14.二対一ではなく
翌日、二人で朝早くにギルドを訪れた。
早速カウンターのところに行く。
「おはようございます」
無表情の受付係が言った。
「ではこちらへどうぞ」
そう言って、受付係は俺たちをギルドの二階に案内してくれた。
幅の狭い廊下を小柄な受付係の後について歩く。
彼女は一番奥の扉をノックした。
「入ってくれ」という声がした。
受付係は失礼しますと言って扉を開けた。
俺とシアは彼女に続いて中に入った。
広いが調度品はほとんどない部屋だった。左手の壁には本棚が、部屋の奥にどっしりとしたデスクがあるくらいだ。
そして、そのデスクの向こうには五十くらいの男性がいた。
「よくきてくれたね」
男性が言った。
髪には少し白いものがまじっている。
冒険者たちとは違う、穏やかな声音だった。
「初めまして。私はコートランド・ブルー。この地域の冒険者ギルドの管理を任せられている、ギルドマスターの一人だよ」
ギルドマスター、コートランドが言った。
「グラッドです」
「エリンシアと申します」
俺とシアも名乗った。
「なるほど、君がレイモンドの弟子か」
コートランドにそう言われて俺は驚いた。
「師匠のことをご存知なんですか」
「もちろん。君と顔を合わせるのは初めてだが、あの付き合いの悪い男のことはよく知っているよ。冒険者になった君が色々と苦労していたのも知っていたんだが、立場上私がどうこうするわけにはいかなくてね。だが、君もいい仲間を見つけたようだ」
コートランドはシアを見て言った。
「ええ。本当に幸運だったと思います」
「わ、私もです!」
俺が同意するとシアも勢いよくうなずいた。
コートランドは愉快そうに笑った。
「前途ある若者というのはいいものだな」
「きょ……」
「恐縮です……」
俺たちは二人で縮こまった。
このギルドマスターのことは知っている。
コートランド・ブルー。元Sランク冒険者だ。
能力がずば抜けているだけでなく、荒くれ者揃いの冒険者の中では例外的に穏やかな性格の人格者でもあったこの人は、ギルドに請われて冒険者を管理する側に回ったのだ。
それでも、ほんの少し話しただけだが、このギルドマスターがいまだに卓越した力を持っているのはわかった。
「ギルマス、そろそろ……」
受付係が言った。
いよいよ本題に入るようだ。俺は少し身構えた。
「そうだね。依頼の話に移ろうか」
コートランドがデスクの上で指を組み合わせる。
「さて、今回君達に声をかけたのはあるモンスターを討伐してほしいからだ」
討伐の依頼だったか。
標的はなんなんだろう。
コートランドが続ける。
「君たちにはダンジョンに出現したデュラハンを倒して欲しい」
意外な標的だった。
「あのダンジョンのデュラハンが、まだいるんですか?」
コートランドが言っているのは前のパーティにいたときに出くわしたあのデュラハンで間違いないはずだ。
あの時はなんとか逃げ切ったわけだが、その後デュラハンがどうなったのかは知らなかった。
「そうなのだよ。君が元いたパーティがかかったトラップで召喚されたデュラハンが、ダンジョンをうろついているんだ。普通、トラップで出現したモンスターは時間が経てば消えてしまうものなんだが、まれにこういうことも起きる。そして、運の悪いことにあれはかなり強力なモンスターだ」
「はい……」
コートランドのいう通りだ。
あのデュラハンは強敵だった。パーティ全員が無事に帰って来れたのは幸運だった。
「私たちに依頼が来たのはグラッドさんがデュラハンから逃げ切れたからですか?」
シアが聞くとコートランドはうなずいた。
「そうだ。今日までにあれと出くわしたパーティは五つ。うち二つは全滅、残りの三つもかなりの被害を被った。無事だったのはグラッド君のいたパーティだけだ。さすがはレイモンドが見込んだ男だ。見事だよ」
「師匠には鍛えられましたから」
俺は言った。
あの人は手加減なしで俺を鍛えていたからな。
当時はきつかったけど、厳しい修行のおかげでデュラハンから逃げ切ることができたんだ。
……それでもやっぱりあの頃のことはあまり思い出したくはないけど。
「何言ってるんですか。これはれっきとしたグラッドさんのお手柄です。堂々と胸を張ってください」
シアは少し不満そうだった。
「いや、そうは言ってもだな……」
俺は反論しようとしたけど、コートランドも首を横に振った。
「エリンシア君のいう通りだよ。私はレイモンドのやつではなく君を褒めたんだ」
「…………」
こう言われてはうなるしかない。
「二対一ですね。降参してもいいんですよ?」
シアがいたずらっぽく笑う。
あっさり負けを認めるのはなんだか面白くないな、と思っていると受付係さんが不意に口を開いた。
「二対一ではなく三対一です」
まさかの伏兵だった。
こうなっては俺に勝ち目はない。
「……お褒めに預かり光栄です」
俺は降参した。
「それでいいんですよ」
「ああ。押しの強さもこの仕事には必要だ」
シアとコートランドが満足げにいう。受付係さんは無表情のままだが、こくりとうなずいていた。
「さて、デュラハンの話に戻るが」
コートランドが真剣な顔つきなった。
「実はあのモンスターは地上を目指しているようなんだ」
俺もシアも目を瞠った。
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