」
「なるほど、そういうことですね!」
シアは俺の考えを理解してくれたようだ。
理解が早くて助かる。
「シア、ちょっと空の上まで付き合ってくれるか?」
「もちろんですよ!」
シアはとびきりの笑顔でうなずいてくれた。
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