ハッピーバレンタイン!?
『ぱぱ!はっぴーばれんたいん!』
幼い日、パパに渡した小さな花束と少し歪な形のクッキー。
チョコレートは高級品で、当時の私にはとても手に入らない代物だった。
だから、ママと一緒に作ったクッキーとママが庭で摘んできてくれた花束を綺麗にまとめて、できる限りの大好きの気持ちを込めて渡した。
受け取ったパパは、滂沱の涙を流し『ツェツィが作ってくれたクッキー!家宝にする!』と馬鹿な事を言い出したので『くさっちゃうからたべて!』と叱ったのは懐かしい思い出。
『はっぴーばれんたいん、おとうさま!』
お義父様の養子になり、初めてのバレンタイン。
お義父様は『ハッピーバレンタイン…?』と不思議そうな顔をしながらも、嬉しそうに手紙とチョコレートを受け取ってくれた。
勿論パパとヨシュアにも手紙とチョコレート、ヨシュアも食べられるお菓子を送った。
お義父様は翌日にお返しをしてくれたが、私は得意気に『ばれんたいんのおかえしは、つぎのつきのおなじひにするんですよ!』と語った覚えがある。
大人なお義父様は『そうか、それは無作法だったな』と苦笑して、翌年からはきちんとそれを守ってくれた。
パパは当然それを覚えてくれていて、翌日の同じ日……つまりホワイトデーには読むのが大変な程の手紙と、ヨシュアの手形が送られてきた。
手形を取ろうとして、ヨシュアが握りしめてしまったのであろう、紙についたシワも愛おしかった。
「ハッピーバレンタイン、レオン」
「ありがとう、ツェリ」
そして、今。
私は最愛の人に愛を伝えるべくチョコレートを差し出し、レオンが受け取ろうとしたところで……サッと箱を体の後ろに隠してしまった。
貰えると思っていたチョコレートが隠され、当然のことながらレオンはキョトン顔だ。
「え?……ツェリ?」
キョトン顔から段々と悲しげな表情になるレオンを見て、内心焦りまくる。
だがしかし!やっぱりこのチョコレートをこんな美しいレオンに食べさせるのはダメだと思うのよ!
何を隠そう、今回のチョコレートは私の手作りなのである。
初めて1人で作ったチョコレート(1人と言っても傍にはエミールとフランチェスカがいたのだけど)、作りたての時はそれなりに良い出来栄えになったと自画自賛してた。
けど、いざバレンタイン当日になってラッピングをしていたら、なんか見栄えが良くない!という事に気が付いてしまった。
なんで作りたての時は良い出来栄えだなんて思ったのかしら……チョコレートハイってやつ?
とにもかくにも、美しいレオンにあんな不出来なチョコレートを渡すなんて罪なことをしてはだめよ、ツェツィーリエ!
「その、このチョコレートはあまり出来が良くなかったので……また後日作り直し……って、あっ!」
「このチョコレート、ツェリが作ったの? 」
「うぅ……はい」
私が作ったチョコレートだと言った途端、背後にサッと回ったレオンに、呆気なくチョコレートの箱を奪われてしまう。
そして無情にも蓋を開け、しげしげとチョコレートを眺めるレオン。
やめて!私のライフはもうゼロよ!これ以上追い打ちをかけないで!
「すごいね、ツェリは」
「え?」
予想外の褒め言葉に思わず顔を上げると、パクッと私の作った歪な形のチョコレートを口に入れるレオン。
あぁぁぁ、神のごとき造詣のレオンが私の作った不出来なチョコレートを食べたァ……。
絶望にも似た感情に支配されている私に。
「うん、美味しい」
ニコッと微笑んだ後、唇に付いたココアパウダーをペロリと舌で舐めとるレオン。
あまり行儀が良いとは言えないが、ひとつ言わせてくれ。
色っぽい!何これ、すっごい色っぽい!私今のにいくら払えばいい!?え、タダでいいの!?婚約者だから!?婚約者バンザーイ!!!
脳内で軽くぶっ壊れている私に、レオンは言う。
「ねぇ、ツェリ。これは僕の我儘だけど、これからはツェリの作ったものは僕に必ず食べさせてね?」
少し甘えたな表情を見せながらも、その裏に独占欲を滲ませるレオンに、私はもうどっぷりと沼にハマっているのを自覚しました。
ハッピーバレンタイン!!!!
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