Case 2-17.Milky way

 依頼人への結果報告を行う場所は、決まって部室。けれど、今日は違った。


「悪いな。こんなとこまで来てもらって」


 放課後の遅めの時間。俺と部長、そして高座たかくらが向かっているのは、学校敷地の隅――桜の木の下。三度訪れることとなった場所。


「それはいいんだけど……この先に何かあるの?」

「ま、着いてからのお楽しみってことで」


 どうやら、天川あまかわ先輩がいつもの場所でスケッチをしていることを高座は知らないらしい。


「それ、私も楽しみにしていいのかしら?」


 後ろを歩く部長が、小声で訊いてくる。


「……いいですよ。それはそうと、ありがとうございます、俺に任せてくれて」

「気にしなくていいわ。晴人くんがどうやって諦めさせるのか、私も気になるところだから」


 部長には、今回の結果報告を俺に一任してくれとだけ言ってある。


「言っておきますけど」


 部長はきっと、俺が高座にきれいさっぱり諦めさせるのを期待しているのだろう。だけど。


「俺はただ諦めるだけの結末なんて、させませんから」

「……そう」


 ほどなくして俺たちは草むらを抜ける。桜の木が一本だけ立つその場所に。空も、地面も、木の葉も、辺りのものすべてがまるで自分の色を忘れたみたいにオレンジ一色。今まで来た時とは全く異なる姿を見せていた。


「こんなところ、あったんだ」


 目を丸くする高座。俺の隣に立った部長も、静かにこの景色を眺めている。


「高座。結果報告の前に、会ってほしい人がいるんだ。そのために、ここに来てもらった」

宵山よいやま君……?」


 眉を寄せた部長が俺の方を向こうとしたその途中、その動きは停止した。

 桜の木の下。俺たちの方に向かって伸びる大きな影の中を見て。


 そこにたたずむ、もう一人の美術部員の姿に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る