第84話 愛玩人形 side レオナード

※直接的な描写はありませんが、同性同士の性行為に関する言葉があります。

タグやキーワードには含まれておりませんでしたので、一応念の為注意喚起を。

『※』以降の話がそれにあたります。











「雪の一族のあの3人、レオ殿下の味方で本当に良かったっす」


 雪の一族の要望を叶えると約束し、彼らが満足して退出した後、傍に控えていたルードが思わずといった様子で漏らし、それにズッカーとルーゴンが頷いて同意している。


「何故ですか?」


 リーフがルードに疑問をぶつける。


「あの3人、何と言うか……凄く自然体で。見た所、対人戦は慣れてなさそうだったが、3人が連携をとって襲いかかってきたら、防ぎきれたか自信が無い」


 その言葉に背筋がゾッとした。そんなに強かったのか、あの3人。失礼な話ではあるが、僕の事を見る目が忠誠心に溢れていたのに加え、狼の毛皮のイメージもあり、3人の事は途中から忠犬にしか見えていなかった。


「ですがあの忠誠心の高さ、そう簡単に裏切るようなものではない気がしますけどね」


 リーフの言葉に頷きながら。


「確かに、今の段階での私に対する忠誠心は本物だろう。だが、彼らの文化を知らない以上、何が禁忌になるのかは不明だ。忠誠心の高い理由が分からないまま、それに胡座をかいていては、いつかきっと破綻する。彼らが強いと分かった以上、より気を引き締めて相互理解に望まねばな 」


「そうですね、しかしそれにしても興味深い文化でしたね!雪の一族の正しい文化には初めて出会いました!ですが、以前からこの国にいる一族には………………」


 リーフは知識欲が大いに刺激されたらしく、話が止まらない。僕はルードを生贄に差し出し、先程までいた、3人の願いについて考えていた。




 ※




「わたシ達のスむ北の大地、とてもサむい。厳シい環境。だから子ども産むの、時期選ぶ」


「特に寒い時期には産めないと言う事か?」


「ソう。だけどわたシ達、日々戦ってお肉得てまス。戦うと身体熱くなる、1人だと辛くなる」


「わたシ達、セい欲強い」


 その言葉を聞いた瞬間、飲んでいた紅茶を吹き出すかと思ったが、王族のプライドで何とかこらえた。


「一説によりますと、命が危険に晒されると本能的に子孫を残そうとして、性欲を高めると言われております、興味深いですね、レオ殿下!」


 やめろリーフ、お前はキラキラした眼で何を言っているんだ。


「ソうなのか、サすが王のソっきんの方、物シり」


 3人はふむふむと興味深そうに頷いている。


「それで?その性欲が強い事と、私への願い、どう関係しているんだ?」


「わたシ達のセいよくのスべてを、受け止めるのか弱い女の人じゃ無理。身体頑丈な男の人がいいでス」


「わたシ達、いつもギンにいい人シょうかいシてもらってる」


「ギン?貧民街に住むあのギンか?」


 思わぬ名を聞いて、口を挟んでしまう。


「王もシってる?」


「知っているが、お前達よくギンと交渉できたな、アイツと取引するのは高いだろう?」


 3人はキョトンとした表情を浮かべる。待て、何だその表情は。


「ギン、サいシょ見た時【姫】にピッタリだと思った。だからいっぱい口説いたけど、ダメだって断られて、ソれからは代わりに人シょうかいシてくれた」


 話が何となく掴めた。ギンはその【姫】になるのが嫌で、自分の代わりに別の人間を差し出していたのだろう。金を取れば自分の身が危ないから、無料で。今度会う時にはこのネタでからかってやろう。


「【姫】というのは、お前達の性欲を受け止める者の事か?」


「ソう。わたシ達の勝手で連れていく、とても大事にスる、だから【姫】」


「なるほどな。大方ギンには、私の元に行けば美しい【姫】を紹介してもらえると言われたのだろう?」


「スごい!ソの通りでス!王スばらシい!!」


「確かに心当たりはある。だが奴は間違いなく抵抗するし、お前達に暴言も吐くだろう、それでも構わないか?」


「?ソれの何が問題ある?」


 心底不思議そうに聞き返され、言葉に詰まった。


「わたシ達【姫】に何言われても気にシない」


 その時気が付いた。彼らにとって【姫】とは、大事にし愛でる為だけの、愛玩人形なのだと。人形だから、何を言っても何をしても、彼らの心には響かない。



「私の弟、アルバートを【姫】として受け入れるつもりはあるか?」


 僕の言葉に、3人は動揺しているようだった。それもそうだろう、いきなり王族を差し出されるとは思ってもみなかっただろうから。


「詳細は言えないが、アルバートは罪を犯した。そして私からの条件はただ1つ、アルバートをお前達の元から逃がさない事。それとも、犯罪者は【姫】としては受け入れられないか?」


 真剣な顔で僕の話を聞いていた3人は、その言葉に首を振る。


「わたシ達の元に【姫】とシて来る男、皆訳あり。皆、心いっぱい傷ついてる。だからわたシ達、愛スる。いっぱいいっぱい愛スる」


「でもソれでも、駄目な人もいる。王の弟君がソうなるかも。ソれでも大丈夫でス?」


「アルバートに関する全ての責任は、私が負う。どうかアイツを頼む」


「【氷の王】の為、心をササげまス」



 現在、牢に入れられているアルバートは、今なお自分の罪を認めず、僕のせいだと喚き散らしているらしい。


 クローヴとギンの働きにより明らかになった、か弱い女性の身体を無理矢理暴いた罪。

 アルバートは、あまりに愚かな人間だった。人の恋人、婚約者にちょっかいをかけては、その女性が振り向いたらそこで終わり。振り向かなければ、無理矢理にでも自分のものにするという【遊び】をしていたのだ。

 輝かんばかりの美貌を持っていたから、無理矢理ものにされた女性が少なかった事は、不幸中の幸いと言えるかもしれない。最も、その少ない、だが確かにいる被害者の様子を聞くと、とても幸いなどと言えたものではないが。



 コツコツと、階段を一段一段降りて行く。アルバートの牢の前に立つが、彼は少し薄汚れた姿で眠りについていた。構わず話し掛ける。


「アルバート、お前はこれから人形として生きていく。だが、お前が彼女達にした仕打ちより、随分と恵まれている。雪の一族の彼らは、お前を愛すると言っていたからな。だが忘れるな、お前はあくまで愛玩人形だ。お前の発する言葉は何1つ、彼らに届くことは無い。兄としての、最後の願いだ。絶望することなく、元気で暮らせよ」


 僕がいると興奮状態になり、手が付けられなくなるから、雪の一族に引き渡す時も、僕はその場にいられない。

 これがアルバートの姿を見る最後。大きな身体を胎児のように丸め、小さくなって眠るアルバートの姿を、僕は目に焼き付けるようにただ見つめた。

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