Case 2-15.Vega and Altair

 今夜は晴れる、との予報だったので、俺は自宅のベランダに出て星を見ることにした。


 予報どおり頭上には満天の星空が広がっている。近所の家の明かりがあるので、春休みに学校の屋上で見たほどではないが、有名どころの星々は肉眼でも確認できた。

 真っ先に目につくのはやはり、デネブ、アルタイル、ベガ。夏の大三角。


 そういえばもうすぐ七夕だったっけ。アルタイルの彦星と、ベガの織姫が、年に一度だけ逢うことを許される日。

 離れた場所にいる二人は、逢うこともままならない。そこまで考えてふと、美術部の二人――高座たかくら北斗ほくと天川あまかわなぎさのことが頭に浮かんだ。


『天川さん、来月からフランスへ留学に行くのよ』


 昼間に聞いた七海ななみ先生の言葉がよみがえる。もうじき二人の距離は、海を越えてしまう。織姫と彦星のように。


 聞けば、留学は留学でも、美術留学らしい。向こうの美術専門の学校からぜひ来ないかと。あれだけの絵を描く才能があるのだ。そういう話になってもおかしくはない。


 部長は、どうするつもりなんだろうか。

 依頼完遂期限の一週間まであと二日しかない。おそらく七海先生から聞いた事実を、高座に伝えて、受け入れさせる。依頼した時、高座は天川先輩の意思を尊重したいと言っていた。なのできっと、彼は受け入れるだろう。だけど、それでいいのだろうか。


 その時点で高座は、諦める。天川先輩の退部を。美術部の廃部を。


 俺は、それでいいのか。高座が諦めるのを、部長が諦めさせるのを、ただ黙って隣で見ているだけでいいのか。桜庭先輩の時みたいに。


 俺にできること。確かめなければいけないこと。


 再び、空を見上げる。


 こと座で一際明るく輝く星が、瞬いた。

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