16.二対一で正々堂々と
その後、俺とシアは依頼書にサインして宿に戻った。
二人で酒場のテーブルにつく。
「決行は二日後か」
「ですね。その日はギルドの方でダンジョンを立ち入り禁止にしてくれるそうです」
俺が呟くとシアが言った。
「一対一……いや、二対一での決闘ってわけだな」
「そう言われるとズルしてるような気がしちゃいますね」
シアがクスッと笑った。
「これが俺たちにとっての正々堂々さ」
俺も笑って言った。
「でも驚きました。私たちにこんな依頼が来るなんて」
「確かにな。しかしどうしてギルドマスターが直接動かないんだろう」
「私もそれは気になってました。ギルドマスターが嘘をついているわけではないと思うんですが、少し不自然っていうか……」
シアも同じ疑問を持っていたようだ。
立場上動きにくいというのは本当なんだろうけど、その気になればコートランド自らデュラハンを討伐できるはずだ。
彼は実力だけでなく、政治力もある。
そのあたりのことを上手くやるのはそれほど難しくはないだろう。
だが、実際にはこうして俺たちに話が回ってきている。
シアが言うように俺も少し不自然に感じた。
そして、コートランドの最後の言葉も引っかかっていた。
彼は「君たちの力を見せてくれ」と言った。
俺は何か含みがあるように感じた。
「でも、これは大きなチャンスだよ。もし何か隠された意図があるんだとしたら、俺たちの想像以上に大きなチャンスなんじゃないか?」
「グラッドさん、楽観的すぎませんか? 私たちが考えている以上に危険なのかもしれないんですよ?」
「そう言われると……」
くいと眼鏡をあげるシアに言われて、俺は言葉に詰まってしまった。
確かにそうとも言えるんだが、でもなあ……と思っていると、シアが舌を出した。
「なーんて。嘘ですよ。さっきは意地悪されましたからね。ちょっとした仕返しです」
「……やられたよ」
なんだ、そうだったのか。
俺はほっとして言った。
「本当は私もグラッドさんと同じことを思ってました。ギルドからの依頼。隠された思惑。私たちの想像以上の、チャンス……正直に言うとドキドキしすぎて居ても立ってもいられません!」
「俺はまた抱き付かれるのかな?」
そう言ってやると、シアは真っ赤になってうめいた。
「……グラッドさんのいじわる……」
「悪かった悪かった。あやまるよ」
仕返しの仕返しはやりすぎだ。
俺はシアに詫びた。
「恥ずかしかったけど、おかげで少し冷静になれました。大きなチャンスですが、やっぱり大きな危険でもあります。慎重にいきましょう」
「ああ。デュラハンはかなり危険な相手だ。準備は整えておかないと」
「必要な装備を揃えて、私たちのスキルの連携も確認しておいた方がいいですね」
「荷物の管理は任せてくれ。慣れてるから」
俺は笑って言った。
あのパーティでの荷物持ちは嫌な経験だったが、シアのために荷物を持つのなら大歓迎だ。
「頼りにしてますよ」
シアも笑っていた。
「さて、日が沈むまではまだ時間があるな」
「じゃあ森まで行って連携の確認をしましょうか。そして帰りに買い物をして装備を整えましょう」
「そうだな。それでいこう」
俺たちは二人で席を立った。
デュラハン討伐。大仕事だ。
もちろん不安はある。
前のパーティでは逃げることしかできなかった相手だ。
でも、今の俺には最高の仲間がいる。
今度は、勝つ。
その頃、グラッドを追放したハムスもまた、あのダンジョン、「サンギュイン・クリプト」に潜っていた。
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