2.深夜の悪口大会
俺も他のメンバーも驚いて声がした方を見た。
他の客たちはゲラゲラ笑っている。
「おいおい、一日に二回も追放宣言かよ」
「追放祭りじゃねえか」
「バカ、祭りっていうからには五回はねえとダメだろうが」
「おーい、他に追放される奴はいねえかー」
隅のテーブルに座っているのは三人だ。
俺より少し年上、二十歳くらいの茶髪の男がリーダーのようで、さっきの追放宣言はこの男が発したらしい。
茶色の髪のリーダーは、装備から察するに弓使いのようだ。そして、彼は顔を真っ赤にしていた。
「エリンシア、お前のせいでウルサは傷を負った。パーティメンバーを危険に晒すような奴は仲間とは認めない!」
「ランフォード……」
リーダーの隣に座っている女は、うっとりと彼を見ていた。
あのリーダーはランフォードという名前のようだ。
女の腕には包帯が巻かれている。怪我をしているところを見ると、あれがウルサか。
でも、見た感じ怪我は軽そうだな、と俺は思った。
ランフォードとウルサの正面には女の子が座っている。
年は俺と同じくらい、十七、八だろう。長めの黒い髪。眼鏡をかけている。
怒鳴りつけられているにも関わらず、彼女は落ち着いていた。
「待ってください。私はウルサさんを助けようとしました。でも、モンスターの数が多すぎて……」
眼鏡の女の子が冷静に反論する。だが、リーダーのランフォードは激昂した。
「ふざけるな! 助けようとしただと! ウルサは傷を負ったんだぞ!」
ランフォードがテーブルを叩く。ウルサはこれ見よがしに包帯を抑えて痛みを堪えるような素振りをした。
あれは演技だな。
そう考えると同時に、あの眼鏡の女の子、エリンシアが気の毒になった。
俺には彼女が悪いことをしたとは思えなかった。
エリンシアが申し訳なさそうにいう。
「それは、確かに無傷とはいきませんでしたが、状況を考えればこの程度で済んだのは幸運で――」
「うるさい! 言い訳するな! お前は魔法の早撃ちしか取り柄がないだろうが! だったらモンスターの大群くらいなんとかしろ!」
ランフォードが喚く。
これはどうしようもないな。
ただ、ランフォードが言った、魔法の早撃ちという言葉は気になった。
あのエリンシアという娘は魔法の早撃ちができるってことか。どういうスキルなんだろう。
そんなことを考えながら、ついエリンシアを見てしまっていた。
不意に目があった。
俺に気づいた彼女は少しだけ笑った。
お互い、困ったことになりましたね、と言っているように思えた。
気づくと俺も同じような笑みを返していた。
その時、ハムスが咳払いした。
「話の腰を折られたが、とにかくお前は追放だ。わかったな、グラッド」
そう言い捨ててハムスが席を立つ。
ガブリルとマグラナもそれにつづいた。俺のことなど見ようともしない。
顔も見たくないってわけか。
苦笑が漏れた。
隅のテーブルからまたバンという音がした。
「二度と俺たちの前に現れるなよ!」
テーブルを叩いて立ち上がったランフォードは、ウルサと共に店を出ていった。
後に残されたのはエリンシアだけだ。
また彼女と目があった。
これは俺の方から動くべきだな。
席を立って、エリンシアのテーブルまでいった。
他の客からジロジロ見られたが、構うものか。
「大変ですね、お互いに」
エリンシアはクスッと笑った。
不思議と嫌な感じはしなかった。
「その、もしよかったら――」
「もしよかったら、あなたの苦労話を聞かせてもらえませんか? もちろん、別のお店でですけど」
先を越されてしまったことに焦る俺に、エリンシアが小さな声で付け加える。
「あなたの方から来てくれたんですから、誘うのは私の方からやらないと、ね?」
思っていたよりも積極的らしい。
少し意外に思いながらも、俺はエリンシアと一緒に店を出た。
彼女はよく知っているという店に案内してくれた。
目立たないところにある小さな宿屋と一緒になった酒場で、他に客はいないようだった。
主人は七十くらいで口数の少ないおばあさんだった。
「さあ、今夜は悪口大会ですよ! グチグチグチグチ、元パーティの文句を言いましょう!」
おばあさんから受け取った二つの大きなジョッキをドンとテーブルに置いたエリンシアは、眼鏡の奥の瞳をキラキラと輝かせていた。
「望むところだ!」
俺もジョッキを取り、大きくあおった。
そして、二人の悪口大会が始まった。
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