追放された『位置替え』スキル使い~陰からパーティを支えていたのに追放されてしまった。だが同じように追放された凄腕魔法使いと組めたので問題ない。二人で最強の冒険者を目指すことにしたからもう戻る気はない~

三条ツバメ

1.二つの追放宣言

「グラッド、位置替えなんていう地味でしょうもないスキルしかない奴には出ていってもらうぞ」


 酒場のテーブルにつくと、リーダーのハムスは俺を睨みながら言った。その目には嫌悪と憎しみがありありと浮かんでいる。


 地味でしょうもないスキル。そう言われて悔しかった。

 確かにこのスキルは地味なものだと思う。

 俺はこのパーティの荷物持ち――正確に言えばアイテムの管理係だ。


 俺のスキルは一瞬で二つの物体の位置を入れ替えるというものだ。

 これを使えば、ダンジョンで手に入れたアイテムを拠点にある回復薬と入れ替えるなんてことができる。


 位置替えのスキルがあればダンジョンに居ながらにして、手に入れた戦利品を拠点に送ったり、反対に拠点の補給品を瞬時に取り寄せたりできるわけだ。


 荷物持ちとはいえ俺はこれでパーティをサポートできている。そういう自負があった。

 だが……


「物の位置を入れ替えるだけ。攻撃できるわけでも身を守れるわけでもない、わけわかんねースキルだよな、ホント」

 重装武器適正のスキルを持つ両手剣使いの戦士、ガブリルがため息をつく。重量のある武器を持つことで能力が上がるこの大男はパーティにおける攻撃の要だ。


「そうそう、他人に話すとみんな首傾げるわよ。それなんの役に立つんだ? ってね」

 長い赤髪の魔法使い、火属性魔法適正のスキルを持つマグラナがくすくすと笑う。


「いや、普段はアイテムの管理にしか使わないが、位置替えは攻撃も防御もサポートできて――」


「荷物持ちのくせに俺たちがサポートなしじゃ戦えない半人前だとでも言いたいのか!」


 できる限り穏便に言ったつもりだが、ガブリルは俺の反論を遮って怒鳴りつけた。


 店の客が一斉にこちらを見たのがわかった。恥ずかしかった。


 この様子じゃ説得は無理だ。ガブリルは完全に頭に血が昇っているし、マグラナも汚いものを見るような目でこちらを見ながら舌打ちしている。


 今回の失敗は俺のせいだと思っているんだ。


 この世界の各地にあるダンジョン、その攻略は冒険者の大きな役割だ。もちろん冒険者ギルドには他にも様々な依頼が持ち込まれるが、このパーティはダンジョンの攻略に力を入れていた。


 今日潜ったのはBランクのダンジョンだった。このパーティの実力だと少し危険かもしれない。俺はそう思っていたが、気合十分なハムスたちはひたすらダンジョンを突き進んだ。


 そしてトラップに引っかかった。

 トラップによって召喚されたデュラハンは、通常のモンスターよりも遥かに手強い相手だった。


 しかし、ハムスたちは止める暇もなくデュラハンに向かっていった。仕留めれば名を上げられると思ったんだろう。

 だが、彼らはデュラハンに全く歯が立たなかった。


 仕方ないので俺は前に出た。

 そして位置替えのスキルを駆使してどうにかこうにかパーティをデュラハンから逃すことに成功した。


 デュラハンを相手にしつつ三人を守り切るのは辛かったが、それでもほとんど無傷でみんな帰ってこられた。

 もちろん俺自身も。

 失敗ではあるが、デュラハンと遭遇するまでに入手した戦利品はいつものように位置替えで拠点の倉庫に送っていたので無事だった。


 得られたものは少なくない。何よりみんな助かったのだからいいだろう。


 俺はそう思っていたのだが、他のメンバーは違った。

 だからギルドに攻略失敗を報告した後、こうして追放を宣言されているのだった。


 位置替えは地味なスキルだ。

 それはわかっている。

 でも、あの人は、俺を育ててくれた師匠は、このスキルを褒めてくれた。


「このスキルで立派な冒険者になって、いつか俺に会いに来い」


 そう言われた時、俺は「はい」と答えたんだ。


 だが、冒険者にはなったものの、このスキルの価値を理解してくれるパーティはなかった。


 さっきマグラナが言ったように、スキルが「位置替え」だと説明しても、ほとんどの冒険者は首をかしげた。残りは聞き間違えたのかと思って聞き返してきた。


 そんな中、なんとか入れたのがこのパーティだったのだ。

 あくまで荷物持ち扱いなのはわかっていた。


 それでも、師匠と同じ冒険者の道を歩み出せたのは嬉しかった。パーティのために可能な限り頑張ったつもりだ。

 師匠に胸を張れる、立派な冒険者になれると信じて。


 ……師匠、俺のスキルは、本当にすごいものなんでしょうか。


 胸の内で問いかけたが、答えは返ってこない。


 リーダーのハムスが口を開く。


「もう一度言うぞ、俺たちは――」

「エリンシア、お前を追放する!」


 その声は、酒場の隅のテーブルから聞こえた。

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