第83話 雪の一族と氷の王 side レオナード
『1年の内、僅かの間しか実りの時期がない、雪と氷に覆われた北の大地。そこに古くから住む狩猟民族を【雪の一族】と言い、かの一族を統べる者を【氷の王】と呼びます』
幼い頃に家庭教師から聞かされた、北の大地に住まう一族の説明を、僕は思い出していた。
というのも、両親の罪を明らかにした日から、少しの日にちが経った頃。僕に面会を求める手紙が届いたからだ。【雪の一族】の代表を名乗る者から。
僕はまだ、両親を裁き、罪を償わせる為に【東の鉱山】と【白の修道院】へ、それぞれ向かわせる事を、国内に正式に発表はしていない。それなのに、何故。当然、どこからか漏れたと考えるのが普通だが、それにしては違和感がある。
ひとまず面会してみようと返事をしたため、面会当日となった。
部屋に入って来た、筋肉質で醜い身体をした男3人は、僕の姿を見ると少し固まった。そして、僕も少し固まる。何故3人は、狼の毛皮を被っているのだろうか。
顔は見えるものの、頭には狼の顔が乗っており、その毛皮はマントのように背中側まで続いている。さて、どうしたものか。狼の毛皮を被る風習があるなんて聞いてないぞ!と内心家庭教師を責めながら、僕は冷静に務める。
「お初にお目にかかる、私はレオナード・フォン・ギースベルトだ」
埒が明かないので自己紹介をしてみたが、男達は互いに顔を見合せ、何やら相談をし始めた。いや待て、まずは挨拶を返せ。そんな僕の内心のツッコミを感じ取ったのか、男達は頭から被っていた狼の毛皮を脱ぐと、ようやく言葉を発した。
「はじめまシて。わたシは、ロロ」
「タタと申シまス」
「ネネいいまス」
さ行の発音が苦手なのか、空気が抜けるような独特の発音で、彼らは挨拶を返してくれる。だが私はそれよりも、狼の毛皮を脱ぎ、顕になったその髪色に驚いた。3人とも僕と同じ、銀の髪をしていたからだ。目の色は僕とは違い、緑、茶色、青とバラバラだったが。
「この髪色、驚きまシたか?」
「わたシ達の一族、これ普通」
「でも、この髪色は醜い。だから、狼の毛皮で隠シてまシた」
「あぁ、なるほど。お気遣い感謝する。毛皮を脱いだのは、私が同じ髪色をしていたからか?」
3人はまた顔を見合わせる。
「ソれもある。でも、1番の理由はレオナード殿下が【氷の王】だから」
「ソう。【氷の王】の前で被り物は無礼。だから脱いだ」
「うん?いや少し待ってくれ、私は貴方達【雪の一族】ではないぞ?」
「【雪の一族】でない事と【氷の王】ではない事、関係ない」
お互い、頭の上には疑問符が飛び交っていた事だろう。文化の認識の違いが、事態を混乱させている。傍に控えるリーフが何か知らないかと目線をやるが、駄目だ。目をキラキラさせながらメモを取っている。未知の文化を目の前にして、知識欲が抑えきれていない。
仕方が無いので、彼ら3人と根気強く会話を重ねていき、僕は新たな事実を知ることとなる。
【雪の一族】は北の大地に古くから住む狩猟民族の事を指す。これは家庭教師の言った通りであった。彼らも間違いないと頷いていた。
問題の【氷の王】これに関してだが【雪の一族】を統べる者、というのは厳密に言うと正しくなかった。
【氷の王】になる条件は銀髪で金の目を持っていること、それだけ。そして【氷の王】の条件を満たす者に【雪の一族】は無条件で従うのだという。
つまり【雪の一族】を統べる者が【氷の王】を名乗れるのではなく【氷の王】の条件を満たす者が【雪の一族】を統べることができるのだ。
思い返せば、彼らが面会を求める際の手紙にも【雪の一族】の代表とは書かれていたが【氷の王】とは一言も書かれていなかった。
そして、彼らが僕を【氷の王】と呼んだように、僕は銀髪で金の目を持っている。彼らが最初、すぐ挨拶を返せなかったのも【氷の王】に出会った事による驚きからだという。
「わたシ、今まで一族おサめてきた。でも、【氷の王】見つかったから、全部お譲り。わたシ達、貴方サまに心ササげまス」
心を捧げると言うのは、彼らの文化での忠誠の誓い方。そしてロロが私に一族の統治権を委ねてくるが、正直文化の違う一族を治めるには、私の器がまだ足りない。
「分かった、その心は有難く受け取ろう。だがロロ、しばらくは私の代わりに、今まで通り一族を治めてくれ」
「なんででス?わたシ達、王に認められない?」
「いや、それは違う。今の私には、お前たち【雪の一族】の知識が圧倒的に足りない。だからロロ、タタ、ネネ。お前達に一族の事を教えて欲しい」
3人の名前を呼ぶと、彼らが背筋をピンと正すのが分かった。
「わたシ達、王におシえる事できる?」
「できるとも。そして、お前達一族の事をきちんと知れた暁には、お前達の【氷の王】になると誓おう」
そう言うと、ワッと3人は声を上げて喜んだ。
「ロロ。お前には今まで通り一族を治めてもらうが、先程お前達の心は受け取った。だから、何か困った事があるなら私を頼るがいい」
そう言った私に、ロロ達は恐る恐ると言った様子で話し始めた。
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