第69話 手紙
「ツェツィ、これはデビュタント後、お前宛に届いた手紙の全てだ」
ある日、お義父さまに呼び出され手紙の束を渡された。
「え、これ全部ですか?」
驚くべき数のそれは、全て私宛なのだと言う。だが、この量は1日や2日で届いた量では無いだろう。何故このタイミングで?
「それは全て、お前への求婚だったり、デートの誘いの手紙だ」
「え!?これ全てですか?」
「そうだ。伝えていなかったが、ツェツィがデビュタントに出てから、ツェツィの事を狙って屋敷に不法侵入した者が7人、危険物を送った者が14人いる」
私はゾッとした。そんなに多くの人が私を狙っていただなんて。私に知らせなかったのは、恐らく私を気遣っての事だと思うが、それにしても恐ろしい。
「今までは、護衛の数を増やしたり情報収集したりして、予め防げる事が出来ると判断したから、ツェツィには伝えなかった。だが、事情が変わってきてな。第二王子殿下の噂は知っているか?」
「はい。何処までが本当か分かりませんが、あまり良くない方々と行動を共にするようになったと噂で……」
「その噂は概ね事実だ。そして、第二王子殿下はツェツィ、お前の事を諦めず、しつこく付け狙っている。今までは何とか防げたが、それなりに影響力を持っている第二王子殿下だ。ツェツィ自身も用心するに越したことはないと思い、警告の意味も込めて、この手紙を渡す。」
「そんなに事態は深刻なのですか?」
「そうだな、第二王子殿下はいつ何をしてもおかしくない状況だ。その手紙を読む読まないはツェツィの自由だが、それだけの数の男がツェツィを手に入れようとしている事は覚えておいてくれ。」
「分かりましたわ」
「あぁ、それから危険物が入っていないか判断する為に、今手紙は1度開封してある。許せ。その手紙は危険は無いものだから安心しろ」
「危険物……ですか?」
「具体的には聞かない方がいい」
お義父さまが苦虫を噛み潰したような顔をするので、よっぽどの事なのだと思い、これ以上深く突っ込むのはやめた。
自室に戻り、1通手紙を開封してみる。
黒豚の君
貴女の事を思う度
私の胸は高鳴り
昂りが抑えきれない
貴女の全てを暴き
その無垢な身体に
そこまで読み、無言で破り捨てた。最初はただのポエムかと思ったが、とんでもなかった。うん、忘れよう。これは精神衛生上良くない。
しかし、これをお義父さまは危険ではないと判断した訳よね?では、それ以上の危険物って……駄目だ、考えるのは止めよう。きっとパンドラの箱だ。
思考を切り替えて、2通目の手紙を開封する。
ツェツィーリエちゃんツェツィーリエちゃんツェツィーリエちゃんツェツィーリエちゃんツェツィーリエちゃんツェツィーリエちゃんツェツィーリエちゃん………………
延々と続く私の名前が書かれた手紙。即座にビリビリに破り捨てた。何これ!?何の呪いの手紙よ!え、なに?私に好意を寄せる人ってマトモな人がいないの?
いや、それだとレオンもマトモでない事になってしまう。前言撤回。
あぁでも、レオンという婚約者がいるのに求婚したりデートを申し込んだりする人がマトモである訳がないか。納得。
それから私は、精神をゴリゴリと削られながら手紙を読み進めていった。当然の事ながら、中には『レオンという婚約者がいるのは分かっているが、どうしようもなく惹かれてしまっている。気持ちを伝える事だけは許して欲しい』というようなマトモな物もあった。
だが、お義父さまに返事を書こうと思っている事を伝えると。
「止めておけ。その手紙の奴も本心では何を思っているか分からない。下手に返事を書いて勘違いさせてしまったらどうする。そういう輩は無視するのが1番だ」
と言われ、なるほど一理あると思ったので、若干良心は咎めたが返事を書くことはやめた。
しかし、第二王子殿下は着実に道を踏み外していっているような気がしてならない。怖いのと同時に、心配でもある。特に、王太后陛下の話を聞いてからは尚更。
だけど結局、生き方を決めるのは自分自身で、その責任も本人が負わなくてはならない。父親から愛されず、恵まれない環境にいるのは確かに可哀想ではあるが、それを言うならレオンの方がもっと悲惨な環境にいた。けれど、レオンは王になるという目標を支えに、折れずに真っ直ぐ育ってきた。
環境のせいにだけするのは楽だが、それでは何も解決しない。第二王子殿下がいつかそれに気付いてくれる日がくればいいのだが。
私は祈るように思った。
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