18.必殺技と言えなくもないもの

 俺はシアと一緒に森で連携の確認を続けていた。


「ライトニング!」


 シアが短い杖を突き出す。

 しかし、何も起きない。


 と思っていると、呪文から一拍遅れて杖の先から雷撃が放たれた。


「なるほど、普通に魔法を撃つんじゃなくて、一旦ストックしてからリリースすることで発動を遅らせられるのか」


 シアのやったことはわかっていた。

 これは一種のフェイントだ。


 魔法が発動するタイミングをずらして相手の意表をつくわけだ。


「はい! 私はディレイって呼んでます!」


 振り返ってシアが言った。


「ディレイ、ディレイか……」


「どうかしましたか?」


 シアが首をかしげる。


「いや、シアってこういうのに名前つけるの好きだよなって思って」


 以前見せてもらったストックした魔法をリリースするのと同時に普通に呪文を唱えて、異なる魔法を同時に撃つ技は「デュアルブート」というのだそうだ。


 他にも色々とストック・リリースを活用した「技」を見せてもらっていた。


「……グラッドさん、技に名前をつけるのはね、人としての責務なんですよ」


 くいっと眼鏡を押し上げてシアが言った。

 彼女は大真面目だった。


「責務か」


「責務です」


 シアが断言する。

 そうか、人類にはそんな責務があったのか。

 初耳だな……。


「それはさておき、連携の方はバッチリだな」


 俺はシアに言った。


 位置替えとストック・リリースの組み合わせは色々なパターンを試しておいた。

 デュラハン戦でも上手く活用できるはずだ。


「さておいて欲しくはないんですが……私たちの連携は完璧だと思います」


 シアも自信を持っているようだ。


「ただ……」


「どうかしたか?」


 妙な反応をされたので聞いてみた。

 シアはなぜか俺のことをじーっと見ている。


「グラッドさんは、必殺技を持ってますよね?」


「どういう意味だ?」


 そう聞かれて俺は首をかしげた。

 突然必殺技と言われてもよくわからなかった。


「グラッドさんの位置替えのスキルは強力ですけど、直接攻撃に使えないのは事実……確かにグラッドさんは格闘術も短剣の技も身につけています。だから攻撃に問題はありません。ですが、私の直感が言っているんです。この人は、切り札を、必殺技を持っていると!」


 言いながら、シアはずずいっと俺に詰め寄ってきた。

 その瞳は期待に輝いている。


「そんなもの、直感でわかるのか……」


 俺は若干後ずさりしながら言った。


「わかりますとも! さあ、デュラハンは強敵ですよ! 私たちだって危機に陥るかもしれません! もしもの時のためにも、グラッドさんの必殺技を確認しておくべきではないでしょうか!」


 なるほど・シアの言うことは正しい。

 パーティとして仲間の能力は正確に把握しておくべきだろう。


 それは理に適っている。

 が、


「……本音は?」


「グラッドさんの必殺技がすっごく見たいです! ……はっ!」


 俺の質問に即答してしまったあと、シアははっとした顔になった。


「違うんです! 違うんですよ! 私はあくまで戦力を正確に把握しておきたいだけで、決して単なる好奇心ではないんですよ!」


 シアはしどろもどろだったし、目は泳いでいた。


 本音がダダ漏れだけど言ってること自体は間違ってないし、そもそも彼女に俺の力を隠す理由はない。


 というか、「アレ」のことはこの後説明するつもりだった。

 まあ、ちょうどいいか。


「一応シアの言う必殺技に近いものはあるよ」


「やっぱり。私の目に狂いはありませんでしたね」


 ふふんと笑ってシアが言う。


「それで、どんな技なんですか?」


「技と言うほどのものでもないんだけど……」


 俺はやってみせることにした。

 シアから離れて太い木のところまで行く。


 これくらいの大きさがあればいいだろう。


「俺の位置替えって使ってもほとんど負担はかからないんだけど、負担が全くないわけじゃないんだ。スキルを使えば、「位置替えの力の源」みたいなものを消費していく」


「ええと、私が魔力を使って魔法を撃つように、グラッドさんには位置替えのための力があって、それを使って位置替えをしてるってことですか?」


 シアが聞いてきた。


「そうだね。この力はどうも魔力とは違うらしくて、俺は魔法は全然使えないんだけど、位置替えの力はスキルを使えば使うほど、量が増えていったんだ」


 シアに説明する。

 俺も初めのうちは日に五回も位置替えを使ったらへとへとになっていたが、位置替えの力はあっという間に増えていった。


 今ではほとんど無制限に何回でも位置替えを連発できるようになっている。


「でも、力の量ばかり増えてもあんまり意味がないんだよ。一日に千回も二千回も位置替えを使うことなんてないんだから」


「確かに……そうなるとなんだか力がもったいないですね」


 シアもわかってくれたようだ。

 要するに俺の位置替えの力は使いきれなくて余ってしまうのだ。


「それで、ある時師匠に言われたんだ。「お前、その力を手に込めて直接相手をぶん殴ったらどうだ?」ってね」

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