26.笑ってしまうくらいの
「…………」
俺もシアも無言だった。
「どうかされましたか?」
黒い物体を右手に持ったメルクリアさんが首を傾げる。
「いえ、今度のやつはちゃんと武器なのかなと」
「警戒してるんです」
俺とシアは目を細くして言った。
あの黒いのは帽子よりは武器っぽく見えるが、この人は油断ならない。
「れっきとした武器ですよ」
メルクリアさんが言う。
「これはかつてあちらの世界で最強だった44マグナム。引き金を引けばどんな相手もお空の果てまで吹っ飛ばす、イカしたオモチャです」
なぜか早口でそう言いながらメルクリアさんはニヤッと笑った。
……この人が笑うところ、初めて見たな……。
「言ってることはよくわからないけど、とりあえず、それがスキルで出した異世界の武器なんですよね?」
「そう。私のスキル、ガンスリンガーは異世界の武器である銃を召喚するスキルです。……なぜかテンガロンハットも出せますが」
俺が聞くと彼女は左手の人差し指で帽子のツバをくいっとあげてみせた。
無表情のままで。
色んな意味で独特な人だよなあ……。
ともかく、あれが武器なのは間違いないらしい。
柄の部分は木製のようだが本体は金属製だな。
黒く光っている。
本体の部分からは黒い筒が突き出ていた。
これでどうやって攻撃するんだ?
どんな相手もお空の果てまで吹っ飛ばせるとか言ってたが。
「では、実演しましょう。グラッドさん、標的の準備をお願いします」
メルクリアさんに言われて俺は位置替えを使った。
スキルの実演に使うからとギルドにあった古い鎧に位置替えの印をつけておくよう頼まれていたのだ。
印をつけておいた落ち葉とギルドの鎧が入れ替わり、俺の隣に金属製の鎧が出現する。
「お二人とも、少し離れていてください」
メルクリアさんに言われた通り、俺とシアは鎧から離れた。
彼女は44マグナムを鎧に向けた。
「ファイア」
メルクリアさんの人差し指が44マグナムの湾曲した部分を引いた。
同時に銃の先端から赤い炎がパッと飛び出した。
火を撃ち出す武器なのかと思ったがそうじゃないな。
ものすごく速いけどこれが発射したのは小さな金属の塊だ。
それは金属製の鎧をあっけなく貫通した。
「おおー!」
俺とシアは異世界の武器の力に拍手した。
すごいな、これ。
古いとはいえかなり頑丈な鎧だったのに、こんなにあっけなく貫くなんて。
でも、この武器ってひょっとして……
「グラッドさん、メルクリアさんのスキルって……」
シアも俺と同じことを思いついたようだ。
「ああ。これは多分、俺たちのスキルと組み合わせられる」
というわけでメルクリアさんに相談してみたところ、実験してみようということになった。
「これが弾薬ですか……」
「そうです。その先端の弾丸が飛ぶので、そこに印をつけてください」
俺が渡された44マグナムの弾薬を眺めていると、メルクリアさんが説明してくれた。
言われた通り、指先くらいの大きさの弾丸部分に位置替えの印をつける。
印をつけた弾薬をメルクリアさんに返すと、彼女はそれを44マグナムに装填した。
「では、3、2、1、ファイアでいきます」
そう言って、彼女は近くの木に狙いを定めた。
俺の足元には、森で見つけた大きな石が置いてある。
そして、この石にも位置替えの印をつけてあった。
「3、2、1、ファイア」
淡々と言いながらメルクリアさんが引き金を引く。
その動きに合わせて、俺は位置替えを使った。
銃口が火を吹いた直後、発射された弾丸と俺の足元の石が入れ替わる。
音よりも速く飛ぶという弾丸が、人の頭くらいはある大きな石と入れ替わる。
弾丸の勢いで飛ぶ石は、ものすごい音を立てて標的の木に命中し、それをへし折った。
元の弾丸ではとてもこうはいかない。
すさまじい威力だった。
「すごい……! これ、投石器なんて目じゃないですよ!」
位置替えとガンスリンガーのスキルの組み合わせにシアは目を丸くしていた。
「なるほど、これはナイスですね」
メルクリアさんは無表情のまま言った。
喜んではいるらしい。
さて、位置替えとガンスリンガーの組み合わせはうまくいった。
あとは……
「シア、頼むよ」
「私の番ですね。では、リリース!」
シアが気合を入れて杖を振る。
あの石にはあらかじめ魔法をストックしてあったのだ。
貯めてあった魔法の雷撃が、石からほとばしった。
「……成功だな」
俺は思わず笑ってしまった。
位置替え、ストック・リリース、ガンスリンガーは全て組み合わせて使えるんだ。
「なんだかすごいことになっちゃいましたね」
シアも笑っている。
「ええ。これはゴキゲンですね」
44マグナムを持ったメルクリアさんもニヤッと笑っていた。
……うん、この人は、笑わないでいてくれた方がいい気がするな……
ともあれ、ガンスリンガーで発射する銃弾に位置替えとストック・リリースを使うことができるんだ。
これなら、モンスターの大群だって、どうとでもできる。
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