第70話 隣の芝生は青い side レオナード
「ツェツィを狙う人物がいることを話し、届いていた大量の手紙も渡しましたよ。」
そう報告してくるフィリップスの端正な顔を眺める。僕もこれだけの美貌を持って生まれていれば、ツェリに手出しをする男など現れなかっただろうか。醜い容姿だというのは自覚しているし、恐らくツェリを狙う男共も、僕相手だと勝てると踏んでいるのだろう。
「レオナード殿下、私の顔に何か?」
「いや、何でもない。ツェリの件は了解した」
フィリップスのような美貌に憧れはあるが、ツェリは今の僕の容姿を含めて愛してくれている。それを否定するのはツェリにも失礼というものだろう。
「第二王子殿下に関してはいかがなさいましょう?」
「ツェリに対する執着が凄まじいだけで、今の段階では何もしていないからな。こちらが行動を起こす事は出来ない。だが、今共にいる輩はかなり厄介だ、問題を起こすのも時間の問題だろう」
「そうですね……残念な事ですが」
「あぁ、だがその道を選んだのはアルバート自身だ。私と違い、アイツの周りには想ってくれる沢山の人間がいたのに。その優しい手を振りほどいて、楽な道に逃げたのはアルバートなんだよ」
僕は1つため息をつき。
「だが、アイツの兄として、もっと何かしてやれなかったのかとは思う。最も、醜いと見下している私の言う事を聞くとは思えんがな」
「第二王子殿下と話し合いを致しますか?」
「何度も手紙で話し合いを打診しているのだが、梨の礫だな。だが、少しでも可能性があるのなら、私は諦めずに手紙を送ろうと思っている。あんな奴でも、たった1人の弟なんだ」
為政者になる身としては、僕は甘過ぎるのかも知れない。例え親族であろうと、国に害を為す者は排除すべき事も分かっている。身内に甘い顔をするようでは、いずれこの国は腐敗してしまう事も。
「良いのではないですか?問題を起こした際には切り捨てる覚悟も出来ているのでしょう?なら、まだ救えるかも知れない者を見捨てないというのも、王に必要な資質かと思われます」
差し出がましい真似を申し訳ありません、と謝るフィリップスに、少し救われた気がした。
「ありがとう、私は良い臣下を持ったようだ。これからもよろしく頼む」
「勿体無いお言葉です。これからも誠心誠意仕える所存です」
「あぁ。ところで話は変わるが、父上の件は事実か?」
「えぇ、誠に残念ながら事実のようです。今は、それを裏付ける証拠をまとめている最中のようです」
「そうか……何故父上は……、いや、今考えても仕方がないことだな」
その場に重苦しい沈黙が流れる。
「父上には、お祖母様のように傍に愛してくれている人がいるのに、何故気が付かないのだろうか……」
ポツリ、と疑問が口から零れ出る。
「人の中は、傍にある愛に気が付かずに、隣の愛の方が大きいと思い、狡いと妬んでしまう、どうしようも無い者がいるのですよ、レオナード殿下」
「父上は、まるで子どものようだな。自分のした事の責任を負わず、他人のせいにばかりして。自分の持っている物の大切さにも気が付かず、隣の物を羨んで。国王として、いや、人としても余りに未熟では無いだろうか」
「不敬にあたりますので、私の口からは何とも。ですが、レオナード殿下の仰る事は概ね正しいかと」
「そうか、そうだな。父上の犯した罪は消えない。その身で償ってもらわなくては」
僕は少し顔を伏せる。父親の余りの愚かさに、失望が隠しきれない。何故、そんなにも道を踏み外してしまったのか。
「この話は以上で終わりだ。他に何か報告すべき物はあるか?」
「はい、ツェツィから王太后陛下の手紙を預かっております。レオナード殿下宛に」
「私にか?」
驚いて、目をパチクリさせる。お祖母様が一体僕に何の用だろうか、何か粗相をしてしまった?驚いた後、不安が顔に出ていたのだろう、フィリップスは続ける。
「ツェツィの話から聞く王太后陛下から察するに、その手紙の内容も悪くないものではないかと。当然の事ながら、中身は見ておりませんので、予想ですが」
「分かった。ご苦労だった、フィリップス。ツェリにも礼を伝えておいてくれ」
「はい。では、私はこれで失礼致します」
「あぁ」
フィリップスが去ってしばらくしてから、覚悟が決まったので手紙を開封することにした。唯一の味方だと思われる親族のお祖母様。もし、そんな彼女から拒絶の手紙が来たら、僕はしばらくの間立ち直れないだろう。
フィリップスはああ言ったが、僕は万が一に備えてどんな内容がきても大丈夫なように、覚悟を決めたのだ。
開封した手紙には、僕の予想とは違うものの、精神力をゴリゴリと削られるような内容が書いてあった。
お祖母様の手紙には、ツェリとのこんな事をした、あんな事をしたというような、楽しい日々が綴られており、その中には僕の恥ずかしい一面も書かれていた。
ツェリから、お祖母様に惚気話をしているとは聞いていたが、まさかそこまで話しているだなんて!ツェリ、君は何て事をしてくれているんだ!
ツェリを内心責めながらも、お祖母様の手紙に綴られた僕の惚気からは、ツェリが心底僕に惚れ込んでいる事が伝わってきて、ニヤニヤと赤面が止まらない。こんな顔、不気味すぎて誰にも見せられやしない。
お祖母様の手紙の最後には『レオナード、ツェツィーリエちゃんからこんなに愛されている貴方に会ってみたいわ』という文面が記されていて、僕は恥ずかしい気持ちはありながらも、お祖母様に会う事にするのだった。
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