25.彼女のスキル

 受付係さんが助っ人だと聞かされて驚く俺とシアにコートランドが言う。


「そういう反応になるのも無理はないが、彼女は優秀だよ。今回の依頼でも助けになるだろう」


 元Sランク冒険者のこの人が言うのだから間違いはないんだろうけど、受付係さんことメルクリアさんって、戦えるのか?


「私の戦闘能力に疑念をお持ちのようですね」


 メルクリアさんに言われて俺はどきっとした。

 顔に出ていたか。


「すみません。戦う姿が想像できなくて……」


 一応は詫びたが、戦う姿が想像できないというのは本音だった。

 剣に槍、魔法に格闘術、どれも彼女にはしっくり来ないように思う。


「メルクリア君が戦う姿を想像できないのは当然だよ。何せ彼女は異世界の武器の使い手なのだから」


 コートランドが笑いながら言った。


「い、異世界の武器、ですか?」


 シアは戸惑っていた。


 俺は昔、師匠からこの世界には存在しない武器を召喚するスキルを持った人間がいるって聞いたことがあるけど、この人がそうなんだろうか。

 一体どんな武器を使うんだ?


「出発の前に私のスキルをお見せした方が良さそうですね」


 メルクリアさんが言った。


「そのようだ。馬車は待たせておくから、ちょっと森まで行って君のアレを見せてやるといい。仲間の戦力は把握しておいた方がいいだろう」


「はあ……」


「そう、ですね……」


 なにを見せられるのかまったく見当がつかないので、俺もシアも生返事だった。

 ともあれ、出発は多少遅れてもいいようなので森でメルクリアさんのスキルを見せてもらうことにした。




 俺たちは三人で森を歩いていた。

 先頭はメルクリアさんで、俺とシアは少し離れてついていっている。


 別に離れる必要はないのだが、なんとなくこうなっていた。


「ギルドマスターは優秀だって言っていましたが……」


「人選が予想外すぎるよな」


 声を潜めてシアと話しながら歩いて行く。

 ここまでメルクリアさんとはほとんど話していない。


 ギルドの受付係ということで、俺もシアも彼女と顔を会わせる機会はそれなりにあったのだが、まともに話したことなんてない。

 前を歩く彼女の背中を見やる。


 見慣れたギルドの制服姿。

 女性としては平均的な身長のシアよりも小柄で、短めの髪が歩くたびに少し揺れている。


 確かに隙のない歩き方ではあるのだが、本当にこの人が戦うのか?

 しかも異世界の武器を召喚するって……


「ダメだ。どうしてもピンとこない」


「私もです」


 シアも苦笑していた。

 その時、メルクリアさんが足を止めた。


「この辺りでいいでしょう」


 周囲を見回して彼女が言う。人気のない開けた場所だった。

 いよいよ彼女のスキルが、異世界の武器が見られるわけだ。


 俺は無意識のうちに唾を飲み込んでいた。

 シアも眼鏡の位置を直している。

 集中しているようだ。


「では、いきます」


 メルクリアさんがスッと右手をかかげる。


 その手の上に、パッと帽子が現れた。

 ……そう、帽子だった。少し薄めの茶色でつばが広く、中央の部分がへこんでいる。


 大きめの帽子だった。


「これが異世界の武器か!」


「帽子にしか見えませんが、きっとすごい力を秘めた武器なんですよ!」


 俺もシアも彼女が出した帽子型の武器に興奮していた。

 が、


「いえ、これはただの帽子です。私のスキルで出せる、あちらの世界のものではありますが」


 メルクリアさんは淡々とそう言った。


「それで戦うんじゃないのか!」


「無理ですよ。投げるくらいはできますが」


「じゃあ、さっきの「では、いきます」はなんだったんですか!」


「ちょっとしたジョークです」


 俺とシアに対して、メルクリアさんはそう答えた。


「…………」


 そういえば、この人、冗談とか好きなんだったな……。


「じゃあ、その帽子に意味はないんですか? 異世界の帽子だって話ですけど」


「このテンガロンハットがあった方が、私のスキルはサマになるんですよ」


 テンガロンハットという名らしい大きな帽子をくるんと回して頭にかぶると、メルクリアさんは再び右手をかかげた。


「では、今度こそお見せしましょう。異世界の武器、『銃』を召喚する私のスキル『ガンスリンガー』を」


 そう言うと、彼女の右手の中に黒い物体が現れた。

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